化粧品OEMの実正は、超臨界抽出技術を活用した製品群の開発を推進している。超臨界抽出では、他の抽出方法では得られない成分を得ることが可能だ。直近では、「超臨CO2抽出サチャインチ油」の開発にも成功した。同オイルには、エラスチンを分解する酵素の活性を阻害する作用があることが確認されており、抗シワへの貢献が期待される。同社の中で、超臨界抽出を担当している、研究部の鈴木聡部長に話を聞いた。
ーー超臨界抽出によってさまざまなオリジナル原料を生み出し、化粧品用途で提案をしていると聞きます。超臨界抽出について改めて教えてください。
二酸化炭素の超臨界流体を使ったエキスの抽出法が超臨界抽出です。この技術を用いれば、天然素材から独自性の高い成分を抽出し、化粧品に配合することができます。低温圧搾法やヘキサン抽出など、他の抽出法では得られない有効成分を抽出することも可能になります。差別化された化粧品の開発に貢献できます。
当社の工場には、超臨界抽出装置を設置しており、超臨界抽出技術を用いた原料抽出を行うことができます。
当社ではすで100種類以上の原料から超臨界抽出によるスクリーニングを行っています。美白素材や抗シワ素材の開発にも成功しています＝別表参照。「この原料から超臨界抽出できないか」といったご要望をいただければ、オーダーメード原料の開発も可能です。
ーー超臨界抽出によって新たな化粧品原料の開発に成功したということですが。
サチャインチ（別名インカインチ）から超臨界抽出を行うことにより、このほど「超臨CO2抽出サチャインチ油」の開発に成功しました。化粧品素材としての表示名称は「プルケネチアボルビリス種子油」となっています。
このオイルには、皮膚の中で、肌弾力に寄与するエラスチンを分解する酵素「エラスターゼ」の活性を阻害する作用があることが、当社の研究で分かりました＝グラフ参照。
この研究では、「超臨CO2抽出サチャインチ油」において、他の方法によって得られるサチャインチ油よりもさらに強力なエラスターゼ阻害活性が確認されました。ヘキサン抽出のサチャインチ油には、エラスターゼ阻害活性はごくわずかでした。
濃度の異なる「超臨CO2抽出サチャインチ油」の効果を測定した試験では、一定の濃度までは、エラスターゼ阻害活性が、濃度を増すほど高まることが分かりました。ただ、どこまでも強くなるわけではなく、一定の濃度を超えると、頭打ちになるという特徴がありました。
これらの研究成果から、「超臨界CO2抽出サチャインチ油」には、「エラスチン分解酵素の活性を阻害する作用があることが示されました。加齢や紫外線などによる、エラスチンの減少によってシワが増えたり、肌のハリが失われたりするのを防ぐ機能があることが明らかになったと考えています。
ーー「超臨界CO2抽出サチャインチ油」の中のどのような成分が効果を発揮しているのでしょうか？
「超臨界CO2抽出サチャインチ油」には、3種類のトコフェロール（ビタミンE）が含まれています。エラスターゼ阻害活性には、トコフェロールが関与しているのではないかと当社では見ています。実際に、「α（アルファ）―トコフェロール」「γ（ガンマ）―トコフェロール」「δ（デルタ）」の3種類について、それぞれエラスターゼ阻害活性を調べる試験も実施しています。いずれも対照群比で、有意なエラスターゼ阻害活性が確認されました。3種のトコフェロールが有効成分である可能性が示唆されました。ただ、「超臨界CO2抽出サチャインチ油」の強力なエラスターゼ阻害活性を説明するには、この3つのトコフェロールの必要濃度は高すぎることになり、他にも有効成分があるのではないかと当社では見ています。
ーー超臨界抽出によって得られた、他のオリジナル素材についても教えてください。
例えば、「超臨界CO2抽出アマニ油」があります。このオイルのコラーゲン産生促進効果については、0.0001％という低濃度でも有意な効果が確認されています。エラスチン分解酵素活性抑制効果については、低温圧搾アマニ油など他の抽出法で得られるアマニ油に比べても強力であることを、試験により確認しています。「超臨CO2抽出アマニ油」の濃度を増すほど、エラスチン分解酵素の活性を抑制する効果が高まることも確認しています。
美白の効能を持つ「コメヌカ超臨界CO2エキス」「エゴマ種子超臨界CO2エキス」「ハトムギ超臨界CO2エキス」や、美白と抗シワの効能を併せ持つ「久慈産琥珀超臨界CO2抽出物」を開発した実績もあります。「エゴマ種子超臨界CO²エキス」については、特許も取得しています。
ーー今後の研究の方向性について教えてください。
引き続き、超臨界抽出による、新規原料の開発に取り組んでいきます。超臨界抽出の技術を利用することにより、しっかりとした効果を持つ天然由来の原料を、どんどん開発していきたいと考えています。
