6月12日と13日の2日間、「TECH+フォーラム 働きがい改革 2024 Jun. シナジー創出のカギとなる従業員エクスペリエンス向上」が開催された。13日には大阪芸術大学 客員教授でコミュニケーションコンサルタントのひきたよしあき氏が登壇。「職場コミュニケーションの極意~言っていいこと、悪いこと」と題し、職場におけるコミュニケーションについて解説した。

「世代による価値観の違い」が言葉を伝わりにくくしている

ひきた氏は最初に、現在は言葉が伝わりにくい時代になっており、その背景として「世代による価値観の違いがある」と指摘した。同氏によれば、年代別に大雑把に世代感覚を分類すると、下図のような6つに分類できるという。

  • ひきた氏が示した、おおざっぱな世代感覚

54歳から上は昭和的価値観を持つ世代で、高度経済成長、バブル、右肩上がりで、働けば働くほど豊かになった時代を経験し、「昭和バンザイ」という価値観を持つ。

働き盛りの40~53歳の人は氷河期世代と言われ、就職が極めて厳しい時代を経験している。上には団塊の世代というボリュームの多い層があり、子どもの数も多く、上司はほとんど昭和の人達で、昭和の価値観の中で育ってきた。しかし、ある程度の年齢になると昭和的価値観が通じない若者たちと接することになり、苦労しているとひきた氏は説明する。

39~28歳はミレニアム世代だ。インターネットをはじめとするITテクノロジーが広がっていく中で育ってきた世代であり、ガラケーも知っている。

その下の15~27歳はジェネレーションZと言われ、生まれた時から当たり前のように携帯やスマホに接してきた世代のため、上の世代に比べて「ちょっと冷めている」と同氏は話す。冷めているというのは、ITだITだと騒ぐよりは、もうそれが生活の中に根付いているので、価値観が違うということだ。例えば、ミレニアム世代の頃は携帯やスマホを教室に持ち込むのは禁止だったが、この世代では、教室の中にネット環境があり、携帯がつながっているのが通常であり、それに伴い、教育の方針も異なっている。

その下の14歳以下は、ジェネレーションαだ。父親も母親も携帯やスマホを使っており、家庭環境そのものがネット化されているような世代だと、ひきた氏は続けた。

また、同氏は、50歳あたりを境に教育的価値観が違うことについても取り上げた。

これは、1990年の7月におきた神戸高塚高校校門圧死事件がきっかけだという。この事件では門限の8時に教諭が校門を閉めたことにより、校門をくぐろうとした女子生徒が挟まれ死亡した。

この事件を契機に厳しかった校則を緩める時代になったため、50代以上かどうかで教育的価値観が違ってくるそうだ。

「いい人戦略」やホワイトエンジン/ブラックエンジンも要因

そしてひきた氏は、若い人達が「いいひと戦略」を採っていることも、言葉を伝わりにくくしていると語る。これは岡田斗司夫氏の著作『超情報化社会におけるサバイバル術「いいひと」戦略』(発行:マガジンハウス)が元になっているという。

若者は、少しでも変なことや批判的なことを言うと、すぐにネットに流されたり、LINEから外されたりすることを経験しているため、いい人でいる、無難でいることが生き残り術になっている。そのため、人と競争したり、勝ち負けを決めたりすることに消極的で、自分一人だけで成長するよりも、周囲と同じレベルになることが大事だと考える。

「これは決して悪いことではないと思っています。ただ、この“いいひと世代”が世の中をこじれさせているということもあるわけです」(ひきた氏)

また、人は「ホワイトエンジン」と「ブラックエンジン」の2つの心を持っていると同氏は説明する。「ホワイトエンジン」はSDGsが大事だ、ジェンダーが大事だ、平和主義だ、差別はいけないという正義の味方的な考えを指す。一方で、ネット炎上、ネット警察、ネットリンチなどに代表されるのが「ブラックエンジン」の心だ。

「こういう風に、外見では正義の味方、ホワイトエンジン化しながら、裏ではブラックエンジン化しているというような非常に難しい時代になっているのが、現代だと思います。これが言葉の伝わらない時代の考え方です」(ひきた氏)

職場コミュニケーションで意識すべき「北風言葉」「太陽言葉」

続いてひきた氏は、職場で言ってはいけない言葉を示しながら、職場のコミュニケーションの極意について説明した。

同氏は、セミナーのアンケートやSNSを通じて、およそ500人に、どういう言葉が人を追い詰めるのか、どういう言葉が人を楽にするのかという調査を行った。

そして、言葉で人を追い詰める言葉をイソップ寓話『北風と太陽』の北風になぞらえて「北風言葉」、心を楽にする言葉を「太陽言葉」と名付けたという。

「北風言葉」としては、「こうなると思ってたよ」、「私、聞いてないよ」、「まだ、終わらないの?」がある。

「こうなると思ってたよ」というのは、失敗した瞬間に、「ほら言わんこっちゃない、こうなると思ってたよ」と最後に裏切られる言葉であり、調査では、これが人を追い詰める言葉として、一番多く挙げられたそうだ。

2番目は「私、聞いてないよ」で、これには、「自分よりも誰かに先に話をしたんだ」、「俺よりも先に話す奴がいるのかよ」「俺、その話全然聞いてないよ」といった嫉妬を生んだ瞬間に、そのアイデアや提案が通らなくなるという。

