藤本加代子・フジモトゆめグループ代表「家族経営も会社経営も  根本思想は同じです」

10年前までは「日本の介護は最悪! 3K(キツい、汚い、給料が安い)とよく言われていましたが、現在はそんなことはありません。日本の介護は素晴らしいですよ」とフジモトゆめグループ代表、藤本加代子氏はこう語る。10年前から福祉先進国と言われるフィンランドの介護施設との交流を続けているフジモトゆめグループの隆生福祉会。長年交流をする中で、日本との比較から感じることとは─。

福祉先進国のフィンランドから学んだこと

 ─ 藤本さんは、福祉先進国のフィンランドとの交流も10年以上続けていますが、きっかけはなんでしたか。

 藤本 きっかけはある雑誌に、「日本の介護は最悪で3K(キツい、汚い、給料が安い)。それに比べて北欧の介護は素晴らしい」と酷評された記事を見たことです。わたしは「そんなはずはない。隆生福祉会の介護は3Kではない」と自信があったのです。

 でも、フィンランドやスウェーデンの介護がそんなにすてきだったら、現地に行って是非学びたいと思ったのです。私たちが一生懸命視察して1年ほど経たったころ、突然フィンランドの国家教育委員会から連絡があり、わたしどもの施設をぜひ視察したいと。

 どうして隆生福祉会なのかと聞くと、ユーロ圏の介護は研究し尽くしたので、次はアジアの中で最も高齢化率の高い日本が見たいと。日本の視察先として、フィンランドで熱心に視察をしていた、あの隆生福祉会がいい!ということで選ばれたようなのです。

 ─ フィンランドに行かれたときは、学ぶべき点がたくさんありましたか?

 藤本 はい、もちろんです。まず、個を大切にする介護は素晴らしいと思いました。一人一人の生活パターンに合わせてケアをするのです。日本と違って、利用者の起きる時間も食事時間も皆さん違っていました。

 保育園にも行ったのですが、最初見たときフィンランドの先生方は子どもを放ったらかしにしているように思えたのです。

 ─ それには理由があると。

 藤本 はい。最初は放ったらかしのように見えたのですが、実は子どもに自主性を持たせるために先生は子どもに口出しません。日本だったら「みんなこれを持ってまず三角に折りましょう、はい、こうですよ」と教えます。向こうは子どもが自分でする行動を静かに見守るのです。子どもを育てるのにも日本とは随分やり方が違いますね。

 子どもへの言葉かけも「あなたはどう思うの?」とか「あなたはどうしたいの?」「あなたは何になりたいの?」といった問いかけが多くて面白いなと思いました。

 フィンランドでそういった教育をされた子供たちが大学を卒業する頃には「自分はこうしたい」という自分の意志を持っているのです。起業家精神も旺盛で生きる力というのが強いのでしょうか。わたしたちが交流した保育園の先生たちも、起業して自分の会社を持っていらっしゃいました。

 ─ そういったことができる仕組みが国にあるのですね。

 藤本 ええ。リカレント教育が盛んなので55歳ぐらいの方が「今、イタリア語を習っているのよ」と楽しそうにおっしゃいます。近くの専門学校で受講できて、受講料も受けなければ損なくらい安いのです。

 フィンランドの介護はゆったりしているのに対し、日本の介護施設では利用者を楽しませるアクティビティーをたくさんするなど違いを感じました。

 ─ フィンランドは日本の介護を見てどのような感想を持ったんでしょうね。

 藤本 フィンランドの方がわれわれの施設に来られたときは、高齢者を敬い、ホスピタリティにあふれている精神に感動されていました。

 また保育園では、フィンランドでは3歳から6歳の子どもたちの7人を1人の先生が担当しています。日本は3歳では15人、4歳、5歳は25人を1人の先生が見ます。だから、「日本の保育士は後ろにも目があるのかと思うぐらい、多くの子供を見ているのね」と感心されました。褒めてくださったのはフィンランドの保育に革命を起こしたといわれている先生でした。

 私は先生に「どんな革命をされたのですか」と聞くと、「しょうもないことなの。1人当たりの保育士が見る子どもの数を減らしただけなのよ」と。でもこれが一番大切なことなのです。

 ─ 保育士の数を増やすとなると予算がかかりますね。

 藤本 ええ。でもフィンランドは資源のない国だからと、人にお金をかけられます。

 ヘルシンキ大学の教授にお会いした時におっしゃっていたのは、「遊びは学びの窓口だ」と。たくさん遊んでいる子供のほうが将来伸びるという実験結果が出ているというのです。

