生成AIがビジネスにおいて重要な役割を担うようになるなか、「AIエージェント」と呼ばれる自律的なAIシステムが注目されている。

7月18日に開催されたウェビナー「TECH+セミナー AI Day 2024 Jul. AI浸透期における活用法」において、ジェネラティブエージェンツ 代表取締役CEOの西見公宏氏は、生成AIのさらなる活用の鍵を握るAIエージェントについて紹介。AIエージェントの活用によってビジネスはどのように変化していくのか、またそれにより人間に求められる能力は何か、解説した。

生成AIの構造的課題とAIエージェントの登場

西見氏はまず、生成AIの活用における構造的な課題を指摘した。現在、文章生成、画像生成をはじめ、さまざまな生成AIサービスが登場しているが、これらを効果的に使いこなすためには、適切なプロンプトを作成する必要がある。しかし、このプロンプトエンジニアリングは、ある程度の知識やテクニックが必要となっており、AI活用の障壁となっているのだ。

この課題を解決する手段として同氏が提案するのが、LLMベースのAIエージェントである。AIエージェントは、ユーザーの要求に応じて自動的にプロンプトを生成し、望む結果を得るように動作する。つまり、ユーザーは細かい指示を考える必要がなく、AIに対してミッションやタスクを依頼するだけでよい。

  • 生成AIの活用とAIエージェント活用の違い

AIエージェントは、主に「個性」「記憶」「計画」「行動」の4つの要素から構成されているという。個性は担当するタスクにおける役割や性格を定義し、記憶は過去の経験や学習内容を保持する。計画はタスクを分解して実行可能な単位にし、行動は具体的なタスク実行のための動作を指す。

  • AIエージェントを構成する4つの要素とその相互作用

西見氏は、AIエージェントの特徴として、ユーザーの要求に応じてオンデマンドでワークフローを生成し、処理を実行する点を挙げた。従来のワークフローと異なり、AIエージェントは柔軟に対応でき、かつ使用するほど性能が向上する。ただし、ユーザーの要求を達成するフローが必ず生成されるとは限らないため、同氏は「新しいリスクマネジメントが必要」だとも指摘した。

  • AIエージェントの仕組み

AIエージェント研究の最前線:Generative AgentsとChatDev

西見氏は、AIエージェント研究の最新事例として、「Generative Agents」「ChatDev」の論文について言及した。

Generative Agentsは、25人のAIエージェントをSmallvilleという仮想的な街に住まわせ、AIエージェント同士の相互作用を観察するプロジェクトである。同氏はこれにより、「AIエージェント同士が創発的に協働し合うこともできる可能性が示された」と述べた。例えば、AIエージェントが自発的に他の住民をパーティーに誘ったり、パーティー当日のためにカフェの飾り付けを共同で行ったりするなど、人間社会に似た行動が観察されたそうだ。

ChatDevでは、「AIエージェントが経営する仮想のソフトウエア開発会社」というコンセプトで実験が行われた。この結果、簡単なものに限るが、ソフトウエア開発のプロセス全体を7分以内で完了でき、かつ大規模言語モデルによる思考プロセスを実行するためのOpenAIへのAPI使用料は1ドル未満のコストしかかからなかったという。これは、AIエージェント同士が協働して1つの成果物をつくり上げる可能性を示している。

これらの事例を踏まえたうえで、西見氏は次のように今後の将来像を展望した。

「人間がソフトウエアを使うのではなく、AIがさまざまなソフトウエアを駆使して仕事を進めていくというパラダイムシフトが起こると考えています。今後、人間中心設計からAI中心設計の世界になっていくとすると、ソフトウエア開発の観点では、AIに使ってもらえるようなソフトウエアをつくっていくことがポイントとなるのです。また、ビジネスの視点では、人間とAIエージェントの協働環境を築くためのマネジメントの力量が問われるようになっていくでしょう」(西見氏)

ビジネスプロセスの変革:AIエージェントによる業務代行

AIエージェントの登場により、ビジネスプロセスも大きく変わる可能性がある。西見氏は具体例として、業務アプリケーション、人事採用、RFP(提案依頼書)プロセスの変革を挙げて説明した。

従来の業務アプリケーションは、変化する業務に合わせて継続的な開発が必要だったが、AIエージェントベースのアプリケーションでは、ユーザーの要求に応じて柔軟に対応できる。

「AIエージェントがユーザーの要求に応じて、オンデマンドでワークフローを生成して処理を実行します。安定性は低いですが、正解のケースを振り返り、自らの動作を評価し、教訓をデータベースに保存することで成功率を高めていくことができるのです」(西見氏)

人事採用プロセスでは、AIエージェントが求人側と求職側の条件を基に会話を行い、マッチングレポートを作成。両者のマッチング度合いや次のアクションを提示するといったかたちが考えられる。

さらに、RFPのプロセスも、発注側と受注側がそれぞれ期待する条件を入力し、AIエージェントが同じ条件で釣り合うところを探索するという流れになっていくということもあるだろう。これまで検索やコンシェルジュによる提案といった従来の人手によるプロセスをAIエージェントが代行できる可能性があるということだ。

人間の新たな役割:AIエージェントのマネジメント

こうしてAIエージェントが台頭してくることにより、人間の役割も変化していく。西見氏は、今後の人間の主要な役割として「AIエージェントのマネジメント」を挙げた。

「AIエージェントは非常に強力なツールですが、できることを増やせば増やすほど、誤った動作をした場合のリスクが高まります。特に、曖昧な業務であればあるほど、リスクが増加します。ただし、誤った動作をしたときにリスクを伴うのは人間のマネジメントも同様です。そのため、人間は、AIエージェントの能力と限界を理解し、どこまでのリスクを許容できるのかを判断しつつ、適切にリスクをコントロールしながらマネジメントしていく必要があるのです。リスクをうまく扱える事業体であればあるほど、AIエージェントを活用したレバレッジが可能になるでしょう」(西見氏)

同氏は、最後に「1人ひとりが複数のAIエージェントをマネジメントしながら業務を行っていく時代になる」と予測し、人間とAIエージェントの協働を前提とした新たな組織開発の重要性を説いた。

AIエージェントの登場は、単なる業務効率化ツールの進化にとどまらず、ビジネスの在り方や人間の役割を根本から変える可能性を秘めている。今後、企業や個人がこの変化にどのように対応し、AIエージェントとの協働を実現していくかが、ビジネス成功の鍵を握ることになるだろう。