「稼げる日本復活、貿易立国を目指す」ニッセイ基礎研究所・矢嶋康次氏の提言

2000年代、日本の国際収支の構造は大きく変わった。貿易赤字が定着した。

 同じ先進国の経常黒字国として、日本とドイツは比較されることが多いがその構造は大きく異なる。日本は所得収支が大幅に黒字、一方ドイツは貿易収支が大幅な黒字となっている。日本の所得収支黒字は、企業の海外進出が進んだことで、海外で生じる儲けが多いことを意味する。一方、ドイツの貿易収支黒字は、輸出競争力を高めてうまく外貨を稼いでいることを意味する。

 ドイツの場合、国内で生産した製品が輸出されるため、雇用は国内にあり、利益も国内に還元される。一方日本は、海外に生産拠点を持ち雇用は国内には生じず、利益還元も弱い。

 日本が国としての競争力を取り戻すためには、5―10年後の日本産業の姿として、持続的に貿易黒字を生み出せる構造、すなわち「貿易立国」を取り返す必要がある。

 数年前であれば「貿易立国」復活の可能性は、かなり低かった。しかし、日本経済が長引くデフレからインフレに変わり、企業の設備投資や研究開発投資などの目線は、上向きに変わっている。また世界の分断が進む中、日本の再評価が起きて、中国等から日本にサプライチェーンを組み換える動きが始まっている。

 日本企業の国内回帰、海外企業の日本投資の動きは、当面継続することが見込まれる。「貿易立国」を取り戻す、千載一遇のチャンスが巡って来た。

 貿易収支の改善に向けてやれることは色々あるが、ここでは「エネルギー」「デジタル化」の2つについて強調しておきたい。

 企業にとってエネルギーの重要性は増している。世界的に経済安保の観点等から企業の誘致合戦が起きている。エネルギーに弱点を持つ日本は、このマイナスをできるだけ少なくする必要がある。

 不透明なエネルギーの予見性を高め、電気として安定供給を図ることは今後、社会のデジタル化を進めるうえでも大きなポイントとなる。

 エネルギー問題に目途が立てば、現在の技術革新の先には、デジタルリアルの世界が待つ。携帯から始まったデジタル化は、我々の日常生活を内包し始める。身の回りのあらゆる製造物が、IoTでインターネットに接続し、リアルタイムで収集されたデータはAIによって分析され、デジタル管理されるようになる。それは製造物だけでなく、サービスや商習慣そのものをデジタル化する。

 世界を見回した時、製造業をフルラインナップで有している国はほかにない。日本のサービス品質は高く、日本式の安心安全の作り方や社会体制は、デジタルリアルの世界でも大いに生きる。デジタルの世界では完敗した日本も、リアルと接続した世界では復活できる。それが競争力を持ち、輸出を増加させ、日本や日本企業の勝ち筋となる。