AWSジャパンは7月5日、企業・組織がシステムをクラウドに移行することを支援するサービス「AWS ITXパッケージ ファミリー」最新版に関する記者説明会を開催した。

最新版では、既存の「ITX for Cloud Native」と「ITX for MCP Partner」がアップデートされたほか、公共機関のクラウド移行を支援する「AWS ITトランスフォーメーションパッケージ 公共版(ITX for PS)」が追加された。

「AWS ITXパッケージ ファミリー」の概要

執行役員 パブリックセクター技術統括本部長 瀧澤与一氏は、「顧客と対話する中で、システムをクラウドに移行する際にさまざまな課題があることがわかってきている。こうしたクラウド移行に伴う課題を解決するため、ITXパッケージの提供を開始した」と説明した。

  • AWSジャパン 執行役員 パブリックセクター技術統括本部長 瀧澤与一氏

同サービスは2021年に提供開始、その後も顧客の要望に応える形でブラッシュアップされてきた。最新版は2024年6月にリリースされた。最新版は「ITX for Cloud First」「ITX for Cloud Native」「ITX for MCP Partner」「ITX Lite」「ITX for PS」の5つのプログラムで構成される。

  • AWS ITトランスフォーメーションパッケージの全体像

「ITX for Cloud Native」のアップデート

「ITX for Cloud Native」は、クラウドネイティブな技術を活用した移行を支援し、検討・評価・準備・移行の4つのフェーズでプログラムを提供する。

今回、評価フェーズで「データプラットフォーム検討支援」を、また、準備フェーズで「生成AI活用ワークショップ」を提供されることになった。

  • 「ITX for Cloud Native」の概要

「データプラットフォーム検討支援」としては、AWSの専門チームが顧客の現行データ基盤を分析し、モダナイゼーションのポイントやTo-Beアーキテクチャ案を提示する「DPMODA (Data Platform Modernization Assessment)」を実施する。

瀧澤氏は、同サービスを提供する理由について、「従来型データをそのままクラウドに移行すると、システムの効果を出せない可能性があるから」と説明した。

現行データ基盤の成熟度を把握することで、データプラットフォーム戦略策定に生かす。、To-Beアーキテクチャの検討を通して、単純移行にとどまらず、クラウドでの機能強化のヒントを提供するという。

「生成AI活用ワークショップ」では、6週間を目安にアジャイル型のインタラクティブなワークショップ「Innovation EBA (Experience Based Acceleration)」を提供する。同プログラムでは、AWSのサービスを使いながら生成AI のユースケースを体験できるという。

「ITX for MCP Partner」のアップデート

「ITX for MCP Partner」は、AWS移行コンピテンシーパートナー(Migration Competency Partner:MCP)が提供しているプログラムと、ITトランスフォーメーションパッケージが提供していたプログラムを組み合わせたもの。

MCPは、調査から計画、移行、運用までのすべてのフェーズにおける専門知識、豊富な実績やソリューションを持つことを認定されたAWSパートナー。

当初、同プログラムを提供しているMCPはSCSKのみだったが、クラスメソッド、富士ソフト、NHNテコラス、TIS、TOKAIコミュニケーションズ、CTC、サーバワークスが加わった。

「ITX for PS」の詳細

「ITX for PS」は、公共領域においても求められるシステムのモダナイゼーションや公共分野特有の要素への対応を中心に、従来のITXを拡張して、「システムのモダン化支援」「公共専門の分野に関するクラウド活用支援」「データ・生成AIの活用支援」を提供する。

瀧澤氏は、「公共機関には、調達や予算策定など、民間企業とは異なるプロセスが存在する。また、クラウド移行にあたっては、モダナイゼーションも進める必要があるが、それをどう進めるかが課題となっている。ITX for PSでは、公共ならではのクラウド移行にまつわる課題を解決する」と述べた。

下図を見ていただけばわかるが、同プログラムでは、公共では前年度にも準備が必要だとして、複数年にわたる内容となっている。

  • 「ITX for PS」の全体像

システムのモダン化支援

モダナイゼーションに向けたアセスメントプログラムとしては、以下が用意されている。

  • クラウドエコノミクス:運用生産性の向上など単純な利用コスト比較にとどまらないクラウド移行によるTCO分析を行う
  • モダナイゼーションアセスメント:特定業務システムのTo Beアーキテクチャを検討してモダン計画のインプットとする
  • アプリケーションポートフォリオアセスメント:移行対象システムを俯瞰的に分析しシステム特性に応じたクラウド移行パターンを推奨する
  • データベースフリーダム:マネージドなデーターベース移行を行うために必要な検証を支援する
  • ライセンス評価・最適化プログラム:システム環境を第3者機関により評価し、サードパーティーライセンスを最適化する

また、モダン化開発支援として、「モダンアプリプロトタイピング支援」と「モダン化体験型ワークショップ」を提供する。

公共専門分野支援

公共専門分野支援としては、中央政府、自治体、教育機関、医療機関、研究機関など、公共特有の専門知識、技術知識を持った技術チームが課題解決を支援する。

具体的には、クラウド人材および組織の育成を支援する。CCoE立ち上げとして、クラウドの活用を推進する組織の役割の定義や組織の形成、ロードマップの作製を支援、推進組織の業務に対する無償・有償の支援を提供する。

また、移行時の経済的負担を軽減するクレジットも提供する。追加のインセンティブを利用することで、移行(増分)に対して特定料率でAWS利用のクレジットを提供し、移行費用を相殺できるという。

データ・生成AIの活用支援

データ・生成AIの活用支援としては、「ITX for Cloud Native」と同様に、現行データ基盤を分析し、モダナイゼーションのポイントやTo-Beアーキテクチャ案を提示する「データ基盤モダン化支援」を提供するほか、公共分野における生成AIの代表的なユースケースの実装支援テンプレートによる「生成AI活用検討支援」を行う。

ユースケースの例としては、「RAGによるチャットボット」「テスト問題生成」「退院サマリ生成」「問診書き起こしとInsight」などがあるという。