【連載<第5回>迫る!3Dセキュア2.0義務化の真実】カート側は個別対応も 追加コスト回収する施策強化

連載の第1~4回では、決済代行会社や日本クレジット協会による「EMV3ーDセキュア(S)」対応や呼び掛けについて取り上げてきた。一部のECサイト構築システム(カート)の事業者らは、EC事業者(ショップ)に個別で導入の相談や提案をしているという。GMOメイクショップでは、SaaS型の「makeshop」を利用するEC事業者のうち、約3割が導入済みで、中堅大手向けの「GMOクラウドEC」は8割以上が導入を完了しているという。

 

GMOメイクショップの担当者は、「業界全体でセキュリティーのリテラシーが向上していて、EC事業者からネガティブな意見を聞くことは少ない」と言う。

 

追加コストやカート落ちのリスクがあることから、マーケティングなど別の施策でEC事業者の売上高を伸ばせるように注力したい考えだ。

 

「EMV3ーDS」の導入においては、カート事業者の支援が重要となることから、サポート面の強みを生かせるチャンスとなっているようだ。あるSaaS型のカート事業者によると「標準機能として『EMV3ーDS』を追加したので、ショップの作業負担は少ない。必要性や具体的なスケジュールについては、サポート担当がショップごとに対応している」と話した。

 

GMOメイクショップが提供する「GMOクラウドEC」では、「『EMV3ーDS』の導入は標準機能としているため、短期で構築ができるが、決済画面の自由度が高く、デザインなどにこだわった結果として3~4カ月はかかる事例が多い。早い段階で導入する企業が多く、2024年5月時点で8割以上が導入を完了した。残りの2割も期限までに間に合うだろう」(事業推進部副部長・佐々木勝氏)と説明した。

 

SaaS型では「EMV3ーDS」の導入におけるカート自体の追加のコストはかからないが、「決済代行に支払うコストは1カ月当たり1000円ほど増える」(事業推進部部長・石井貴氏)といった事例がある。

<ショップの理解進む>

「EMV3ーDS」の必要性については、ショップ側の理解も深まっている。前出のGMOメイクショップの石井氏によると「実際に被害に合った経験を持つEC事業者でなくとも、情報漏えいなどに関するニュースに注目する事業者が多い。ここ数年で、業界全体のセキュリティーのリテラシーが向上している。40万円以上かかるような脆弱性診断を受けているショップも増えている」と言う。

 

同社ではオウンドメディアでの情報発信も強化している。「2025年3月の期限までの導入は現実的だと思う」(石井氏)と話した。

<後払い決済に注目>

「EMV3ーDS」の導入に関して、業界全体でセキュリティーへの意識の高さによる理解は進んでいても、かご落ちのリスクや追加コストを無視することはできない。

 

GMOメイクショップの石井氏は「『EMV3ーDS』のロジック自体は決済代行やカード会社によるものなので、かご落ちなどの原因が『EMV3ーDS』によるものかどうかはつかみきれない。それでも、導入のコストやリスクを軽いものだとは捉えていない」と話した。

 

前出のSaaS型カート事業者は「セキュリティーを高められるチャンスと捉え、システム全体をリプレイスし、新しいチャレンジをするショップもいる」と話した。

 

カート事業者は、追加コストを回収し、さらに成長するためのCVR(転換率)の向上施策に注力する方針だ。

 

後払い決済の注目も高まっている。決済の手段が多いほど顧客の満足度につながることから、「EMV3ーDS」を機に後払い決済を追加するEC事業者も増えているという。

 

物価高騰や人手不足などの他の課題も多く、「EMV3ーDS」の導入に踏み切れないショップも少なくない。「EMV3ーDS」の本質は、不正利用のリスクを回避することにある。

 

「情報漏えいをたった1回でもしてしまうと、顧客の信頼回復には時間がかかる。大変なことではあるが、『EMV3ーDS』をぜひ導入してもらいたい」(GMOメイクショップ・石井氏)と強調した。

     

(おわり)

■<第1回>2024年4月時点で対応済みは3割か 今後ベンダーに開発が集中のおそれ

https://netkeizai.com/articles/detail/11418

■<第2回>かご落ちリスクは商材次第 定期購入はリスク低いか?!

https://netkeizai.com/articles/detail/11543

■<第3回>本紙独自調査!EMV3ーDS対応済みは42%

https://netkeizai.com/articles/detail/11701

■<第4回>JCA実務指針を明確化 ECへの対応呼び掛け強まる

https://netkeizai.com/articles/detail/11773