電力シェアリング、全国の地産商品を販売する実験ECサイト「つなぐ市場」開設 環境省「デコ活」ナッジ実証事業で

電力シェアリングはこのほど、環境省の委託を受け実施している脱炭素商品の普及を図る「デコ活」ナッジ実証事業において、実験用プラットフォーム「つなぐ市場(略称ツナイチ)」を2024年10月に開設すると発表した。同プラットフォームを用い、全国の脱炭素商品やサービスを販売する実験を実施する。

電力シェアリングは、脱炭素商品の普及を図る「デコ活」ナッジ実証事業を環境省の委託を受けて実施している。

「デコ活」とは、「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」の愛称であり、二酸化炭素(CO₂)を減らす(DE)脱炭素(Decarbonization)と、環境に良いエコ(Eco)を含む"デコ"と、活動・生活を組み合わせた新しい言葉となる。

環境省では、こうした脱炭素への取り組みへの市民の自発的な参画を促すために、ナッジ(nudge:そっと後押しする)や、ブースト(boost:ぐっと後押しする)を始めとする行動科学の知見を活用し、ライフスタイルの自発的な変革を創出する新たな政策手法を検証するナッジ実証事を推進している。

環境省ナッジ実証事業を受託している電力シェアリングでは、地産地消や旬産旬消、再エネを利用した栽培等生産時や、輸送時におけるエネルギー起源CO2排出量削減に資する農産品、食品・日用品等の商品や、ツアー・宿泊なども含めたサービスの販売を促進するナッジモデルを構築し、実証実験を実施するとし、全国の自治体や事業者の協力を得て、既に各地で販売実験を開始している。

さらに2024年10月には、その実験用プラットフォームとして、実験ECサイト「つなぐ市場(略称:ツナイチ)」を開設する。「つなぐ市場」の名称には、「地域の生産者と地域や都市部の消費者をつなぐ」「生産・流通・販売事業と消費者をつなぐ」「地域内の市民同士をつなぐ」「地域同士をつなぐ」といった意味が込められている。

さまざまなナッジ手法の効果の検証のための実験を多数・連続的・跛行的に実施できる機能を持つ実験ECサイトの構築が目的で、脱炭素商品にグリーン・ライセンスシール(脱炭素化されていることを示す自社サービス)を貼り販売する手法などを用いた実験を行う。

本サイトでは、コンテンツ マネジメント システム(CMS)を導入し、小規模な生産・流通・販売事業者が、ナッジやマーケティングの専門知識が十分になくても、ノーコードで上記の各種ナッジ手法・効果検証手法・先行実験結果のビッグデータにアクセスし、マーケティング(市場調査と販売促進)実験を繰り返し実施し、持続可能性を高めるような機能を付加することを目指している。

電力シェアリングは、国の地産商品の生産販売者が、有効なナッジ手法に関する情報や、他の商品での活用実績に関するデータベースにアクセスし、自社製品の販売実験を簡単・低コストで行える販売実験プラットフォームが必要であるとし、第1の問題として「全ての生産者が、カリスマ・インフルエンサーとは限らない」、第2の問題として「個人事業者には、プラットフォーマーの手数料負担が重荷」という問題を挙げた。

第1の問題については、農家等の小規模生産者が商品の写真や商品情報をアップロードし、消費者に直接リーチして販売する直販型ECサイトが増えているが、自身で売れる商品を企画し、消費者に響くコンテンツを作り、大きな商流を作ることのできるカリスマ性と実行力を持ったインフルエンサー事業者は全体の一握りだとの考えを示した。

多くの農家や生産者は、真っ当な商品を作ることはできても、マーケティングに関する能力や、事業コストとリスクを客観的に判断できる経営力と、営業努力を惜しまない不屈の忍耐力を持ち合わせているとは限ない。D2Cの商流1本に舵を切るということは、これまでの農協・市場経由の流通ルートを断ち切ることを意味し、コミュニティの中で独立する決断をするのは覚悟が必要となる。

