名古屋工業大学(名工大)は7月3日、全固体電池の固体電解質用材料で重要な変形能に有用な設計パラメータを解明したと発表した。
同成果は、名工大大学院 工学研究科工学専攻(生命・応用化学領域)の谷端直人助教、同・中山将伸教授らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する材料化学全般を扱う学術誌「Journal of Materials Chemistry A」に掲載された。
全固体電池は現状、粒子間の接触性が低く、粒子間抵抗が大きいことが、固体電解質を適用する上で大きな課題となっている。
ハイスループット計算による材料スクリーニングは、高リチウム(Li)拡散性を持つ新しいLi+イオン伝導体を解明するために広く利用されてきたものの、変形能に明確な相関を示す設計パラメータを用いた材料スクリーニング例は報告されていなかったとする。このスクリーニング指標を明らかにできれば、高い変形能を持つ材料の発見を容易にできるという。
全固体電池製造時の密な粒子間接触は塑性変形により達成される。このタイプの変形は主に転位の移動により起こり、その際に必要な応力はテイラーモデルから剛性率「G」に比例することが知られている。粉末サンプルの圧縮を考慮すると、剛性率の平均値が変形に必要な応力に関係していると考えられるため、研究チームは今回、その剛性率の逆数を変形能の指標として使用することにしたとする。
まず、結晶構造データベースにあるLi-Cl化合物について包括的に計算した平均剛性率がグラフ化された。その中のLi拡散係数は、力場を使用した分子動力学シミュレーションを使用して計算され、熱力学的安定性もデータベースから抽出が行われた。その結果から今回の研究では、剛性率が異なる6つの塩化物化合物(Li2CoCl4、Li2CrCl4、Li10Mg7Cl24、Li4Mn3Cl10、Li2FeCl4、LiAlCl4)が検討材料として選択され、それらの変形能(相対密度と粒界抵抗)を実験的に評価、剛性率と変形能の相関が調べられた。
合成された塩化物の圧粉体に対して、Li拡散性を評価するためにインピーダンス測定が実行され、ナイキスト線図から得られた全抵抗Rtotal値とネルンスト-アインシュタインの式を用いて、伝導度拡散係数が計算された。同係数は、化学拡散係数に比べて過小評価されることがよくあるという。それにも関わらず、塩化物材料の伝導度拡散係数は、一般的な酸化物および硫化物正極材料の化学拡散係数よりも高いものが多く、今回の計算による高Li拡散材料のスクリーニング手法の有用性が示されているとした。
次に圧粉体のペレット断面観察により、ペレットの形状から相対密度を計算して変形能についての評価が行われ、圧粉体の相対密度が、塩化物間でも大幅に異なることが確認されたという。
また、DRT分析により、ACインピーダンス測定で得られた抵抗の異なる成分が区別された。DRT分析の結果は、2つの抵抗成分の存在を示唆しているとする。各抵抗成分の起源を決定するため、各成分の緩和時間と抵抗のフィッティング値から静電容量が計算された。ここで、XRDパターンから算出される結晶子サイズと、走査電子顕微鏡観察から得られる粒子サイズに対しBrickworkモデルを用いることで、第1と第2の抵抗成分の起源はそれぞれ主に結晶子粒界と粒子粒界であることが判明。そこで変形能の指標として、粒界抵抗(結晶粒界抵抗と粒子粒界抵抗の合計)に対する粒子粒界抵抗の割合Qが、各化合物について比較された。
剛性率と変形能(圧粉体の相対密度と粒子粒界抵抗割合)の相関関係については、全固体電池の代表的な材料である酸化物材料や硫化物材料にも適用できると期待されたことから、酸化物(Li3BO3、Li2CO3、Li2SO4)、硫化物(Li3PS4)に対しても同様の解析が行われた。それらの結果に基づいて、全固体LIB材料の変形能に関して、以下の設計ガイドラインを提案できるとする。
- 圧粉により相対密度~100%の緻密体を得たい場合、剛性率が12GPa以下の材料が望ましい
- 圧粉体における粒子粒界抵抗の相対的な大きさを最小限(約10%)に抑えるには、剛性率が18GPa以下の材料が望ましい
(上述の剛性率は、今回の研究における382MPaの一軸プレスの圧粉条件における値)
対照的に、従来指標とされていた体積弾性率Bは変形能との相関性が低いことが確認された。この結果は、転位の移動に関連する剛性率が変形能の適切な指標であることが示されているという。
なお今回の変形能に関する相関関係は、剛性率という変形能指標は電池材料だけでなく、圧粉体が使用される工業や医療の分野にも適用されることが期待されるとしている。