第一生命経済研究所首席エコノミスト・熊野英生氏の提言「トランプ再選リスク」

11月5日に米大統領選挙が行われる。今、トランプ候補の優勢が伝えられる。バイデン大統領は選挙戦を撤退した。「もしもトランプ大統領が就任すると、日本はどうなるのか?」という問題が、より現実味を増しているということだ。

 こう言うと、「日米同盟の強固な関係は変わらない」とか、「トランプは2017~2021年まで大統領をやったから心配ない」と反応する人もいるだろう。果たして、以前と同じだから大丈夫と楽観的に考えてよいのだろうか。

 まず、ウクライナ戦争が起こり、各国の軍事費が増えている。トランプ候補が求める同盟国の経済的負担は、より大きくなると予想される。そして、ウクライナ支援を米国が止める、あるいは大幅に減額したときはウクライナが劣勢になり、間接的にロシアを利する。国際秩序の危機は2022~2024年にかけて格段に高まった。米国が自国だけ第一主義を採り、国際秩序に無関心になれば、ロシア・中国に対する牽制効果が弱まる。筆者は、外交上の失敗を警戒する。

 もう1つ、22年以降の変化はインフレである。トランプ候補はインフレを問題視するが、彼が掲げる様々な政策メニューがインフレ誘導あるいはインフレ促進につながりやすい。以前よりも、インフレ・リスクは高まっていると言ってよい。例えば、トランプ候補は「就任初日にEVの推進を終わらせる」と公言している。また、化石燃料分野での規制緩和で価格を引き下げると言っている。もしも、ガソリン車が普及して、多くの消費者が化石燃料を使い始めると、エネルギー価格は上がるだろう。

 ここ数年は、地球温暖化による世界的な異常気象によって、干ばつや水害が頻発するようになった。これは食糧生産にとっては供給を不安定化して、価格高騰が起きやすい素地をつくっている。筆者などは脱炭素化をより加速しなくてはいけないと感じるが、トランプ候補はこの数年間の地球環境の変化に驚くほどに鈍感である。

 さらに言えば、トランプ候補の経済政策は、財政拡張に寛容であり、FRB(米連邦準備制度理事会)はなるべく低金利である方が良いと考えている。本人はインフレを望んでいないと言っても、結果的にインフレになりやすくなる。

 そうなると、FRBが25年になると利下げを進めにくくなる。米長期金利は高止まりしてしまう。米国のドルには資金が集まりやすく、ドル高円安傾向になる。

 日本にとって、円安基調は輸入物価が上がり、食料、エネルギーの価格高騰をもたらす。

 そのほかにも、トランプ候補は各国に一律関税をかけることを提唱する。関税率が10%になれば、輸入価格も10%上がる。日本の食料品などにもコスト上昇要因になる。

 いずれにしても、トランプ候補が再び大統領になることを筆者は警戒している。