将来宇宙輸送システム(ISC)は8月14日、小型ロケットによる離着陸試験「ASCA hopper」ミッションに関するメディア説明会を開催した。同社が目指しているのは、再使用型ロケットの開発。まずは小型の試験機を使って打ち上げを繰り返し、着陸時の制御技術や、運用ノウハウなどを早期に獲得する狙いがある。

  • 一番左が「ASCA hopper」。まずは小型機で離着陸試験を行う

    一番左が「ASCA hopper」。まずは小型機で離着陸試験を行う (C)ISC

同社は創業わずか2年の宇宙スタートアップ。アジャイル型でスピード感のあるロケット開発をアピールしており、2028年までに、小型衛星打ち上げロケット「ASCA 1」を実用化することを目指す。同社代表取締役の畑田康二郎氏によれば、打ち上げ費用は5億円程度を想定。最終的には、7機以上の機体で年間100回を打ち上げる計画だ。

  • 将来宇宙輸送システム(ISC)代表取締役の畑田康二郎氏

    将来宇宙輸送システム(ISC)代表取締役の畑田康二郎氏

ASCA hopperはそれに向けた第一歩で、同社初の打ち上げ試験となる。機体の直径は約2m、高さは約4m。液体メタンと液体酸素を使う推力1トン級エンジンを搭載し、高度10m程度まで上昇した後、着陸させる。このときの飛行時間は、10秒ほどになる見込みだ。機体の重量は743kg(推進剤80kgを含む)。

  • ASCA hopperの機体概要

    ASCA hopperの機体概要 (C)ISC

ASCA hopperは、2024年1月より開発がスタート。わずか半年ほどで、エンジン単体燃焼試験までこぎ着けた。打ち上げ試験は年明け以降となる見込みだが、今後、アビオニクス結合試験(9月)、ロケットエンジン統合燃焼試験(10月)、着陸脚落下試験(12月)など、各種試験を順次実施していく予定だ。

  • インジェクタの単体試験。孔径と孔数を変えた4種類のインジェクタを製造

    インジェクタの単体試験。孔径と孔数を変えた4種類のインジェクタを製造 (C)ISC

  • サイドジェットの噴射試験。姿勢制御は窒素ガスのサイドジェットを使う

    サイドジェットの噴射試験。姿勢制御は窒素ガスのサイドジェットを使う (C)ISC

  • 着陸脚の単体試験

    着陸脚の単体試験。アルミハニカム材のダンパーで衝撃を吸収する (C)ISC

再使用型ロケットを開発するために、まず離着陸試験から始めることについて、畑田氏は「着陸フェーズは日本全体でもあまり実験できておらず、分からないことが多い。まずは、後半から頑張って練習しようという開発コンセプトだ。打ち上げの前半(地上から宇宙まで)はすでに成熟した技術があるので、それは外部から取り込む」と説明する。

  • 再使用型ロケットの各フェーズ

    再使用型ロケットの各フェーズ。同社はこの後半から開発をスタート (C)ISC

同社は内製にはこだわっておらず、国内外から積極的に技術を導入することで、開発を加速する方針。小型ロケット市場は、海外ではRocket Labの実績がすでに圧倒的で、日本にも先行するスタートアップがある。後発の同社としては、開発スピードは生き残りに絶対不可欠な要素であるとも言える。

  • 「ASCA」(飛鳥)という名前の由来

    「ASCA」(飛鳥)という名前には、技術導入への思いも込められている (C)ISC

参考:将来宇宙輸送システムの「ASCA-1」プロジェクト始動 - 開発加速へ米企業とも協業

小型とはいえ、実際に打ち上げて試すことには、大きな意義がある。特に注目したいのは、JALエンジニアリングの技術者が試験に加わっているということだ。同社が目指す高頻度の打ち上げのためには、航空機と同じようなメンテナンス性が不可欠になる。最初からJALエンジニアリングに参加してもらうことで、課題を抽出する狙いがある。

打ち上げ試験は、和歌山県串本町の山中で実施する予定。この場所を選んだ経緯について、畑田氏は「我々の地上システムは清水建設に協力してもらっているが、同社は射場の建設で串本と大きな繋がりがある。この高度なら法令的にはどこでも問題はないが、地元との調整もスムーズで、短期間で実施するには最適な場所だった」と述べた。

  • 各種試験はすでに開始済み

    各種試験はすでに和歌山県串本町の設備で開始されている