Salesforce Japanは7月12日、インダストリー(業界別)ソリューションに関するプレスおよびアナリスト向けの説明会を実施した。説明会には、執行役員 ソリューション統括本部 インダストリーアドバイザー本部 本部長の國本久成氏が登壇し、「ライフサイエンス領域」のソリューションの最新アップデートについて語った。
製薬・医療機器メーカー向けのプラットフォーム「Life Sciences Cloud」
まず、國本氏は「ライフサイエンス領域およびLife Sciences Cloudの最新アップデート」について説明した。
同社は、医療機関や保険会社、Public Healthを担当している「ヘルスケア」と、製薬会社や医療機器を担当する「ライフサイエンス」という2つの大きなカテゴリーに分かれて事業を展開している。
今回紹介された「Life Sciences Cloud」は、データ、自動化、信頼できるAIを活用して、患者や医療関係者とのエンゲージメントをパーソナライズし、臨床業務を合理化する、製薬および医療機器メーカー向けのプラットフォームで、ライフサイエンスジャンルのソリューションだ。
「ライフサイエンス業界は岐路に立たされていると感じており、世界の健康に関わるAI市場は年率37%というスピードで増えてきており、AIへの関心・利用促進が伸びている市場だからです。また、コロナ禍以降に医療関係者の87%はライフサイエンス企業からの情報提供にデジタル、またはハイブリッドを好む傾向が出てきてると言われています。つまり、ライフサイエンス企業にとって、対面で営業に行っていた昔の商習慣がこの数年で大きく変わってきているのです」(國本氏)
そのため同社は、ライフサイエンス企業は顧客中心の体験を「信頼できるインテリジェンス、コネクテッド・データ、オープン・プラットフォーム」で提供する必要がある、と考えているという。
今回発表されたLife Sciences Cloudは、同社としては初めてのクリニカル(臨床試験)領域のソリューションとして、患者や医療関係者とのエンゲージメントの全領域でチームを連携させ、患者の登録・募集プロセス、治験のオンボーディング、コミュニケーションの改善を支援するものだ。
製薬企業および医療機器メーカーは、同ソリューションを活用することによって、コンプライアンスを順守しながら、ドラッグラグ(海外で使われている薬が、日本で承認されて使えるようになるまでの時間の差)を解消し、医療関係者や患者のエンゲージメントを高めることができるようになるという。
Life Sciences Cloudの機能
説明会で紹介されたLife Sciences Cloudの4つの機能は以下の通り。
Participant Recruitment and Enrollment
生成AIを活用することで、治験コーディネーターとSite Management Organization(SMO)などの治験実施施設の担当者は、事前スクリーニングと適格性基準に基づいて患者を評価できることから、マッチング時間を短縮できる。
また、治験実施施設とスポンサーは患者ポータルを公開できるため、適格な患者は治験を容易に検索し、参加希望を伝えることが可能。
さらに、コーディネーターは、e-consentやスクリーニングフォームをカスタマイズして、登録プロセスを効率化することもできる。例えば、治験実験施設はEinstein Copilotを使用して、スプレッドシートや電子カルテ(EHR)、医療ネットワークなどからインサイトを得て、施設から約8km以内に住む患者をセグメント化できる。その後、Copilotを使用して、特定の治験に適合する可能性のある患者に連絡を取ることも可能。
Patient Benefits Verification
保険適用分析、保険の有効期限、患者の保険適用に関連するプロアクティブアラートと推奨事項を単一のダッシュボード上で確認できる。さらに、患者サービス担当者はEinstein Copilotを使用して、給付金サマリーを作成し、再確認を一括で行うことが可能。
例えば、糖尿病患者の保険で6カ月ごとに新たな事前承認が必要な場合、Patients Benefits Verificationを使用して、患者のインスリンと血糖測定器の自己負担額を再確認するようオペレーターに警告し、治療の継続性を確保できる。
Patient Program Outcome Management
患者サービスチームやコーディネーターは、評価やイベントレポートを通じて、患者のマイルストーンをプログラム成果にマッピングして教育やサポートプログラムの効果を把握し、自動化できる。
例えば、患者に服薬をリマインドするエンゲージメント戦略を作成し、サポート期間中にどのエンゲージメント戦術が最も効果的だったかを分析し、服薬遵守(アドヒアランス)が向上したかを確認することで、治療の中断率を下げることができる。
Unified Data Platform for Life Sciences
Salesforce Data CloudとMuleSoft for Life Sciencesを活用し、各患者と医療関係者に関する統合されたビューを作成する。
メールや面談メモ、会話記録、論文などの科学出版物、総合製品概要などの構造化および非構造化データを取り込み、共通のデータモデルに接続することで、統一された患者プロファイルの構築や対話のパーソナライズ、医療関係者や患者とのエンゲージメントへの接続を実現する。
また、Salesforceのオープンなエコシステムにより、ライフサイエンス企業は、販売実績(実消化)レセプトデータ、DPCデータ、市場データなどのサードパーティデータをLife Sciences Cloudに容易に接続し、医療関係者向けコンテンツのパーソナライズやターゲティングに活用できる。
例えば、営業担当者は、担当地域の医療関係者が自社のサポートプログラムに患者を登録するとリアルタイムのアラートを受け取ることができ、継続的なエンゲージメントが可能となる。
ウォーターフォール型からアジャイル型に
Einstein 1 Platformを活用し、AIを駆使したエンドツーエンドのソリューションを提供するという特徴を持ち合わせているLife Sciences Cloudの主な活ユースケースとして「臨床試験」「医療情報管理と活用」「販売後(承認後)」の3つのフェーズを挙げている。
臨床試験のフェーズでは、AIを活用して「患者募集と参加者登録」「施設選定と施設オープン」「試験プロトコールとエンド・ツー・エンド試験デザイン」「臨床データの分析」を行い、医療情報管理と活用では「医療情報管理のためのAI」「医師の影響力の検出」「医師リクルーティング、ソーシャルリスニング&スコアリング」「FMV(Fair Market Value)の決定」が行われる。
また販売後(承認後)に関しては、「AIが生み出すNext Best Action」「HCP(医療従事者)と患者のセルフサービス」「処方予測分析/リベート分析」「早期かつインテリジェントな検出(医療機器)」の場面で活用が期待されているという。
「臨床試験における課題として『臨床試験の患者さんの募集と組み込み』というものがあります。患者さんの募集には多大なコストが発生しますが、1日終了日が遅れるごとに、追加のコストが発生してしまいます。加えて、全体の80パーセントの臨床試験が、患者さんの組み込みが遅れることで、臨床試験そのもの全体が後ろ倒しになるという現状もあります。これらの課題に、弊社のアジャイル思考とデータ、AIを用いてチャレンジしていきたいと考えてます」(國本氏)
國本氏は、このような臨床試験の課題について「ウォーターフォール型(要件定義から運用までの一連の工程を上流から下流まで順番に進める手法)」で運用されている点が原因になっていると推測している。
ウォーターフォール型では、一カ所で何らかのトラブルが発生すると、最初の病院との契約からやり直すことになってしまうため、多大な時間がかかってしまうという。
この現状の課題を打破するためには、アジャイル型の考えを適用させることによって、すべてをやり直すのではなく、フェーズ単位で課題を解決することが可能になるという。
アジャイル型に適応し、反復プロセス型に変革することで「臨床試験をより早く完了させ、患者に革新的な医薬品や医療機器を届けられるのではないか」という想いでソリューションの普及を目指していくという。