BASE、資金調達サービスを「PAY.JP」加盟店にも提供 今後のプロダクト拡張戦略とは?

ネットショップ作成サービス「BASE」を運営するBASEは6月18日、「BASE」利用ショップに提供する資金調達サービス「YELL BANK(エールバンク)」を、100%子会社のPAYが運営するオンライン決済サービス「PAY.JP(ペイドット ジェーピー)」の加盟店にも展開する新サービス「PAY.JP YELL BANK」の提供を開始した。サービスの説明会では鶴岡裕太CEOや上級執行役員の高橋直氏などが登壇し、今回の新サービスの狙いや、今後のプロダクト拡張戦略を語った。

BASEはもともと、ネットショップ作成サービス「BASE」を利用するショップ向けの資金調達サービスとして「YELL BANK」を提供している。AIがショップの将来債権を評価し、BASEがその債権を買い取る将来債権のファクタリングサービスだ。

AIが自動的に将来債権を予測し、管理画面に表示するため、従来の資金調達の仕組みで発生する本人確認等の事前審査や書類提出などのフローが不要。利用事業者はこれまでにはない「スピーディーな資金調達」を実現できる。

将来債権額は、サービスを通じた売上や運用実績をもとに独自のアルゴリズムで評価するため、ショップ・加盟店はBASEが提供するサービスを利用しているだけで、常に資金調達できる状態を維持できる。

資金調達手段としての利用はもちろん、緊急時の資金需要に備えて他の資金調達方法と並行して「YELL BANK」の存在を認識することで、より安心な事業環境の維持に役立てることが可能だ。

このほど、100%子会社のPAYが運営するオンライン決済サービス「PAY.JP」の加盟店にも展開を開始し、6月18日より新サービス「PAY.JP YELL BANK」の提供を開始した。

これにより「PAY.JP」を利用する加盟店は、その利用実績からAIが評価した将来債権額を上限金額とし、審査不要で資金をオンラインで調達できる。調達シミュレーションで調達後の流れを確認し、申込画面で「資金調達する」をクリックすればよく、資金調達した金額は、登録銀行口座に最短即日~5営業日以内に振り込まれる。手数料は調達金額の1~20%となる。

「PAY.JP YELL BANK」への支払いは、加盟店の売上から支払い率に応じた金額を控除することで自動的に行われるため、加盟店による支払い手続きは不要。資金調達後に売上がなかった場合には、そのリスクを「PAY.JP YELL BANK」が負担するため、加盟店は売上が出るまで「PAY.JP YELL BANK」への支払いが不要となる。

<「YELL BANK」の横展開はBASEのサービス拡張戦略の一環>

2018年12月に「BASE」利用ショップを対象に提供を開始した「YELL BANK」は、調達金額、調達UU(ユニークユーザー)数ともに増加し、リピーターも7割(2022年実績)を超えている。ショップの資金繰りの課題を解消する手段として利用されており、調達資金は新商品の開発や広告出稿などの販促活動をはじめ、幅広い用途に活用されている。

BASEグループは、「YELL BANK」がこれまで提供してきた「BASE」利用ショップへの資金提供のデータと運用実績をベースに、「PAY.JP」加盟店への同サービスの展開を計画してきた。2024年1月よりPoC(概念実証)を行い、資金需要に対する付加価値の提供が見込めたことから、新サービス「PAY.JP YELL BANK」の提供開始を決定した。

鶴岡裕太CEOは、「2023年12月期はグループのサービスのGMV(流通総額)が2700億円の規模になっている。以前は『BASE』だけだったが、『PAY.JP』も順調に成長している。2024年もGMVは順調に推移していて3000億円台の中盤くらいまではいくとみている」と話す。

