非言語コンテンツで新たなコンテンツを創り出すHYTEK

Yell Selfieを開発したHYTEKは、エンターテインメントやカルチャーに対して非言語のコンテンツやテクノロジーを活用することで、新たなコンテンツを生み出すことを目指し、主に企画やプロデュース、ディレクションを担っている。

HYTEKの事業が始動したのは、2020年4月。まさにコロナ禍が始まったころだ。当時はイベントがことごとく中止になり、それどころか外出すらまともにできない状態に陥った。エンタメ業界がかなり暗い雰囲気に包まれる中で、道堂氏は「業界に対して何か我々にできる事はないか」と模索を始めたとする。

そして2021年にまず形になったのが、コロナ禍で求められた“検温”に楽しさをプラスした「Thermo Selfie(サーモセルフィ―)」だった。この装置では、それまで無機質で面倒な時間となっていた検温作業の際に、カメラに向けられた顔の写真を撮影。その場で印刷されたフォトカードを入場パスにするなどのさまざまな仕掛けによって、検温に楽しみをもたらし、笑顔で入場してもらうという新たな体験が創出された。

  • HYTEKが開発した「Thermo Selfie」

    HYTEKが2021年に開発した「Thermo Selfie」(出所:HYTEK)

その後コロナ感染拡大も落ち着き、検温自体がそれほど求められなくなってきた中で、Thermo Selfieのコア技術を応用する形で新たなアイデアを形にできないかと、イベントシーズンである夏に向けて検討を開始したHYTEK。そして、徐々に声出しOKのイベントが増えている中でも“拍手”が大きく、なかなか声援が出にくくなっているイベント会場の状況に着目し、「声を出していいことを改めて伝えたり、声を出す練習として使えたりする新しい体験が無いかな」と考え、Yell Selfieというアイデアにたどり着いたとする。

道堂氏は「Thermo Selfieは事務的な検温を楽しくする、いわば“マイナスをプラスに”というものだったが、Yell Selfieはイベントをさらに盛り上げるもの、言うなれば“エンタメのプラスをもっとプラスに”するために開発している」とし、「ライブやスポーツ会場などで声を届けることを重要視していて、声援を可視化して“エールを届けている”ことを体感できるよう工夫を重ねている」と語った。

なお、Yell Selfieはこれまで音楽フェスなどで設置した実績はあったものの、スポーツイベントへの設置は今回のマイナビオールスターゲームが初めてとのこと。多くの野球ファンが撮影を体験したとのことで、道堂氏は「野球やスポーツの持つ“応援”という熱量がYell Selfieと組み合わさり、体験者だけなく、それを見ている人からも自然と拍手や声援が湧き起こり、やはり相性がいいんだなと感じた」と語った。

「ノンバーバルコンテンツ」を創り続ける

HYTEKでは、日本が持つさまざまなテクノロジーを、コンテンツの力を通じて発信することを目指し開発を進めており、特に国籍や年代を問わずに楽しめる“非言語”のコンテンツを重視しているという。発声という直感的な動作にアプローチしたYell Selfieはその際たる例であり、これからも便利さよりも楽しさにつながるものを創り出していきたいとする。

またすでに、この夏以降に行われるさまざまなイベントでのYell Selfie設置に向けて話し合いが進められているとのことで、今後はスポーツや音楽に限らず、“エール”が力を発揮するさまざまな場面に結び付けて、取り組みを広げていきたいとしている。

それまで当たり前のように人々を支えていた声援は、コロナ禍によって一気に失われてしまった。しかしその声が徐々に戻ってくるにつれて、やはりその大きなエネルギーは不可欠なものになっている。マイナビオールスターゲーム2024 第2戦で設置されたYell Selfieは、たくさんのエールを受けてシャッターを切り、思い出の瞬間を収め続けた。

そして試合中には神宮球場全体に大きな声援が響きわたり、躍動する選手たちを後押し。史上最長の試合時間となり、得点や安打数などがオールスターゲーム史上最多を記録するなど、まさに記録づくめのお祭り騒ぎとなった一戦の裏では、ファンの声出し準備を手助けしたYell Selfieが一役買っていたのかもしれない。

  • 記録づくめの一戦となった

    記録づくめの一戦となったのは、大観衆の声援がひときわ大きく響いていたから……?