【データに見る「ECの地殻変動」】<第29回>増える一方の「スマホタイム」にどう対処する?

とあるラーメン店主が店内でのイヤホンを禁止したところ論争が巻き起こっている。スマホを使いながらの「ながら食い」を禁止するラーメン店もあるらしい。

ながら食いはラーメン店に限ったことではなく、他の飲食店でも当たり前のように見かける日常の光景である。スマホで見ているものはSNS、動画、そしてゲームだと思われる。食事であれ何であれ、特に若者層にとってプライベートの自由な時間はスマホタイムということだろう。

先日、総務省より「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」が公開された。その結果を独自に集計したところ2023年時点のSNS、動画視聴、ゲームの利用時間の合計は1日平均で130分に達する。

2017年からの推移をグラフ化してみたら右肩上がりであることも分かった。2017年の1日平均が65分なので、6年間で2倍になった計算だ。特徴は動画視聴時間が長い点である。130分のうち、動画視聴は61分と約半分を占める。

なお130分というのは全年代の平均値である。これを年代別に分解してみると面白い結果が出た。

10代は266分、20代は244分と極端に長い。一方で40代は104分、50代は72分、60代はわずか52分しかない。つまり年代間での差が極端に大きいのだ。

今の10代、20代が10年後に同じだけスマホに時間を費やすかどうかは分からない。しかしながら長期的にみて全年代でスマホタイムはまだまだ増えるのではないだろうか。

このペースだと筆者は5年後の平均値を180分と予想する。個人差はあるが働く時間(家事労働含む)と睡眠時間の合計を15~16時間と仮置きすれば残りは8~9時間だ。とすると3分の1がスマホタイムという計算になる。

<タイパ型の消費行動が増える>

ながら食い論争はさておき、筆者はスマホタイムの長時間化が個人消費に与える影響について注意が必要と考えている。早い話、何らか商品の購入を検討する際、かける時間や労力が最小化されやすいということだ。

現代の消費スタイルは「こだわる消費」と「こだわらない消費」に二極化していると見る。その比率は個人によってまちまちだろう。だが、スマホタイムの長時間化によって多くの人は「こだわらない消費」の比率が上昇すると予想する。

「こだわる消費」に関してもタイパ型の消費行動が増えるだろう。とすれば企業側のメッセージや思いが伝わりづらくなると考えられる。従来の商品戦略やマーケティング手法は通用しなくなるかもしれない。

仮にそうなった場合、対策は何になるか。あれこれとキーワードが頭の中を駆け巡るが、あえて1つに絞るなら「シンプル」という言葉を挙げたい。

これは”単純”ということではなく、複雑であっても消費者目線でどうシンプルに仕立て上げることができるかという意味を込めた筆者なりのキーワードだ。事態は急ではなくじわりと変化していくだろう。気付いた時には手遅れとならないよう、先々の変化を予測して打ち手を講じていただければと思う。