 わたしが「日本の子どもは小さい頃からいろいろ教育しているので、みんな賢いですよ」と言うと、「いや、それは間違っています」。フィンランドは実験が好きなお国柄なので、「実験で証明されています」といって譲られませんでした。

 それと、フィンランドのすごいなと思うところが、国民が贅沢しない点です。みんな税金はしっかり納めて、女性の皆さんも高級ブランドのバッグなどはあまり持たれないのです。

 税金が高いためみなさん生活は慎ましやかですが、教育費は無償ですし、老後まで保障されているので心配ないと人生を大いに楽しまれています。

 ─ 北欧はスウェーデン、ノルウェーなど含めてどの国も生活水準が高いですよね。

 藤本 ええ。あらゆるものがシンプルでスッキリしている印象です。街もおしゃれでアートに力を入れています。

関西経済同友会での出会い

 ─ 話は変わりますが、藤本さんは関西経済同友会にも入っておられますね。

 藤本 はい。同友会では多くの経営者の方と出会って刺激をいただきますし、いろいろな勉強もさせていただけます。最初は福祉分野の委員会に入りそれは自分の仕事に役立つのですが、全く新しい分野を勉強しようと思い切ってIT分野の委員会に入ったのです。

 そうしたら、アンドロイド研究者の阪大の石黒浩先生とお会いできて、その後いろいろご縁がつながり、今では老人ホームや保育園が阪大やATRの実証開発施設になっています。現在も石黒先生と一緒に某プロジェクトを進めています。うちの介護施設の職員は最先端の介護ロボットの開発の一助を担っていることに誇りを持っています。

 ─ 機械を使って寝たままお風呂に入ることができる日本の機械浴は、欧州の介護でも一般的なんですか。

 藤本 いえ。日本人はお風呂が大好きなので、寝たきりの方がお風呂につかれる機械が開発されているのです。海外はシャワーを浴びるのが主流ですから、これは日本人ならではのサービスということになりますね。

 交流しているフィンランドの認知症の高齢者施設のオーナーは日本のお風呂が大好きで、施設に導入したいとおっしゃったのですが、残念ながらアフターサービスなどの問題で実現しませんでした。

 ─ アジアではどうですか。

 藤本 アジアの発展途上国には老人ホームがまだそんなにありません。ベトナムからは一緒につくってほしいという依頼はいただいたところです。

 G20のときに、フランスのマクロン大統領に同行されたテレビディレクターが取材に来られたり、ドイツの保健省のトップが私どもの施設で介護ロボットの視察をされました。ドイツもフランスも日本と同じように、高齢化社会が始まっているのです。

家庭の経営と会社経営は同じ

 ─ 藤本さんは経営に主婦感覚を入れておられるんですね。この感性が面白いですね。

 藤本 家庭の経営と会社の経営は本質的に一緒のように思います。家の中は妻が社長で、社員は夫と子供です。

 ─ そうですね(笑)。

 藤本 非常勤の社員はお舅さんとお姑さん。会社の成果でいう業績は、家庭では夫が出世してお金もよく稼ぐことと、子供が成績優秀でよい子に育てることです。最終的には祖父母も社長の味方につけて、家族みんなを幸せにすることが社長の仕事です。

 最小単位の組織である家族を上手にマネジメントできる人は、もっと大きな組織もまとめていけます。ですから夫が元気で働くのも妻次第だと思います(笑)。世の中の妻はそれに気づいていない方が多いのかもしれません。そういうわたしも最初は主人とよくけんかをいたしました。食べ物ひとつとっても、好みが違うので、なかなか意見が合わなくて……。

 でも、せっかくお互い好きで結婚したのだし、主人が働いて家族を養ってくれているのだから、わたしが主人に合わせなければと思ったのです。そうすると、不思議とうまくいくようになりました。我慢するのではなく、自分の好みのものは昼食にいただくようにしたりして、自分も機嫌よく逃げ道をつくっておけば、主人にいっぱい優しくできるし、「ご苦労さま、ありがとう」と素直にも言えます。

 主人の一番好きだった言葉は、「あなたと結婚してわたし、本当によかったわ」でした。わたしはこの言葉をよく使いました(笑)。

 会社の経営も家庭の経営も、マネジメントを上手にして、皆が幸せになることが大切だと考えています。(了)