電通と日鉄興和不動産は2024年4月、住宅メーカーや家電・消費財メーカーなどと協力し、業界・メーカーを横断した生活行動データを基に、生活者の状況・ライフスタイルに合わせた"より良い暮らし"へのアップデートを支援する「HAUS UPDATA(ハウス・アップデータ)」プロジェクトを開始すると発表 した。

今回は、サービス提供を行う電通の担当者である電通 データ・テクノロジーセンター プラットフォーマーデータ部 アナリスト 田中慧理奈氏と、同 データ・テクノロジーセンター リテールデータ開発部 シニアプランナー 谷口由佳氏にプロジェクトの詳細や狙い、今後の取り組みを聞いた。

  • 左から電通 データ・テクノロジーセンター プラットフォーマーデータ部 アナリスト 田中慧理奈氏

    左から電通 データ・テクノロジーセンター プラットフォーマーデータ部 アナリスト 田中慧理奈氏

生活者は勝手にデータを利用されることに不安

まず、田中氏は、HAUS UPDATAを開始した背景に、プライバシーの尊重が進み、生活者からデータを取得することや、取得したデータを活用していくことが難しくなっている現状があると説明した。

「生活者が気付かないうちにデータが集められ、ターゲティング広告が届くといったことがあり、生活者はデータを預けることを怖がったり、不安に感じていたりしていると思っています」(田中氏)

  • HAUS UPDATAを開始した背景を語る田中氏

    HAUS UPDATAを開始した背景を語る田中氏

また、生活者のデータを活用しようとしているスマートホーム関連事業者にも課題があるのではと感じているという。家の中では、さまざまなメーカーの製品を利用しているため、データが企業ごとに分断され、生活者の行動を統一的に捉えてサービスを提供することが難しい状況だ。

加えて、IoT家電を実際に利用しないと導入するメリットが分かりにくいことや、購入後の設置・設定にハードルがあり、IoT家電だからこその魅力的な機能を十分に使いこなせていないケースも多いのではないか、という考えもあるという。

HAUS UPDATAプロジェクトとは

これらの課題を背景として、電通はHAUS UPDATAプロジェクトを開始した。「HAUS」(ハウス)はドイツ語で、単なる住まいという意味だけでなく、人が集まる場という意味。「UPDATA」(アップデータ)は、データをアップロードすることで、生活がアップデートされるという意味を込めた造語で、「HAUS UPDATA」というプロジェクト名を付けたという。

「生活者が自分のデータがどう活用されているのかを理解した上で、その企業にデータを預けたいと思ってもらい、それによって企業から生活に役立つレコメンドやサービスが提供される、こういったサイクルを作ることが必要だと考えています」(田中氏)

HAUS UPDATAプロジェクトでは、データの収集方法や利用目的について生活者に理解してもらった上で、不動産会社やスマート関連事業者と協力して、家の中にさまざまなスマート家電やスマートデバイスを設置。そして、断片的であったデータを個人が特定できないセキュアな環境で独自IDに統合し、オリジナルのデータ基盤を構築する。

生活者には、家電の利用状況、人の動き(人感センサ)、商品の消費状況(重量センサ)、温度・湿度・照度(環境センサ)など、多岐にわたるデータ管理ダッシュボードを提供することで、「自分が何をどのように使っているのか」「そのデータが何の役に立ったのか」を確認・理解してもらい、データ提供における懸念を解消したいと考えている。

  • 「HAUS UPDATA」概要(出典:電通)

    「HAUS UPDATA」概要(出典:電通)

「1つのアイデアですが、ビールメーカーに協賛いただければ、ビールを最高においしく飲むために家の中や冷蔵庫の温度を変えたりするといった提案を行うこともできます。また、1人ひとりの生活習慣に合わせて、消費電力を下げられる家電の使い方の提案をするといったこともできるかもしれません。」(田中氏)

プロジェクトでは、環境や防災、家事、育児支援など社会的に意義のあるようなテーマを設定し、そのテーマに賛同する協賛企業を募り、生活者に快適な生活環境を提供することを目指す。協賛企業は、マーケティング基盤として活用してもらうことで、スマートデバイスなどから集めた匿名化されたIoTデータが閲覧できるほか、電通がデータを分析して得られた知見をレポートで提供する。

「メーカーからは、商品購入後に、継続的にブランドを好きになってもらえているかどうかが課題だという話をよく伺います。この課題解決のためには、そのブランドが欲しいといったブランド価値が最大化するタイミングを捉えて、生活者に寄り添ったサービスや情報を提供し続けることが必要です。家の中は、日常生活の中での潜在的な要求を感じている場でもあり、実際に商品を使う場でもあるので、本当のニーズを把握するためのヒントが眠っています」(田中氏)

データ基盤はリサーチ基盤としても活用する予定で、生活者がどういう行動をし、協賛企業の商品をどう使っているかという消費行動まで把握できるので、商品やサービス開発にデータを活用することを可能としている。協賛企業には、CRM基盤としての利用も想定しているという。

今後はPoCでサービス仕様を決定

加えて、今後は店頭での購入時のレシートや、ポイントデータなどといった家の外のデータも活用を予定している。

「最初のPoC(概念実証)ではモニターの方にレシートのデータを手動でアップロードしてもらっていますが、将来的にはより生活者のユーザビリティを高めるために、ポイントカード事業者など購買データのパートナーと連携して、サービスを提供することをイメージしています」(田中氏)

ただ、HAUS UPDATAでは、まだ具体的なサービスの内容や枠組みは決まっていない。今後、何回かPoCを実施してサービス仕様を固めていく予定とのことだ。

「現在、1回目のPoCを実施していて、IDを統合することで、どういったサービスを生活者に提供するとより良い暮らしにつながるのか、協賛企業にどういった分析結果やデータを提供できるのかを検証するフェーズになっています。来年度に予定している2回目のPoCでは、世帯数規模や協賛企業を拡大し、どういう価値を提供していけるのかというところに注力します」(谷口氏)

  • Pocについて説明する谷口氏

    Pocについて説明する谷口氏

10月31日までの期間で行われている1回目のPoCでは、モニター10世帯に、IoTセンサとIoT家電を設置し、協賛企業の商品を配布後、居住者の生活行動や環境状態を把握することを予定している。

これを通じて、IoTセンサとIoT家電のデータを基に居住者の生活行動データから生活動線と消費傾向を分析し、1人ひとりの状況やライフスタイルに合わせたおすすめ情報、サービスを提供するほか、定期的に需要や気分状態を聞き、各社の提供サービスにフィードバックする。

HAUS UPDATAのビジネス化のポイントについて田中氏は、「協賛費をいただいているビジネスモデルになるので、協賛企業にとって商品開発やマーケティングに活用できるリサーチ基盤を作れるかどうかや、さまざまなデータをもとにレコメンド、サービスを提供していくことで、生活者の方が協賛企業を好きになってもらえるかがポイントです」と語った。

また、インタビューの最後に谷口氏は以下のように決意を述べた。

「すべての人たちにとって良い取り組みにしなければとスケールしていかないと思うので、そのメリットを感じてもらえるサービスを作り続けていかないといけないと考えています」(谷口氏)