例えば、全国D2Cサイトのトップランカーである長野県のカリスマ農家に電力シェアリングがインタビューしたところ、毎日100件以上の注文があり、その1つ1つに手書きのお礼状を書いて発送している。毎日数時間の労力がかかるが、ある意味ファンサービスなので、苦にならないという。馴染みの顧客1人ひとりの顔を浮かべて手紙を書き続けることは、普通の人にはなかなかできないが、こうした努力がありトップランキングを維持できるという現実を垣間見たとしている。

こうした状況を鑑み、トップランカーのカリスマ生産者でなくても、地域の中で真っ当な商品を作っている人が、営業活動にそれほどの力を注がなくても、簡単に販売訴求ができるようなツール、例えば、過去の他者の事例のリストから有望な事例(ナッジを用いた販売促進手法)を選択(あるいはAIによりレコメンデーション)し、それをノーコードで自身の商品に落とし込むような、簡便で低コストな仕組み(実店舗とECの両方で適用可能な仕組み)が必要であるとの考えを示した。

第2の問題については、以前、飲食店検索プラットフォームにおいて、所定の金額を支払わないと評価(星の数)が低く抑えられる、検索上位に掲示されないなどのケースが社会問題化し、法的論争にまで発展したこと挙げ、飲食店は個人経営が多く、大手に比べると広告宣伝に多額の出費をする余裕がない傾向があることを挙げた。

地産品のD2Cやクラウドファンディング、小規模自治体のふるさと納税等についても同様に、EC出品に関する大手プラットフォーマーへの支払い費用(出店料や営業アドバイザリー費用など)の負担が重荷となっているという声も各地での事業者インタビューで寄せられているとした。

一方で、変化の兆しもあり、例えば外食産業においてはGoogle検索の影響力が拡大し、飲食店からの広告収入や予約時の手数料収入で成り立つ飲食店検索プラットフォーマーに頼らなくても、個人店舗が地域の顧客に直接リーチできるようになっている。

ポストCOVID-19以降のインフレ基調の下での最近の傾向として、都市部の駅に近い全国チェーンの店舗では時給を上げてもバイトが集まらず、客単価も上げられないため、店舗運用や収益確保に苦労している話が多いとした。一方で、多少不便でもオーナーがこだわりの料理を提供する小規模な飲食店が増えていると感じるとの考えを示した。

外食業界では、「材料原価3割、人件費・店舗等費用が3割で粗利が4割」という「相場観」がある。オーナーシェフの経営する飲食店では、「美味しい料理をお客さんに食べてもらいたい」という気持ちでできるだけ原価率を上げることで「Googleマップ」で評判になり、高評価やコメントが付くことで、地図アプリでさらに人が集まってくる。結果として安定した利益を確保できるという好循環が実現できているケースが増えているように感じるとの見解を示した。

電力シェアリングでは、農産物の地産地消などにもこの飲食店でのモデル適用が可能ではないかとの考えを示し、全国ECプラットフォーマーに頼らずとも、真っ当な商品情報を真っ当にWebにアップロードし、それを継続することで、ECや実店舗で購買した顧客が、感想や星という評価情報を自発的に付け、他の消費者にも口コミで伝わっていく可能性があとの考えを示した。そこでいかに労力を最小化し、「真っ当な商品情報を真っ当にアップロードし商品できるか」、そのハードルを下げるためのプラットフォームとして、「つなぐ市場」の構築に至ったとしている。

「つなぐ市場」に来なければ販売も購入もできないというクローズド・モデルを指向しているわけではなく、むしろこのような真っ当な情報が、webの他のサイトに引用されていくためのデータの置き場所という役割が大きくなるものとしている。あるいは、「つなぐ市場」の中で他社のECサイトを紹介し、相互リンクも検討しているという。

その上で、できるだけオープン・低コストで、ナッジ手法や活動実績がシェアされていくようなマッチング・サイト(ナレッジシェアプラットフォーム)としての役割も追加できればとの考えを示した。