熊本大学は8月19日、素早い変異を繰り返す新型コロナウイルスにも対向可能な高感度に同時測定できる変異株診断ツール「Intelli-OVI」を開発したことを発表した。

同成果は、ヒトレトロウイルス学共同研究センター熊本大学キャンパスの佐藤賢文教授、東京都健康安全研究センター、熊本保健科学大学らの共同研究チームによるもの。詳細は、病気の予防に関する全般を扱う学術誌「Communications Medicine」に掲載された。

  • IntelliPlexによる多項目同時測定の原理

    IntelliPlexによる多項目同時測定の原理(出所:熊本大プレスリリースPDF)

新型コロナウイルス感染症は、新たな変異ウイルスの出現のたびに、世界的流行を繰り返してきた。最近では、ワクチン接種や感染自体による集団免疫の獲得などの要因から、感染流行当初に比べれば重症化する症例は減少している傾向にあるものの、ウイルスは今現在も進化を続けている状況にあり、変異ウイルスのモニタリングは同感染症制御において重要と考えられている。

これまでは、次世代シークエンスによりウイルス全ゲノム配列を決定し、流行している変異ウイルスが調べられてきたが、同検査は高コストかつ多くの時間と手間を要するため、世界的な検査数が著しく減少しているのが現状。そのような背景から、新型コロナ変異ウイルス対策、さらには次なるパンデミックへの備えのためにも、簡便かつ迅速な変異ウイルス検査法の開発が望まれているという。そこで研究チームは今回、新型コロナウイルスの既知および新規の変異を迅速かつ簡便に検出する方法の開発を試みることにしたとする。

今回開発されたIntelli-OVIは、台湾PlexBio社によって開発された高感度多項目同時測定システム「IntelliPlex」で得られた多項目データを解析し、既知または未知のさまざまな変異株を同時に同定するための計算アルゴリズム。IntelliPlexに用いられる試薬は、表面にIDパターンを刻印した磁気マイクロディスクに遺伝子測定用の「DNAプローブ」(特定のDNA配列に結合するように設計された検出子)を固定することで、検査対象の種類を特定し同時多項目測定を可能にする技術の「πCode法」と、蛍光測定技術を組み合わせたシステムだ。それにより、理論上サンプル中に含まれるおよそ100か所のウイルス変異配列を同時測定することを可能としている。

今回の研究では、新しい変異ウイルスの出現に応じてDNAプローブを追加・変更することによってIntelli-OVIをアップグレードすることが可能であり、最新版では35種類の異なるプローブを同時に使用し、20種類以上の新型コロナウイルス変異株を効率的に識別できることが実証された。

  • 今回開発されたIntelli-OVIによる変異ウイルスの特定

    今回開発されたIntelli-OVIによる変異ウイルスの特定(出所:熊本大プレスリリースPDF)

特記すべきは、新規変異ウイルスの出現時には異常な検査結果パターンが示されたことから、既知の変異ウイルスだけでなく、新規変異株の出現を迅速かつ簡便に検出できる可能性が示されたことだという。このことは、2~3種類という限られた標的変異を調べる従来のqPCR法では困難であることから、今回の新手法の大きなメリットと考えられるとしている。

今回の研究成果は、新型コロナウイルスの例を用いて、Intelli-OVIが迅速に進化するウイルスに対応できることが示されており、将来のパンデミックウイルスなど、さまざまなウイルス感染症の診断ツールへの応用が期待されるとする。研究チームは今後も、この新世代分子診断ツールが新たな新興再興ウイルスの出現時への備えとなり、安心安全な社会実現を目指してさらなる研究開発を行うとしている。