兵庫県立大学と三菱電機エンジニアリングは8月15日、運動強度から心拍数までの伝達特性(対象に何らか働きかけを行った際、時間と共に対象が変化する様子を表したもの)が個人ごとに異なることを利用し、運動時のデータから制御方法を最適化することにより、個人ごとに最適なオーダーメードの運動強度を提供する新しい制御技術を開発したと共同で発表した。

同成果は、兵庫県立大大学院 工学研究科の佐藤孝雄教授、同・西野智香氏、同・川口夏樹氏、三菱電機エンジニアリングの室谷樹一朗氏、同・木村雄一氏、同・水庫功氏、兵庫県立大大学院 環境人間学研究科の森寿仁准教授、同・内田勇人氏、同・大学 先端医療工学研究所 小橋昌司教授/所長らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

  • 心拍数が理想的な上昇カーブに沿わない応答

    (左)心拍数(破線)が理想的な上昇カーブ(点線)に沿わない応答。(右)心拍数(実線)は理想的な上昇カーブ(一点破線)に近づく応答。(掲載論文の図7より改変されて掲載されたもの。(右)の青線が提案法)(出所:共同プレスリリースPDF)

日本は、世界でも群を抜いた超高齢社会に突入しているが、課題の1つが健康寿命の延伸。厚生労働省の発表に寄れば、2019年時点の日本人の平均寿命が81.41歳(男性)と87.45歳(女性)に対し、健康寿命は72.68歳(男性)と75.38歳(女性)となっており、男性で8.73歳、女性で12.07歳平均寿命が短い(最も新しい健康寿命の厚労省の公式発表数値が2019年)。健康寿命の延伸は個人の幸福に資するほか、医療費抑制にもつながることから社会にとっても歓迎されるべき点だ。そのためには、各人が適切な強度での運動を行う必要がある。現在、運動強度の指標として心拍数が用いられていることから、心拍数を適切に上昇させるように運動することが望ましいとされる。

しかし当然ながら、心拍数は上げればいいというものではなく、無理なく安全に上昇させるためには、運動強度を常に適切に調整する必要がある。そのためには、心拍数のフィードバック制御が有効。ところが、運動強度に応じた心拍数の上昇は個人ごとに大きく異なるため、個人ごとに制御方法を調整するというオーダーメイド化する技術が必要となる。こうした調整法が望ましいことは広く理解されてはいるものの、これまでのところ、有効かつ容易に利用できる手法は提案されていなかったという。そこで研究チームは今回、個人の特性に応じて必要な運動強度を提供するため、個人ごとに運動強度を調整するシステムを開発することにしたとする。

今回開発されたシステムでは、運動強度を調整する制御方法が、個人の運動データから決定される仕組みだ。同手法は運動データから直接設計する方法であることから「データ駆動制御」と呼ばれ、従来のモデルベース法(伝達特性を数式モデルで表し、その数式に基づいて設計する方法のこと)と比べて制御方法の決定プロセスが単純化され、しかも性能向上が期待できるという。

今回の研究では、安静時から心拍数を上昇させる検証実験が、20~50代の男女の健常者を対象にして行われた。すると、約40%の性能向上が確認できたとする。同実験では、最終的な心拍数へ至る「過渡応答」(運動を始めてから心拍数が一定もしくは規則的に変化する状態に至る前段階における心拍数の変化の様子)と呼ばれる時間変化に伴う状態も含め、安全に制御ができることも確認できたとした。

今回の研究では、健常者が安静時を初期状態として軽く汗をかく程度までの運動実験が行われた。しかし、急激な強度上昇が必要なアスリート向けの激しい運動を過不足なく実現することも可能であると考えられるという。そのため、今回の手法のスポーツ科学分野での検証も期待されるとした。また研究チームは今後、アスリート向けとは真逆に、非常に緩やかな強度上昇のみが許される医療機関におけるリハビリテーションなどにも応用し、医療の質を広範囲に向上させることも目指すとしている。