東京大学(東大) 物性研究所は7月1日、熊本県美里町の山中の砂白金から新種の鉱物「不知火鉱(しらぬいこう、学名:Shiranuiite)」を発見したことを発表した。

  • 熊本県美里町で採集されたプラチナ系砂白金

    熊本県美里町で採集されたプラチナ系砂白金。少量の砂金が伴われている(出所:東大 物性研究所プレスリリース)

同成果は、東大 物性研究所の浜根大輔技術専門職員、アマチュア鉱物研究家の田中崇裕氏、同じくアマチュア鉱物研究家の新町正氏らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本鉱物科学会が刊行する欧文学術誌「Journal of Mineralogical and Petrological Science」に掲載された。

Pt系白金族元素は、触媒など利用用途が多いことから資源として渇望されている。第2次世界大戦時には需要が急拡大したといい、当時国内唯一の砂白金産地とされた北海道では、数十万人が動員されて鉱床探査や採掘がおこなわれたとのこと。しかし結局プラチナ(Pt)系砂白金鉱床が見つかることはなかった。

砂白金鉱床は北海道に多く分布することが知られているが、北海道の砂白金はイリジウム(Ir)‐オスミウム(Os)‐ルテニウム(Ru)成分が主なイリジウム系白金鉱床であり、日本においてPt‐ロジウム(Rh)‐パラジウム(Pd)成分が主なPt系砂白金鉱床は、これまで見つかっていなかった。

そうした中で浜根氏らの研究チームは2019年、熊本県美里町山中の河川から砂白金を発見した。その後それらを電子顕微鏡で詳細に調べたところ、ほとんどの粒子がPtを主成分とする「イソフェロプラチナ鉱(Pt3Fe)であることがわかったとのこと。採集された砂白金のほとんどがPtを主成分とすることは、その地がPt系砂白金の鉱床であることを意味するといい、この美里町の鉱床は、日本初かつ唯一のPt系砂白金鉱床として認識されているとする。

  • イソフェロプラチナ鉱(Pt3Fe)

    イソフェロプラチナ鉱(Pt3Fe)。背景は1マス1mm(出所:東大 物性研究所プレスリリース)

なお、研究チームが発見した鉱床が位置する美里町の山中には、マントルのマグマ溜まりで生成される輝石岩体が広がっている。Pt系白金族元素はマグマに凝集しやすいという特性があり、世界的にもPt系砂白金の産地には輝石岩体が見られる。そして美里町ほどに輝石岩体が分布する地は国内にはなく、北海道ではなく熊本県でPt系砂白金鉱床の発見に至ったのは、地質的な裏付けがあったとしている。

またこれまで研究チームは同鉱床から「皆川鉱(みなかわこう、学名:Minakawaite)」と「三千年鉱(みちとしこう、学名:Michitoshiite-(Cu))」という2つの新鉱物を発見。以降もさらなる新鉱物の発見が期待されていた。

そして研究チームは今般、美里町の山中を流れる釈迦院川の支流から砂白金を採集し、電子顕微鏡を用いて粒子を1粒単位で詳細に分析。その結果、硫銅ロジウム鉱という既知の鉱物と同じ見た目をしていながら組成が異なる新鉱物の不知火鉱を発見したという。同鉱物は、銅(Cu)、Rh、硫黄(S)を主成分とし、理想化学組成がCu+(Rh3+Rh4+)S4となる「スピネル族」であり、砂白金粒子になかば抱きかかえられるような形で産出しているとする。

  • 不知火鉱を含む砂白金

    不知火鉱(中央黒色部)を含む砂白金(FOV=4mm)(出所:東大 物性研究所プレスリリース)

なお、不知火鉱の命名理由については、熊本県の古称である“火の国”にまつわる日本書紀に記された第12代景行天皇の九州巡幸の伝承に由来しているとした。

研究チームは美里町山中について、日本唯一のPt系砂白金鉱床であるだけでなく、3種類もの新鉱物が見つかっていることから、世界的にも特異な鉱床と見なせるとする一方で、鉱床規模は小さいため現時点での資源利用は難しいと考えているという。しかしながら、Pt系白金族元素の希少な国内資源という重要性から、今後は埋蔵量や成因についてさらに詳しく調査する予定としている。