虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの最上部に位置する情報発信拠点「TOKYO NODE」の研究開発チームであるTOKYO NODE LABは7月9日、XRとAIをテーマにしたメディア向け勉強会を開催した。
当日は、「2024年のXRとAIの最新トレンド」と題し、AI技術の進展や今注目を集めるChatGPT-4oに関する考察などについて語られたほか、TOKYO NODE LABの取り組みや展望についてディスカッション形式で紹介された。登壇者は、森ビル 新領域事業部 TOKYO NODE運営室の茂谷一輝氏、バスキュール 代表取締役/ TOKYO NODE LAB Executive Directorの朴正義氏とSYMMETRY エバンジェリストの沼倉正吾氏。
16社で挑む、クリエイティブエコシステムの構築
勉強会では冒頭、TOKYO NODEを運営する森ビルの茂谷氏から、その概要が説明された。虎ノ門ヒルズステーションタワーの最上部に位置するTOKYO NODE は、イベントホールやギャラリー、レストランなどを有する情報発信拠点だ。その研究開発チームという位置付けにあるTOKYO NODE LABでは、ミッションとして「新しい都市体験が創出されるクリエイティブエコシステムの構築」、ビジョンとして「人間のクリエイティビティを刺激するための仕掛けとなる」を掲げ、SPACE/COMMUNITY/TECHNOLOGY/URBAN EXPERIENCE DESIGN という4分野に対し、参画する16社で取り組んでいるという。
同LABでは、2023年10月の開設以来、ARアプリや開発者向け都市データ開発キットなどをリリースしてきた。また、クリエイターのためのボリュメトリックビデオスタジオも併設されており、日々、新たな取り組みが生まれているそうだ。
ますます進化するAI、注目はPUSH型!?
続いて行われたセッション「2024年のXRとAIの最新トレンド」では、沼倉氏が登壇。同氏がエバンジェリストを務めるSYMMETRYは、街や都市のデジタルツインシステム開発事業を展開する企業だ。同時に、TOKYO NODE LABの参画企業の1社でもある。
沼倉氏はまず、現在が2000年代からの第三次人工知能ブームの終盤にあると説明。第三次ではディープラーニングという概念が登場したことで、技術の進化が加速し、生成AIの時代へと入ったという。同氏によると、第三次ブームを後押しする一番の要因はインターネット上の情報だ。
「これが(AIモデルを作成するための)トレーニングデータになり、AIの精度が上がったのです」(沼倉氏)
2021年から話題になったAIと言えば、画像生成AIがある。さらに2022年にはChatGPTが登場し、公開後約2カ月で1億ユーザーを突破した。現在はさまざまな企業がChatGPTやその他のLLMとの連携を進めている。また、昨今では「Ai Pin」や「rabbit r1」といったAIエージェントも出てきていると言う。これらはデバイスに内蔵されたカメラを通して、ユーザーが目にしているものが何なのか、あるいは今いる場所からどう進んだらよいかなどを教えてくれるそうだ。
「インターネットは人が欲しい情報を自分で取りに行くPULL型のサービスです。対して、AIエージェントは状況を察して、情報を送ってくれるPUSH型サービスです。まだまだ未完成ではありますが、これからもさまざまなPUSH型サービスが出てくる可能性があると感じています」(沼倉氏)
沼倉氏はさらに、5月13日に発表されたChatGPT-4oにも言及した。4oはマルチモーダル化することが示されているほか、音声対話での感情表現が豊かになったという特長がある。この進化を同氏は「人はAIに完璧を求めがちで、AIが間違えるとつい怒ってしまう。感情表現を入れることで、間違いを許せる気持ちになりやすくなるので、人のAIに対する過度な期待やストレスを下げていく取り組みのように感じる」と語った。
2024年の今、注目を集めているのは、動画生成サービスの登場だ。同氏は、OpenAIのSORA、RunwayのGen-3、LumaAIのDream Machineなどを挙げ、自身も過去の写真を読み込ませ、どのような結果になるのかを試したと話した。
このように進化の続くAIだが、ユーザー側はすでに個人的に、あるいは業務でと、広い範囲で利用し始めており、この傾向はさらに進むと同氏は続けた。
XRが日常化するカギは“ウェアラブル”
では、XRのトレンドはどうか。沼倉氏は「VRやARなど、“なんとかR”界隈が盛り上がっている」と述べた。世界最初のVRマシンは1956年につくられたそうだが、その後、時を経て、「MetaのQuestを筆頭に、本当に使える、性能が良いものが出てきている」(沼倉氏)という。また今後、XRが普及するカギとして沼倉氏が示したのが「ウェアラブル」だ。ポータブルやモバイルではなく、身に着けられるようになることで、機能性が維持されながら、意識されない状態を生み出せれば、「日常に浸透するのではないか」と話した。
また、「今後はAIエージェントがXRを補佐し、自然に情報を発信するようなものが出てくるのではないか」とも予測。「ウェアラブルでPUSH型になれば、さらに普及していくのでは」と見解を示した。
実際の街を活かした、新しいエンタメを提案
茂谷氏、沼倉氏に加え、TOKYO NODE LAB Executive Directorの朴氏が参加したトークディスカッションでは、LABで実際に生み出された作品などが紹介された。
その1つが、朴氏が「街のつくりかたのアップデート、都市体験のアップデート」だと話すプロジェクトである。同プロジェクトでは、虎ノ門ヒルズエリアの様子を仮想空間に再現。利用者は現地でMRゴーグルを装着することで、リアルとバーチャルがミックスした空間を体験できる。
例えば、イルミネーションの装飾をする場合、この仮想空間でさまざまなオブジェを設置し、実際のイメージを体感することが可能だ。茂谷氏は「イベントをプロデュースする我々としては、本物と同レベルでイメージの擦り合わせができる」と話す。また、「実物をつくらなくても良い分、サステナブルである」と朴氏はそのメリットを強調した。これに沼倉氏は賛同しながらも、「実際の場所で体験できるというのもTOKYO NODE LABの良いところ、デジタル上だけになってしまうと、あまり面白くなくなってしまう」と付け加えた。
さらに、Questを使い、バーチャル上に架空の人物を配置したプロジェクトなども紹介。朴氏は「今ある街は変わらず、デジタルレイヤーで新しい街を楽しめる。ただの日常がドラマチックになる。ストーリーをまとって街を歩くような、新しいエンタテインメントになるのではないか」と期待を語った。
今後、同LABでは10月に控える設立1周年に向け、さまざまな取り組みを発信していくという。これからの動向に注目したい。