スウェーデンに拠点を置くエンタープライズソフトウェア企業のIFSが、日本国内における事業拡大開に向けてアクセルを踏んでいる。高い技術力と革新力を持つ“モノづくりの国”に目を付け、日本市場への投資を加速させているのだ。
同社は7月10日、国内ERPを手掛けるワークスアプリケーションズ(WAP)と、国内向けシステム供給に関して提携したことを発表。WAPとの提携で日本の商習慣を事業に取り込み、日本国内の製造業を中心に、基幹システム刷新のニーズに応えていく考えだ。
またIFSは同日、日本で2回目の開催となる年次カンファレンス「IFS Connect Japan 2024」を開催し、同社のこれまでの実績や、日本への投資計画などを説明した。
“業界知識が深い”IFSのソリューション
1983年にスウェーデンの原子力発電所のエンジニアが創業したIFSは、製造、航空宇宙・防衛、エネルギー、サービス産業、建設エンジニアリング、テレコム通信の6業種に特化し、統合基幹業務システム(ERP)と設備資産管理(EAM)、フィールドサービス管理(FSM)、サービスライフサイクル管理(SLM)の4領域の製品を1つのプラットフォームで提供している。
設立から51年が経過しており、米国、北欧、南欧、アジア太平洋・中東の4地域で80カ国以上の市場に参入している。従業員数は6000人を超え、グローバルにおいて6500社以上の企業が同社のソリューションを導入している。2023年の収益は約10億ユーロ(約1600億円)、収益成長率は業界平均の3倍、2023年の年間定期収益(ARR)は79%増だった。
日本市場には1997年に参入し、トヨタ自動車や日鉄スチール、日本航空(JAL)、京セラ、クボタ、OKIなど、日本を代表するさまざまな企業が同社のソリューションを活用している。
サービスの中核となるのが4領域の製品の機能をSaaS(Software as a Service)で提供する「IFS Cloud」。これは2021年3月に提供開始されたサービスで、顧客は自社に適している機能をベストオブブリードで組み合わせることができる。加えて、設計から調達、製造、据付工事、出荷後のサービスまで、ライフサイクル全体を1つのプラットフォームで管理でき、SaaSだけでなくオンプレミスでも導入できる点も強みだ。
10日の記者発表会に登壇した最高製品責任者(CPO)のクリスチャン・ペダーセン氏は「ガートナーとIDCのレポートでは、IFSの製品群はすべてリーダーと位置付けられ、2024年4月時点で業界トップシェアに立った。業界知識の深さが強みだ」と語った。
日本は「超成長市場」 IFSの狙いとは
なぜ、IFSは日本市場を重視しているのか。
その理由を、アジア・中東地域担当 プレジデントのヴィンセント・カルバーリョ氏はこう語った。
「日本は世界第4位の経済規模を誇り、IFSの主要産業分野である製造業がGDPの約10%を占める“モノづくりの国”だ。自動化とイノベーションへの需要と高い品質水準を持ち、協業できるエコシステムが構築しやすい。高い技術力を持つ日本は、IFSにとって次の『超成長市場』だ」(カルバーリョ氏)
またカルバーリョ氏は続けて、「一方、多くの日本企業は労働力不足という課題に直面している。日本が大きな変化を迎えていることを実感しており、これは大きなチャンスと捉えている。日本企業の生産性向上を支援することで、指数関数的な成長を目指したい」と述べた。
同社はすでに日本への投資の強化を始めており、2025年以降の成長につなげたい考えだ。日本法人IFS Japanの採用活動も強化しているといい、社員数は急増している。10月にはオフィスを東京・渋谷から大手町に移転してさらなる増員を図り、サポートやクラウド、カスタマーサクセスなどの体制整備を急ぐ。
10日に発表したWAPとの提携では、特に「2層ERP」と「コンポーザブルERP」に焦点を当て、異なる国や地域の業務ニーズに対して、標準機能でシステムを構成し、「完全標準化」と「脱アドオン」の実現を目指す。
WAPは会計などの業務領域に強く、国内の会計ルールなどへの対応に強みを持つ。日本の商慣習に合わない海外製ERPではニーズを満たしきれない顧客企業の課題解決を目的とし、両社はグローバル展開も視野に入れた2層ERPの構築を推進していく。
産業用AIのさらなる強化へ
IFSは産業用AIへの投資も加速させている。IFS Connect Japanでは、IFS Cloud上で提供する産業用AI機能「IFS.ai」の実績や効果などが紹介された。
産業用AIとは、製造業において物理的なオペレーションやシステムに関わるAIのこと。AIを活用したシステムにより、製品開発や製造、サプライチェーンや現場におけるオペレーションなど、産業の基本的なプロセスを自動化し、改善につなげる。
例えば、航空宇宙・防衛産業業界なら、コンプライアンス遵守とリスク軽減のために、不足している必須コンポーネントと期限切れのメンテナンスタスクをAIで自動的に検出してフラグを設定することができる。
IFSは業界に特化した産業用AI機能の提供に向け、積極的にM&Aを行っている。2024年1月には製造業や防衛産業に自動化された高速データ分析を提供する米産業用AIソフトウェア企業のFalkonryの買収、同年6月にはAIを活用したエンタープライズ設備投資最適化ソフトウェアを手掛けるカナダのCopperleafの買収を発表した。
また、7月10日にはAIを活用した航空メンテナンスソフトウェアを開発する米EmpowerMXの買収も発表した。買収によりIFSは、産業用AI機能をさらに強化し、あらゆる業界の効率の向上、生産管理の強化、メンテナンスコストの削減につなげている。
ペダーセン氏は「IFS.aiが世界中の人の生活を支えている。IFS.aiが管理するモバイルネットワークを利用している人は約2億人で、IFS.aiが提供するエスカレーターに毎日乗る人は20億人に上る」とIFS.aiの実績を語った。
同社は2024年5月、生成AIの機能を搭載したアシスタント「IFS.ai Copilot」の一般提供も開始した。AIを搭載したアシスタントを通じて、事業者の意思決定までのスピードの改善を目指す。
イベント終了後、TECH+の個別取材に応じたIFS 最高執行責任者(COO)のマックス・ロバーツ氏は「私たちは6つの業界にフォーカスし、業界の知識を徹底的に深めているからこそ、顧客企業に対して高い価値を提供できている。AIの活用に関しても、その業界に最も適した使い方を提案し続けていく」と話した。