日本メドトロニック、キヤノン、キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)、ザイオソフトの4社は7月3日、コンピューター断層撮影装置(CT)で撮影した肺の構造をMR(Mixed Reality:複合現実)で観察できる医療従事者向けのトレーニングシステム「MR Anatomy」の提供を同月上旬から開始すると発表した。価格は税別で25万円。

  • 「MR Anatomy」の利用イメージ

    「MR Anatomy」の利用イメージ

開発の背景

外科医が安全で正確な手術を行うためには、臓器の構造を立体的に把握することが重要だが習得は容易ではなく、数年を要するとも言われており、特に肺がん手術では区域切除と呼ばれる、小さく腫瘍を取り除く手技が増加し、それに伴い精緻な肺の構造の理解が外科医に求められているという。

近年では、3次元医用画像処理システムで3D画像を制作し、平面のPCモニター上で観察をしているが、実寸大ではなく、立体視できないため3Dの利点を生かしきれなかったという。特に医学生や若手外科医は平面のPCモニター上で、短期間で立体的な構造を理解するのは容易ではないとのこと。

「MR Anatomy」の概要

そのため、同システムはザイオソフトの3次元医用画像処理システムなどで出力した3Dデータ化した肺のCT画像を、キヤノンのMRシステムで現実空間に実寸大の3D画像で表示。2D画像では把握することが難しかった、症例ごとに異なる病変の位置や血管の走行、臓器の大きさなど、肺の解剖学的構造を実寸大で立体的に理解することを可能としている。

トレーニングではあるものの、実際の検査画像を使用することで理解を深めることができるという。これにより、長年の経験で培われる肺の立体的な構造の理解を促進し、医学生や若手外科医をはじめとする医療従事者の教育・トレーニングの質の向上に貢献するとしている。

また、3Dデータ化した肺のCT画像を専用アプリケーションを用いてPCでドラッグ&ドロップするだけでセットアップが完了し、すぐに観察を開始することができるほか、表示した肺の3D画像は体験者の手で拡大・縮小や回転させるなど、直感的に操作することを可能している。

  • 「MR Anatomy」の視点イメージ

    「MR Anatomy」の視点イメージ

利用方法は、ノート型PCの専用アプリケーションに(CT画像をもとにした)3D画像を取り込み、キヤノンのMR用ヘッドマウントディスプレイ「MREAL X1」を通じて、3D画像の肺のモデルを観察。なお、クラウドへのデータのアップロードの必要はない。

  • 画像作成から観察までの流れ

    画像作成から観察までの流れ

同システムの開発は、低侵襲な肺切除術に使用されるステープラーやシーリングデバイスなどの高度な技術を提供してきたメドトロニックが開発をリードし、販売も担う。2024年中に4施設の呼吸器外科にMR Anatomyの導入を予定。

パイロット導入の成果を検討のうえ、発売から3年以内に30施設での導入を目標としていることに加え、肺以外の臓器での活用や術前シミュレーションにおける使用ニーズが高まった際には、医療機器としての申請を目指す考えだ。