佐賀県を本拠地とし、中層混合処理工法による地盤改良を得意とするセリタ建設は、10年以上前からDXを推進し、その結果として経常利益率20パーセントという成果を生み出した。これは建設業としては驚くべき数字だという。同社はどのようにDXを推進し、どうやって成果に結び付けてきたのか。

6月26日に開催された「TECH+セミナー 建設DX 2024 Jun. 転換期を迎えた建設現場の現在と未来」に、同社 代表取締役の芹田章博氏が登壇。建設ITジャーナリストの家入龍太氏が聞き手となり、同社のDXの進め方やその効果、DX成功の秘訣などについて聞いた。

  • (左から)建設ITジャーナリストの家入龍太氏、セリタ建設 代表取締役の芹田章博氏

社長自ら最前線に出て業務を把握し、要件を定義

家入氏はまず、セリタ建設がSalesforceを軸にバックヤードのシステムをつくり替えるというDXを実践し、3年間で売上高2倍、利益率10倍という成果を得たことを紹介した。DXに着手したきっかけについて芹田氏は、現場、建設部門、営業部門などの部門によって業務フローもバラバラで、個別のPCもないという状況をデジタル化で変えようと思ったと明かす。

DXの着手にあたって芹田氏が行ったのは棚卸しだ。社長が自ら最前線に出てオペレーションフローや帳票を整理し、業務全体を把握したうえで、DXの要件を定義した。自社の目的や目標に合わせたビジネス要件、カスタマイズの可否や必要なシステムといった機能要件、将来的な拡張性や権限などの技術要件を設定したほか、プロジェクト要件については、営業部からスタートして工事部に移行するスケジュールや費用なども重視して検討した。その結果、「言わば営業を効率化するためのクラウドソフト」(家入氏)であるSalesforceを選ぶことになるが、その理由は「顧客管理、案件管理を中心に改善を進めるためだった」と芹田氏は述べた。

芹田氏が「私たちの業務フローではまず営業部での案件管理、顧客管理を行って、そこから工事部に下ろして原価管理や工程管理というかたちで全体を一気通貫している」と言うように、同社ではSalesforceを営業以外にも活用している。工事部では、工事日報などの詳細を逐一Salesforceに入れていくことにしており、その日の夜には全現場のデータが集まる。これによって、社内全体の状況をリアルタイムに把握できるのだ。

「現場の進捗状況も把握できるし、うまく進んでいる現場のデータからその理由を学ぶこともできます」(芹田氏)

Salesforceを中心にさまざまなツールを連携

実際のツール導入はまず営業部から始まった。Salesforceを中心にしてCRMで顧客管理、SFAで案件管理を行い、Evernoteなどの他業務用のツールも連携させてデータを集約。その後、工事部でもさまざまなツールをカスタマイズしながら原価管理や日報の効率を向上させていったという。ツール選定の際は、Salesforceを中心にどのように使うかをシステム連携図としてまとめたうえで、慎重に検討したそうだ。

  • セリタ建設のシステム連携全体像

連携図に示されたツールをいくつか紹介する中で、芹田氏がとくにこだわっていると話したのがデータの集積方法だ。社内でのリアルタイムのデータ集積にはDropBoxのようなフォルダ系を使い、CADの図面や写真などが混在するデータはノートを付けてEvernoteで共有する。また、社内保存用とクラウドの顧客用の2種類のフォルダをつくることで、人的ミスによるデータの漏えいを防止している。

デジタルマーケティングに関するものとしては、集客のCMSに使うWordPressやGoogle Analyticsがある。WordPressは、顧客に地盤改良工事に関する記事を配信する際、クラウドワーカーのライターに執筆を外注するのにも役立っているという。名刺管理のEightは、営業部員が新規で入力する場合でもスムースにSalesforceにデータを流せることを重視して選んだそうだ。

「経営に関するあらゆるものが、ダッシュボードのように全てSalesforceに集約されているわけですね」(家入氏)

DXの実装とその効果

営業部からスタートしたDXの実装は、情報が流れる順に工事部、総務、経理と進めてきた。最初はスモールスタートで会社としてのベクトルを合わせ、システムの理解を深めることを重視しながら広げていったという。

「営業部の方がデジタルの伝道師のように社内で広め、そこから社内に浸透していきました」(芹田氏)

芹田氏によると、DX実装後は財務内容が一変したそうだ。Salesforceによって自分たちのパフォーマンスを評価できるようになったこと、そして現場の終了を待たず進捗中に現場を評価でき、その評価の集積があったことなどから粗利が改善した。また売上高の向上は「デジタルマーケティングの効果だ」と芹田氏は述べた。SNSで業務内容などを周知し、Webサイトを拡充して顧客の必要な資料等をダウンロードできるようにしたほか、業務内容に関する記事は、専門的な内容を執筆できる一級建築士に加え、分かりやすい記事を書くことに長けているクラウドワーカーも動員して、高頻度で配信したことが効果的だったという。

商圏の拡大もDX導入の効果だ。従来は九州地域だけを商圏としていたが、デジタルマーケティングの効果により関東など遠方からの問い合わせも増え、営業効率も向上している。

2024年問題への対応には、さらなる仕組みや構造の変革が必要

DXによる働き方改革の効果もあった。とくに大きいのはデータ入力の手間の削減だ。現場や移動時間にスマートフォンからも入力できるようにしたため、工数削減に効果があった。また、Salesforceには入力したデータがリアルタイムで同期されるため、いつでも最新の情報を得られる。このことも業務の効率化に効果があったという。

ただ、こうした効率化は2024年問題への一つの対応にはなるが、建設業では「単純に残業時間を減らすのが難しいところもある」と芹田氏は話す。

「給与の問題にも触れてしまうセンシティブなところですので、残業を減らす呼びかけをするよりも、給与の仕組みそのものを改善したほうが、効果があると考えています」(芹田氏)

そこで芹田氏は今、残業時間を減らしても給与が変わらないような仕組みをつくろうとしている。具体的には、1時間あたりの残業費を上げていくという方法で改善していくそうだ。

「これまでの仕組みや構造を変えることによって、さらに時短できるような仕組みをつくっていくことが重要です」(芹田氏)

DX成功の秘訣とは

DXの成功要因について芹田氏は「DXによって1年や2年で劇的に変わるわけではないため、愚直にやっていくことがカギになる」と話した。

「長期的に自社の課題解決や目標達成に向けてやり抜く、情熱や忍耐力も必要ですね。自分たちの会社を将来どのようにしていきたいか、そこにこだわることも重要だと思います」(芹田氏)

家入氏は「これまでの文化を変えて時短を良しとするということは、1回言っただけでは定着しない」と指摘。同氏がこれまで見てきた会社では、DXに取り組むにあたって最低でも数年間はリーダーが積極的にメッセージを発信し続けていると説明した。

最後に芹田氏は、「どこで自分たちの価値を提供していくのかといったビジョンの共有の仕方や、組織変革の進め方、さらには人材育成やテクノロジーの選び方などさまざまなことを考えながら、業務の改善を常に続けていくことが重要」だと語り、対談を締めくくった。