「まだ、終わらないの?」という言葉は、明らかに「俺ならもう終わってるけど、まだ、終わらないの」という上から目線の言葉である。

また、最近、増えている北風言葉としては、「やりたいならやれば?」、「俺に聞くなよ」、「今、忙しいんだ」があり、これは部下の面倒を見ない、「俺は俺のことで手一杯なんだ」というような状況だと、ひきた氏は言う。「やりたいならやれば」という言葉は一見、自由に任せてくれるように思えるが、責任を取ろうとしない、無気力だと捉える人が多いそうだ。

「会社を辞める若者の中には、“あいつと合わないから”というよりも、会社の先輩がみんな無気力でやる気がないことを理由にする人が増えています。それはこういう言葉で、責任逃れをしている人がたくさんいるということです」(ひきた氏)

逆に、「太陽言葉」として、圧倒的に多かったのは「君に相談して良かった」だ。自分がいることで何かの役に立てた、自分の存在を認めてくれたと感じるため、若者に人気がある言葉だと同氏は説明した。

他にも、「君にしか頼めない、助けてほしい」と上の人から言われたときに、私も頑張ろうと思ったという意見や、業務が終わった後に「〇〇さんのおかげだ」と、名前を付けて言われたときに、モチベーションが上がるという意見があったという。

職場で注意すべきアンコンシャス・バイアス

「アンコンシャス・バイアスも注意すべき」だとひきた氏は語る。「アンコンシャス(Unconscious)」は無意識を、「バイアス(Bias)」は偏りや思い込みを指す。つまり、無意識のうちに勝手な思い込みをしているのが、アンコンシャス・バイアスである。

こういった偏見のタイプは200以上あり、その中でも典型的なものとして、「ステレオタイプ」(決め付け)、「確証バイアス」(都合のいい話)、「慈悲的差別」(よかれと思って)、「生存バイアス」(成功者の経験)がある。

「ステレオタイプ」の例としてひきた氏は「東北の人は口数が少ない」、「女子は理数系に弱い」、「老人はITに弱い」といったものを挙げた。これらは全て勝手な決め付けであり、自分の認識が今の時代にそぐわないのではないかと考えることが必要だ。

「確証バイアス」は、「あいつが言っているから大丈夫だろう」「ここまで頑張ってきたんだからなんとかなるよ」「ネットで誰々が言っていたから間違いない」「部長が言っていたのでこうすることにしました」といった、よくわからない確証をとって、これは大丈夫だと認識することだ。

「この確証が自分の思い込みになっていないか気を付ける必要があります」(ひきた氏)

同氏が「今、一番多い」としたのが「慈悲的差別」だ。「彼女は病み上がりだから、普通の人と同じ仕事をさせるのはかわいそうだ」「彼女は子供を産んで戻ってきたばかりだから、まずは、ちょっと見ていてもらおう」「「お前は営業に向いていない。お前のことを思っていっているんだ」といったことだという。

「これは、その人にとってみればいい迷惑だったり、まったく関係なかったりということもたくさんあります。この『良かれと思って』が、その人を傷つけることになるということを考えてほしいのです」(ひきた氏)

「生存バイアス」は成功者の体験、つまりは自慢話だ。「私は徹夜で仕事をして業績を上げたんだから、お前もそうすべきだ」「みんな50社、60社回って仕事を取ってきているんだ。君は努力が足りない」「こうして私は人生を切り開いてきた。君にもできる」といった言葉が該当する。

「今の時代と当時とでは成功体験は違います。これは10年、20年という単位ではなく、5年前と今とでも違うのです。成功体験とは、聞きたい人が『あの成功体験を聞かせてください』と言ってきたときに、初めて話すもの。成功体験がどれほど企業にとって障害になるかを考えましょう」(ひきた氏)

では、アンコンシャス・バイアスを防ぐ方法はあるのか。ひきた氏は「言わないことを決めておくこと」だと述べる。

「自分の口癖になっている言葉や相手を傷つけそうな言葉を言わないと決めておくことで、アンコンシャス・バイアスを回避していくことができます」(ひきた氏)

また同氏は、話を聞く側になった場合のポイントとして、共感する力である「傾聴力」と、相手に考えを整理させる力である「アクティブ・リスニング」の重要性も説いた。

組織を束ねるのは、目的を示す言葉

ひきた氏は講演の最後で「組織を束ねる言葉」について触れた。

組織を束ねる言葉とは、バラバラの組織に対し一つの方向を示して、「この組織はこういう目的のために動く」と決める「チームワード」だという。

「この言葉に従って、さっきまでバラバラだったものを同じ方向に揃っていく。こういう目標になるチームワードが、ものすごく必要です」(ひきた氏)

同氏はここでiPhone発売時にスティーブ・ジョブズ氏が示した「電話を再発明する」という言葉を例に、チームワードのつくり方を解説した。

チームワードは、このチームは何をどうするチームなのかということをまとめて、つくり上げることが重要である。かっこいいスローガンは、いろいろな解釈を生んでしまうため、「良くない」とひきた氏は言う。それよりも自分達の組織は何をどの方向に動かすのかということを言葉にした上で、全員で共有し、共通の目的に向かってどうすれば良いのかを雑談できる組織をつくっていくことが大切なのだ。

「これがチームワークということなのです。このようにして職場というものをまとめていくことができると、そのチームは強くなります」(ひきた氏)