6月28日、Appleはゴーグル型ARデバイス「Apple Vision Pro(以下、Vision Pro)」の販売を日本で開始した。このタイミングに合わせるかたちで、日本発のVision Pro向けアプリが各企業から続々と登場している。その1つがLIFULL社のLIFULL HOME'S「イマーシブモデルルーム」だ。今回LIFULL社ではメディア向けに同アプリの体験会を開催。筆者も早速、“未来の部屋探し”を体験した。
「ここで暮らすイメージ」が湧く、ワクワクの内覧を体験
イマーシブモデルルームは、物件情報の閲覧と内覧が行えるアプリである。内覧はVision Proに搭載されている「空間ビデオ」を通じて、3D映像を見るスタイルだ。
Vision Proの日本発売時点では、札幌のとある分譲マンションの情報が掲載されている。目の前のウィンドウにある「概要」には一般的な不動産情報サイトと同様、物件名や価格、広さ、立地などが書かれており、外観・内観画像も表示。これらの画像を別ウィンドウに展開し、拡大表示することも可能だ。「建物」には外観画像が複数枚表示される。ここで「3D表示」を選択すると、ウィンドウ横に建物の外観模型が現れる。これは拡大・縮小のほか、360度回転させることもできるようになっている。
このアプリ最大の特長である3Dモデルルームの内覧は「部屋」を選択することで行える。スタートした瞬間、目の前に、実際の室内にいるような空間が一気に広がった。室内は細部まで再現されており、例えば、リビングの窓からは実際に見えるであろう景色が見え、ここでの生活を想像させる。キッチンでは手を伸ばして常設の棚の高さを確認したり、シンクの高さや広さを覗き込んで見たりできるので、使い勝手の良し悪しをリアルに想像することが可能だ。実際、Vision Proを装着した状態で室内を歩いてみたり、しゃがんで天井を見上げてみたりしてみたが、まるで本物の部屋にいるかのような感覚だった。Vision Proさえあれば、この体験がいつでも、どこにいてもできるというのは、まさに新感覚、“未来の部屋探し”をしている気分である。
モデルルームの内覧の“不”を解消したい
では、LIFULL社はなぜ、イマーシブモデルルームを開発するに至ったのか。開発に携わった同社 LIFULL HOME`S事業本部 プロダクトマネージャーの徳山隆氏と、未来デザイン推進室 プロジェクトマネージャー 兼 エンジニアの上野哲史氏に話を伺った。
上野氏によると、LIFULL社ではこれまでもVRやARといった空間コンピューティングにつながる取り組みを多数展開してきたという。サービス化されているものでは、2018年5月に公開された「かざして検索」、2021年10月公開の「3D間取り」がある。研究開発分野では2020年9月に公開したVR体験のプロトタイプ「空飛ぶホームズくん」、2022年12月公開のAR体験のプロトタイプ「Finding Serendipity」がある。
2023年、AppleがVision Proのリリースを発表した際、LIFULL社ではこれまでの取り組みを活用し、新たなサービスが展開できないかという話し合いが始まった。徳山氏曰く、同社は「いかに社会課題を解決するかを考える会社」。そんな同社のアイデアとして出てきたのがマンション購入の際に行うモデルルームの内覧の“不”を解消することだったそうだ。
一般的に新築分譲マンションの場合、実際の建物が完成する前に、仮設のモデルルームで内覧会が行われる。間取りや価格帯など、人気のある部屋から売れてしまうため、購入意欲のある人はこの時点で判断することになる。つまり、そもそも購入前に実物を見られる機会は少ない。これが1つ目の内覧の“不”だ。また、モデルルームで再現されるのは一部の空間であり、全ての間取り、全ての部屋が再現されていることは珍しい。仮にされていたとしても、部屋の大きさや縮尺が異なる場合もある。モデルルームは、あくまでもおおよそのイメージを掴む場だと言えるだろう。
また、遠方のマンションを内覧したい場合、わざわざ足を運ばなければならないのも、内覧における“不”だと言える。このようなモデルルームの内覧における“不”を解決すべく、LIFULL社では約半年の時間をかけ、今回のアプリ構築を行った。
ユーザーの反応を見て、次の一手を決める
現状では1棟のマンションの情報のみの掲載であり、あくまでも“未来の部屋探し”のワクワク感を体感する場として提供されている。上野氏は今後、よりリアルに感じてもらえるよう、細部のつくり込みをしたり、壁紙などのオプション表示ができるようにしたりと、改良を重ねていきたいと言う。また、建物の周辺環境が見られるよう、街並みを再現することも考えているそうだ。
こうした構想がある一方、これから先、Vision Pro内でのサービスを拡充するのか、あるいは他のデバイスへ横展開するのかは決まっていない。
「リリースをきっかけに、デベロッパーさまや不動産会社さまとお話をし、次にどうしていくのかの戦略を立てていきます」(上野氏)
同社ではまず、より多くの人にイマーシブモデルルームを体験してもらえるよう、体験会の開催や不動産会社での展示を行っていくという。
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モデルルームの内覧の“不”を解消するイマーシブモデルルームの取り組み。LIFULL社が打ち出す“未来の部屋探し”が十年後にはスタンダードになっているかもしれない。そんな世界観に触れられた体験会となった。