ネットアップは7月30日、都内で「2025年度事業戦略発表会」を開催した。発表会には同社 代表取締役社長の中島シハブ・ドゥグラ氏と、同チーフ テクノロジー エバンジェリストの神原豊彦氏が説明に立った。

  • 左からネットアップ 代表取締役社長の中島シハブ・ドゥグラ氏、同チーフ テクノロジー エバンジェリストの神原豊彦氏

    左からネットアップ 代表取締役社長の中島シハブ・ドゥグラ氏、同チーフ テクノロジー エバンジェリストの神原豊彦氏

昨年度の振り返り

はじめに、中島氏が昨年度のハイライトを含めた事業戦略を紹介した。昨年度に同社はデータ、クラウド、AIの3つを注力分野とし、4つのS(Savings、Simplicity、Security、Sustainability)でデータ、クラウド、AIのテクノロジーをけん引すると掲げていた。

  • 中島氏

    中島氏

データについては、2024年度第1四半期のAFA(オールフラッシュストレージアレイ)の国内市場において、NAS(Network Attached Storage)分野とOpen Networked分野でシェア1位を獲得。クラウドではSTaaS(Storage as a Service)サブスクリプションモデルが前年比98%、クラウドストレージが同76%の成長率となった。

AIに関しては、AI創薬支援サービスの提供などを手がけるゼウレカがヘルスケア業界にAIサービスを提供する「Tokyo-1プロジェクト」に、Preferred NetworksではB2B AIソリューションと国産AI専用半導体開発のプラットフォームとして、ネットアップとNVIDIAが共同で提供しているAIプラットフォームリファレンスアーキテクチャが採用されており、両社ともに高く評価しているという。

Intelligent Data Infrastructureを掲げるネットアップ

一方で、中島氏は顧客との会話の中で多くの課題も散見され、特にセキュリティとデータのサイロ化に頭を悩ませているとのことだ。

同氏は「現在、ビジネスが長期間にわたり停止する最大の理由がサイバー攻撃。そして、データのサイロ化はについてはデータを活用したくてもシステムが複雑になり、必要な情報にアクセスできていない。また、AIを利用したいが、何から学べば良いのか判然としていない。このようなお客さまの課題を解決するためには新しいデータインフラが必要であり、それは当社が提唱する『Intelligent Data Infrastructure』だ」と力を込めた。

同社のグローバルにおける旗印でもあるIntelligent Data Infrastructureのもと、日本市場では新製品の投入、Intelligent Data Infrastructureへの理解、パートナー戦略を進めていく。新製品投入に関しては、今年に入ってから30以上の新製品と既存製品のアップデートを発表している。

  • 今年に入り30以上の新製品と既存製品のアップデートを発表

    今年に入り30以上の新製品と既存製品のアップデートを発表

Intelligent Data Infrastructureへの理解促進については、日本オフィスに「Intelligent Data Infrastructure Experience Center」を設ける。これは、専門知識を持つ同社のSEが体験型の技術ワークショップを提供するほか、米国本社をはじめとした各国のエキスパートを交えたブリーフィングを実施。また、最新のITインフラ環境をハイブリッド/マルチクラウドで利用可能なPoC(概念実証)ラボ環境を備える。

  • 「Intelligent Data Infrastructure Experience Center」の概要

    「Intelligent Data Infrastructure Experience Center」の概要

パートナー戦略では400社以上の国内パートナー企業と5000人超の技術者コミュニティと交流を深め、新しい技術を広める活動を行っていく。これら3つの取り組みを通じて、中島氏は「Intelligent Data Infrastructureを実現することで、お客さまをビジネスチャンピオンにする。データはAIの燃料であり、ネットアップはそのデータに対して燃料を与えることができる」と胸を張っていた。

AIのようなインテリジェント技術がITをけん引する

続いて、神原氏がIntelligent Data Infrastructureにもとづく技術戦略を解説した。まず、同氏は「ご存知の通り、これからの時代はAIのようなインテリジェント技術がITを大きくけん引することになる」と述べた。

  • 神原氏

    神原氏

今年3月に同社が実施した調査によると、今後のAI時代を見据えてストレージやデータ管理を提供するベンダーの選定基準として、あらゆる環境でデータが柔軟に利用できることが最も高く、次いでセキュリティ性能の向上、運用の自動化になったという。

これをベースに同社のIntelligent Data Infrastructureは「Any data, workload & place(あらゆるデータのサポート)」「Adaptive data management & operations(観測可能なデータインフラストラクチャ)」「Expansive ecosystem(サードパーティソフトウェア&サービスとのシームレスな連携)」の3つの要素に準じた製品・サービス群を提供している。

