総合研究大学院大学(総研大)は7月8日、宇宙で最も明るく激しい爆発現象である「ガンマ線バースト」(GRB)を観測するためにNASAが打ち上げた衛星「スウィフト」による観測データを機械学習モデルと組み合わせることで、GRBの距離推定の精度を格段に向上させる手法を開発したことを発表した。
同成果は、国立天文台/総研大 天文科学コースのマリア・ジョヴァンナ・ダイノッティ助教(ネバダ大学ラスベガス校ネバダ宇宙物理学センター客員教授兼任)、ポーランド・ヤギェウォ大学のアディティア・ナレンドラ大学院生らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「TheAstrophysicalJournalLetters」に掲載された。
太陽は、核融合によって、わずか1秒間に全人類が1年間に使用するエネルギーのおよそ100万倍のエネルギーを発生させているという。しかしGRBは、そんな太陽が100億年という生涯をかけて放出するのと同じ量のエネルギーを、たったの数秒間で放出するという、現在分かっている中で宇宙で最も明るくて激しい爆発現象と言える。
GRBは極めて明るいため、宇宙の地平線(地球から観測可能な限界の距離で、ここから先は宇宙膨張速度が光の速度を超えるため、地球に光は一切届かない)に近いほどの遠方宇宙で発生しても観測することができる。そのため、GRBは最も年老いた最も遠い星を探すのに有用とされる。しかし現在の観測技術の限界のため、これまで観測されたGRBにおいて、どのくらい遠くで発生したのかを計算するのに必要な観測量がすべて測定されているものは、ごく一部に過ぎなかったという。
そこで研究チームは今回、複数の機械学習の手法を駆使して、スウィフト衛星に搭載されている紫外線/可視光望遠鏡と、すばる望遠鏡を含む地上望遠鏡とで観測されたGRBの距離を、距離に依らない観測量のみに基づいて正確に測定する方法を開発することにしたとする。
今回の手法は正確なため、推定された距離を使って、特定の空間と時間におけるGRBの発生数(頻度)を決めることができるという。また推定された頻度は、観測によって実測された頻度に非常に近い値になることも確認されたとした。
また、ダイノッティ助教らは、スウィフト衛星に搭載されたX線望遠鏡(XRT)を用いて観測された、GRBの残光データに対して機械学習を適用することでも、GRBまでの距離を測定することに成功したという。これらのデータは、通称「ロングGRB」というGRBの種類から得られたものだ。ロングGRBとは、さまざまなプロセスで起こると考えられているGRBの中で、大質量星が寿命を迎え、超新星爆発を起こした時に起きるものである。その一方で「ショートGRB」は、中性子星などの恒星が死んだ後に残る残骸同士が衝突する時に起きるとされている。
今回のアプローチの新規性は、複数の機械学習手法を組み合わせて、その総合的な予測能力を向上させる点にあるとする。この手法は、「超学習」と呼ばれ、各機械学習手法に0から1の範囲で重みを割り当てる。この重みがそれぞれの手法の予測能力に対応する。超学習の利点は、最終的な予測が単一の手法を使った場合よりも常に高性能であるという点であり、最も予測精度が低い機械学習手法を取り除くためにも利用されるとした。
なお、スウィフト衛星が取得したX線データを使って得られたGRBの発生頻度が、少なくとも相対的に近い距離では、星形成率に従わないことがわかったという。これは、近距離でのロングGRBが、大質量星の崩壊によるものではなく、中性子星のような非常に密度の高い物体の合体によって生成される可能性が示されているとした。
研究チームは現在、NASAのスウィフト衛星客員研究者プログラム(第19サイクル)の支援を受けて、対話形式のWebアプリケーションを通じて機械学習ツールを公開する作業を進めているとしている。