早稲田大学(早大)は7月25日、41名の子ども(小学5年生~中学3年生、平均12.1歳)を対象に、7種類の軽運動中の前頭部の脳血流変化を専用機器「fNIRS(機能的近赤外分光法)」で測定した結果、単調なストレッチ(両手を組んで上に伸ばすなど)では脳血流の増加があまり見られなかったが、一定の身体的負荷や認知的負荷がある種目(椅子に座って体を捻る、手指の体操、片足立ちなど)では、脳血流が顕著に増加することを発見したと発表した。

同成果は、早大大学院 スポーツ科学研究科の内藤隆大学院生、早大 スポーツ科学学術院の石井香織教授、同・岡浩一朗教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

これまで、通常歩行やランニングなど、中~高強度の身体活動の健康への有益性は数多くの研究で報告されている。そのため、WHOや各国のガイドラインにおいては、子どもは1日あたり60分以上の中~高強度の身体活動の実施が推奨されているが、世界の80%以上の子どもはこの推奨値に達していないという。

そうした中で近年では、立って会話する、ストレッチ、ゆっくり歩くなど、低強度の身体活動の増加が、子どもの肥満指標の改善や心血管系の健康に有益であることが報告されているとする。そのため、より取り組みやすい低強度の身体活動・運動がもたらす恩恵への注目が高まっているという。

  • fNIRSを頭に装着して軽運動を行う様子

    fNIRSを頭に装着して軽運動を行う様子(イメージ)(出所:早大Webサイト)

脳血流を増加させる運動タイプを解明することは、認知機能を高める運動プログラムを開発する上で極めて重要。しかし、低強度の運動時の脳血流変化に関する研究はほとんどなく、特に子どもを対象とした研究はなかったとする。そこで研究チームは今回、学校や自宅などの教育現場での実践のしやすさという観点を重視し、特別な道具を必要とせず、その場で簡単にできる低強度の運動に着目し、これらの運動が前頭前野の脳血流に及ぼす影響を調査することにしたとする。

今回の研究では、7種目の運動が実験に用いられた。頭部の傾きや動きがfNIRSの測定値に影響を及ぼすため、今回の実験で行う種目の選定においては、頭をできる限り動かさない種目とされた。そのため、体を前屈したり、後ろに反らしたり、横に倒すような運動種目は含まれていないという。

  • 今回の実験で用いられた低強度運動種目とやり方

    今回の実験で用いられた低強度運動種目とやり方(出所:早大Webサイト)

実験の手順は、7種の低強度運動が1動作10秒と20秒の2パターンで実施された。各パターンとも1種目につき10秒の休憩を挟み2回の運動が行われ、次の種目に移る際は30秒の休憩が挟まれた。そして、対象者の前頭部に装着したfNIRSで各種目における安静時(運動を開始する0~5秒前)と運動時の酸素化ヘモグロビン(脳血流量を示す指標)が測定された。

  • 実験の手順

    実験の手順(出所:早大Webサイト)

データ分析では、前頭前野を3つの領域(左・中央・右)に分け、実験で得られたデータから各領域の脳血流の変化が算出された結果、単調なストレッチ(種目A・B)では安静時と運動中に大きな変化は示されなかったという。しかし、単調なストレッチに比べて身体的負荷や認知的負荷が増す動的ストレッチ(種目C)、ひねり動作を加えたストレッチ(種目D)、手指の体操(種目E、F)、片足立ちバランス(種目G)では、安静時に比べ運動時に多くの領域で脳血流の有意な増加が示されたとした。なお、1動作10秒と20秒の各パターンの前頭前野の脳血流の増加割合が比較されたが、有意な差は示されなかったという。

これらの結果は、短時間かつ低強度の運動であっても、一定の身体的・認知的負荷を伴うタイプの運動であれば前頭前野が活性化し、脳血流が増加することを示唆しているとする。

  • 運動タイプごとの脳血流が増加した前頭前野(PFC)領域の割合

    運動タイプごとの脳血流が増加した前頭前野(PFC)領域の割合。赤色が濃くなるほど、各領域において脳血流が有意に増加した割合が高いことが示されている(出所:早大Webサイト)

今回の研究で解明された、前頭前野の血流を高めやすいタイプの運動を組み合わせることで、子どもの実行機能を高める誰もが取り組みやすい運動プログラムを開発できる可能性があるという。また、身体活動量が低い成人や高齢者の認知機能低下を防ぐための対策にも、将来的に活用できる可能性があるとした。

なお今回の研究によって、短時間かつ低強度の運動であっても前頭前野の脳血流が高まることが示されたが、それが実行機能の向上に実際に結びつくのかどうかについては、今後、改めて検証する必要があるという。具体的には、脳血流を高めやすい動きを組み合わせた3分程度の運動プログラムを作成し、その運動プログラムの実施が実行機能の向上に結び付くかどうかの検証を行うとしている。