  • ネットアップにおける技術戦略

    ネットアップにおける技術戦略

神原氏は「これら3つの要素がデータインフラとして備わっていることで、AIのようなインテリジェンス技術の導入をスムーズに行い、継続的な利用・改善、つまりオールウェイズオンのインテリジェンスを実現できる。そのため、ネットアップの製品自体もインテリジェンス技術を取り込み、さまざまな要件や変化が多い社会に対応できる体制に変革する必要がある」との見立てだ。

中島氏も説明したように、同社は今年に30以上の新製品・機能をリリースしており、神原氏はその中でも特徴的なものとしてデータストレージ関連の製品群、セキュリティのアップデート、AIのアップデートを紹介した。

データストレージ関連の製品群

まずは、データストレージ関連の製品群から。今回、オンプレミスにおけるハイエンドオールフラッシュストレージ「AFF」の新製品として「A70」「A90」「A1K」の3モデルを発表。

  • 「AFF」の新しい3モデル

    「AFF」の新しい3モデル

新ストレージはAIの普及に伴いデータ量が増大になり、高速かつセキュアに扱うことが重要になることから、「AFF A400」と比較したA70のパフォーマンスは最大2倍、I/O処理性能は最大4000万IOPS、スループットは1TB/秒となり、IOPSあたり最大50%、スループットあたり同55%、実効容量(TB)あたり35%、密度あたり同45%のコスト削減が可能だという。

また、クラウドストレージの「Amazon FSx for NetApp ONTAP」を強化。AIモデル開発や生成AI、科学シミュレーションなど、インテリジェンス技術の求める高性能データアクセスに対応した。これにより、最大72GBpsのスループット、I/O処理性能は同240万IOPSとなり、最大12HA(High Availability)ペアでのスケールアウト構成を可能としている。

セキュリティのアップデート

セキュリティに関しては米CISA(Cybersecurity and Infrastructure Security Agency:サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁)の認証「Secure by Design」に準拠した。

ストレージOS「ONTAP 9.15.1」において、AIエンジンのランサムウェア検出機能「ONTAP 9.15.1 Autonomous Ransomware Protection/AI」を備え、AIエンジンによりランサムウェア攻撃の検出精度を99%以上に高めたほか、データの学習期間がない状態でも導入直後から利用できるようになっている。

  • 「ONTAP 9.15.1 Autonomous Ransomware Protection/AI」の概要

    「ONTAP 9.15.1 Autonomous Ransomware Protection/AI」の概要

さらに、サイバー攻撃を前提に進化した新しいデータ保護方式「ONTAP 9.15.1 Cyber Vault Solution Reference Architecture」は、データを書き込むと管理者でも指定日時まで変更や削除ができない金融・法務・防衛水準のWORM(Write Once Read Many)技術を実装。 これにより、プライマリ/セカンダリストレージそれぞれで管理者権限を独立設定して、複数管理者の合意時にのみ操作を承認し、論理エアギャップを確保することでセカンダリストレージに保管されたデータを攻撃から保護する。

  • 「ONTAP 9.15.1 Cyber Vault Solution Reference Architecture」の概要

    「ONTAP 9.15.1 Cyber Vault Solution Reference Architecture」の概要

AIのアップデート

AIについては、クラウド型生成AIの活用に向けたサービスとして「NetApp GenAI Toolkit for Google Cloud(Vertex AI) & for Azure(OpenAI)」と「NetApp BlueXP Workload Factory(with Amazon FSx for NetApp ONTAP)」を発表した。

GitHub上で公開されているプレビュー版のGenAI Toolkit for Google Cloud(Vertex AI) & for Azure(OpenAI)は、生成AIのツールをどのように構築していくかという課題に対し、生成AIチャットボット向けRAG(検索拡張生成)のガイダンス付きリファレンスアーキテクチャを無償で提供するというもの。

  • 「NetApp GenAI Toolkit for Google Cloud(Vertex AI) & for Azure(OpenAI)」の概要

    「NetApp GenAI Toolkit for Google Cloud(Vertex AI) & for Azure(OpenAI)」の概要

BlueXP Workload Factory(with Amazon FSx for NetApp ONTAP)は、生成AIを含む多様なワークロード向けのリファレンスアーキテクチャ。ウィザードに従ってワンクリックで展開し、生成AIとRAGのアーキテクチャを実際に操作して、体験できることに加え、ガイダンスサンプルコードを通じて仕組みを理解し、応用することを可能としており、これも無償で提供する。

  • 「BlueXP Workload Factory(with Amazon FSx for NetApp ONTAP)」の概要

    「BlueXP Workload Factory(with Amazon FSx for NetApp ONTAP)」の概要

神原氏は「これらのツールを活用し、今後の生成AIの活用に向けた最初の一歩を日本のお客さまには踏み出してもらいたい。そのためにも、日本オフィスに設置するIntelligent Data Infrastructure Experience CenterのPoCラボやブリーフィングを活用し、訴求していければと考えている」と結んだ。