▲GMVは「PAY.JP」が「BASE」を上回っている。

さらに、「創業からの10年間は、『BASE』や『PAY.JP』のGMVを大きくしていこうという取り組みに注力してきた。これからの10年はGMVを伸ばしつつ、チームのメンバーのリソースや会社のケイパビリティも大きくなってきたこともあり、それぞれのサービスを使っていただいているユーザーさんにもっと大きな付加価値を提供していこうと考えている。今回の『YELL BANK』を『PAY.JP』の加盟店に提供するサービスもその一環だ。今後も新しいサービスを作ったり、M&Aしたりすることで、プロダクトを作りつつ、横展開できればいいなと思っている」(鶴岡CEO)と話す。

▲鶴岡裕太CEO

<SMBの資金繰りの課題を解決する>

上級執行役員の高橋氏が、中小事業者(SMB)の決済・金融の現状について説明した。

「PAY.JP YELL BANK」の提供開始に伴い、「PAY.JP」加盟店を対象に実施した資金繰りに関する調査の結果を公開しており、半数を超える51.6%の加盟店が資金繰りの課題を抱えていると回答した。

課題としては、「時期により現金が足りない。1~3月はショートしそうになり怖い」といった季節性の要因、「薄利多売なため入金が遅れると次が厳しくなる」といったビジネスモデル起因や、「新規取引先で、前払いを要求されることがほとんどなので、仕入資金が増加し資金繰りが悪化する」といった仕入れサイクルの課題があった。

「SMBに資金繰りの課題を聞くと、大きくは『売り上げは上げたいが手元資金がない』『キャッシュフローに課題がある』などが挙がった。象徴的なのが、『お金が必要なときこそ借り入れが難しい』という声だ」(高橋上級執行役員)と言う。

▲上級執行役員 高橋直氏

そもそもの「資金調達の難しさ」「審査に通らないことがある」「どのように増資するか」といった資金調達方法に関する課題もあがっており、資金調達に関連する課題を解消する仕組みにより、多くの加盟店をサポートできる可能性があるとしている。

一部の加盟店に関しては、「コロナによる売上回復の鈍化による運転資金の欠乏」「コロナ時に受けた融資の返済」「コロナ禍により借入金が増え、正常化には相当な期間が必要なこと」など、コロナ禍の影響から回復していないケースも多く見受けられたという。

資金使途に関する問いでは、現在の運営資金の使途の1位が「運転資金」、検討したことがある資金使途の1位は「商品サービス開発」となり、資金があれば商品・サービス開発によってさらなる価値を生み出せる可能性があることがわかった。

「ファクタリング(債権買い取り)」という資金調達手段を知っているかをたずねた問いでは、50%が知っていると回答した。「知らなかったが、使ってみたいと思った」と回答した加盟店が10%となり、活用方法や仕組みを伝えることで利用につながる潜在的なニーズが一定数存在していることが分かった。

「これまで将来債権を買い取るファクタリングは難易度が高いと言われていた。当社はネットショップ運営丸ごと支えており、日々の売り上げも全部見えているということで、将来債権についてリスクを取ることができた。プラットフォーマーとしてもともと取引のある事業者さん向けにサービスを提供することで、『YELL BANK』は手続きを簡略化でき、利用しやすいサービスとなっている」(高橋上級執行役員)と話す。

BASEは、これらの調査結果から、スピーディーで安心な資金調達の存在がサービスの成長を促進するという点において、今後「PAY.JP YELL BANK」がサポートできる領域は大きいとの考えを示した。

今後のプロダクト拡張の方針について、「ショップと取引先の間において、決済をスムーズにするところは長く取り組んできた。一方、『支払いを遅くする(B向けのBNPL)』や『入金を早くする(BtoBのファクタリング)』もサービスを展開できるか検討している。BtoCにおいてはBNPL『あと払いPayID』で分割払いのリリースを予定している。今回、『PAY.JP』加盟店向けに提供を開始した『YELL BANK』は、それ以外の事業者向けに提供していく可能性もある。それ以外にも決済・金融サービスを『BASE』利用ショップ以外にも横展開していきたいと思っている」(高橋上級執行役員)と説明した。