NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)とトランスコスモスは7月17日、AIを活用したデジタルBPO(Business Process Outsourcing)ソリューション領域について戦略的事業提携を締結することを発表し、記者説明会を開催した。

両社はNTT Comが持つAIをはじめとするテクノロジーやインフラと、トランスコスモスのさまざまな業務領域に精通した高度なノウハウおよびDX(デジタルトランスフォーメーション)人材を組み合わせて、BPOソリューションを展開する。今後5年間で約1000憶円規模のビジネスを創出する計画だ。

  • NTT Com×トランスコスモス

協業により企業・自治体のDX推進を支援

少子高齢化が進む現代社会において、2050年には労働人口が2200万人減少し、高齢化率が10%上昇すると予測されている(内閣府 令和4年版高齢社会白書)。そうした中、企業が成長していくには、AIなど人に代わる手段とBPOを含めた社外リソースの積極的な活用が求められる。

さらに、近年ではビジネスモデルやサプライチェーンのマネジメントにおいて、ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンスの頭文字を取ったもの)を意識した投資や変革が進んでいる。しかし、ESGの実現にはこれまでとは異なる新たな対応が必要となる場合もあるため、ベストプラクティスを持つ外部リソースの活用が重要だ。

そこで両社は今回の戦略的事業提携によって、NTT ComのインフラやICTと、トランスコスモスのDX人材やノウハウを組み合わせて、企業のDXを支援するソリューションをワンストップで提供する。

  • 両社のアセットを組み合わせてDXを支援する

    両社のアセットを組み合わせてDXを支援する

具体的には、NTTグループが開発を進めるLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)「tsuzumi」を活用したコンタクトセンターの開発、顧客へのGX(グリーントランスフォーメーション)ソリューションの提供、自治体向けのDXソリューションの提供をそれぞれ開始する。

  • 具体的な業務提携の内容

    具体的な業務提携の内容

次世代型コンタクトセンターの開発

コンタクトセンターは企業の顧客の接点として重要な窓口だ。しかし昨今は人材の確保が難化しており、過重労働が問題となっている。また、顧客からの過激な要望や暴言など、いわゆるカスハラ(カスタマーハラスメント)の問題も顕在化している。業務の効率化を狙ったAIの導入も検討されてはいるが、技術導入とセキュリティの両立に苦労している現場も多いとのことだ。

そうした中、企業と顧客の接点はデジタル技術によって多様化している。従来の電話による問い合わせだけでなく、企業の公式サイトやアプリ、メール、SNS、チャットなどからの問い合わせも増加している。

問い合わせチャネルの利用意向に関するトランスコスモスの調査結果によると、企業サイトはPCサイトとスマホサイトの利用率に差がなくなりつつあり、電話での問い合わせは減少傾向にある。

しかし、電話での問い合わせ経験のある人は66%であるのに対して、電話の利用意向は46%と、利用経験率と利用意向には乖離が見られる。反対に、チャットの利用経験者は26%であるものの利用意向は53%、ビデオ通話の利用経験者は13%で利用意向は31%だ。この結果から、問い合わせをする消費者の多くは意に反して電話を利用している実態がうかがえる。

  • 利用者の利用意向と実態にはギャップがあるという

    利用者の利用意向と実態にはギャップがあるという

こうした課題に対し、両社はtsuzumiを活用した次世代型のコンタクトセンターを提供する。このコンタクトセンターは、LLMを活用した精度の高度化、オンプレミス運用によるセキュリティの担保、AIによる自動回答などを強みとする。tsuzumiの特徴でもある軽量かつ高いカスタマイズ性能を生かし、生成AIを活用したコンタクトセンターの開発に注力するという。

  • 両社が開発を進めるコンタクトセンターのイメージ

    両社が開発を進めるコンタクトセンターのイメージ

企業のGX対応を支援

投資家をはじめとして、長期的なESGへの対応の要求が強まっている。これに伴い、企業のGXも急務の課題とされる。しかし、GXへの取り組みを進めるための人材やノウハウの不足、必要なデータの収集による稼働の増加などが懸念される。そのため、GHG(Green House Gas:温室効果ガス)の削減に向けた具体的なアクションが取れていない。

これに対し、両社はGXソリューションを提供することで、取り組みの初期段階の検討から実運用まで各段階の課題に応じて、GHG排出量の可視化から削減に向けたアクションの提案までを支援。

社内に点在するデータの収集や生成、GHG排出量の算定可視化、コンサルティングなどを、製造業や運輸業など各業界向けにパッケージ化して展開する。

  • GXソリューションの例

    GXソリューションの例

自治体向けにDXソリューションを提供

地方自治体の業務においては、人口減少や地域経済の縮小に伴って予算が減少している。また、福祉や防災や観光など業務が多岐にわたる一方で、既存のアナログ業務文化やデジタル人材の不足によりDXの推進には一定の課題が残されている。

これらの課題に対して、両社は自治体向けのDXソリューションを提供する。ここでは、NTT Comが地域事業者向けに提供する運用管理システム「Local Government Platform」と、トランスコスモスのSNSを活用した住民コミュニケーションサービスおよびBPOサービスを組み合わせる。

単にシステムを提供するだけにとどまらず、DX人材によるBPOサービスや、データ分析を伴う住民サービスの改善コンサルティングなど、相互のアセットを組み合わせることで持続可能な地域社会の実現に寄与する。

  • 自治体向けソリューションの例

    自治体向けソリューションの例

NTT Com 代表取締役社長の小島克重氏は「両社の事業提携のシナジーによって、日本経済の活力あるイノベーションやグローバルへの展開、自治体支援による地域の活性化に貢献できれば。微力ではあるが日本経済の好循環を生み、豊かな社会の実現を目指していきたい」とコメントした。

  • NTT Com 代表取締役社長 社長執行役員 小島克重氏

    NTT Com 代表取締役社長 社長執行役員 小島克重氏

トランスコスモスの代表取締役共同社長の牟田正明氏は「tsuzumiはセキュアで低コスト、しかも軽量。この特徴を持ちながら日本語に特化したLLMは他に無いだろう」と、NTTグループが開発したLLMであるtsuzumiとの連携に期待を見せた。

  • トランスコスモス 代表取締役共同社長 牟田正明氏

    トランスコスモス 代表取締役共同社長 牟田正明氏