【メーカーのLTV向上戦略を聞く】キーコーヒー、OMO基盤整備しコンテンツ拡充 購入率3.5倍、併用率も向上

コーヒー製造・販売大手のキーコーヒーは2022年10月にECサイトの刷新を機に、ECサイトや直営店舗、コーヒーセミナーの顧客IDを統合している。OMO(オンラインとオフラインの融合)の基盤を整えるとともに、ビジュアルマーケティングツール「visumo」を導入し、UGC(ユーザー生成コンテンツ)や動画、スタッフ投稿などのコンテンツを拡充している。多様なコンテンツをECサイトやオウンドメディア、セミナーサイトなどで配信し、顧客との接点を広げ、関係性強化にも取り組んでいる。実際、「visumo」を経由したユーザーのECサイトにおける購入率は、非経由ユーザーよりも3.5倍高く、滞在時間も3.3倍伸びている。直営店舗やECサイト、セミナーなどのクロスユースも高まっている。メーカーが取り組む顧客のLTVを高めるOMOやコンテンツ施策について、マーケティング本部 市場戦略部 カスタマーリレーションチームリーダー 兼 コーヒー教室室長 前田智紗氏とカスタマーリレーションチーム 主任 菅生瑛子氏に聞いた。

――キーコーヒーの事業概要は?

菅生:海外における農園事業から、コーヒーの製造・販売まで、コーヒーに関する事業を幅広く展開しています。

商品はレギュラーコーヒーを中心に、インスタントコーヒーや飲料、ギフト商品、法人向けには食材や器具など多数取り扱っています。取引先は、小売店や喫茶店・ホテル・飲料メーカーなど多岐にわたります。

グループ会社では、ECサイトを運営していたり、六本木の「アマンド」や「銀座ルノアール」などの飲食店も展開しています。海外にも子会社があります。

ーー直営店舗も運営されていますか?

前田:直営の店舗には、百貨店などで挽き売りの豆を取り扱っている店舗があります。また、「KEYS CAFE」は、本社ビル1階に直営店を運営しているほか、カフェを開業・運営したいお客さまには、当社が培ってきたノウハウを提供し、「パッケージカフェ」として全国で展開しています。

ーーキーコーヒーセミナーというのはどういう取り組みですか?

前田:当社のコーヒーセミナーは主に一般生活者の方に向けて、コーヒーのいれ方やおいしい飲み方などの知識をお教えする対面型のセミナーです。季節に合わせて、アイスコーヒーのいれ方を教える期間限定セミナーや、喫茶店を開業予定の方に向けてハンドドリップやエスプレッソのいれ方をレクチャーする内容で開催することもあります。

当社の商品をおいしく飲んでいただくだけではなく、キーコーヒーというブランドを好きになっていただいて、ファンになってもらうためにも、セミナーというリアルでのコミュニケーションは非常に重要だと考えています。

▲キーコーヒーセミナーを開催

<ECや直営店舗、セミナーの顧客IDを統合>

ーーデジタル施策で取り組まれていることは?

前田:2022年10月にecbeing社と連携し、ECサイトを全面リニューアルしました。その後2023年1月ごろにコーヒーセミナーの予約システムとECサイトの顧客IDを統合しました。そして今年3月には直営ショップの顧客IDも統合し、ECサイト利用・直営ショップ利用・コーヒーセミナー予約でたまるポイントの共通化、相互利用も可能となりました。

▲2022年10月にECサイトを刷新

直営ショップのお客さまがコーヒーセミナーを受講してくださったり、コーヒーセミナーのお客さまがECサイトで商品をご購入していただく動きがみられており、そういったお客さまの行動履歴を一元化して確認できるようになりました。

キーコーヒー全体でLTVを高めることをミッションに、お客さま1人ひとりが当社の複数のサービスと接点をもち、利用いただける状態を目指しています。

ーーLTV向上がECサイトのリニューアルのきっかけですか?

前田:コロナ禍の少し前、セキュリティに関する事故のニュースをよく目にするようになったのをきっかけに、当社は機能性以外に安全性のより高いECプラットフォームへの切り替えを検討しました。

また、1度買っていただいたお客さまのリピート利用促進、ロイヤル化施策を強化したいと考えていたため、そのための機能が標準装備されたパッケージを選定しました。

――コーヒーセミナーの予約システムも刷新したのですか?

前田:コーヒーセミナーの予約システムも以前は異なるシステムを採用していましたが、ECサイトのリニューアルを検討する際に顧客接点の全体像を見直しました。顧客情報を統合管理できる体制を構築し、データをコミュニケーションに活用できるようにしたいと考えました。

顧客情報が統合されていないと、お客さまに合ったコミュニケーションを行うのはなかなか難しく、デジタル上だけでなくリアルでの接客の質にも関連してきます。ECサイトで何回も購入しているロイヤルティの高いお客さまが初めてコーヒーセミナーにいらした際、こういった情報を事前に確認し接客に反映できれば、サービスに対する満足度が上がりそうですよね。

LTV向上を目指す上で、システムを統合することは必須だったのかなと思っています。

ーーキーコーヒーはメーカーとして商品を卸売りしていくBtoBの取引がメインだと思いますが、顧客のLTV向上といった視点はいつぐらいから持たれていたんですか?

前田:2年前くらい前ですかね。特にデジタル上で直接接点を持てるお客さまとの向き合い方を再考しました。お客さまを理解し、関係性を深めていく取り組みが大事であるという考えから、システムを統合し関連する仕組みづくりを進めることになりました。

▲マーケティング本部 市場戦略部 カスタマーリレーションチームリーダー 兼 コーヒー教室室長 前田智紗氏

<UGC、動画、スタッフ投稿を導入>

ーーECサイトのコンテンツは以前から強化していましたか?

菅生:ECサイトのリニューアル前は、当社からの一方的な情報発信をするだけに留まっていました。リニューアル後にお客さまにとって刺さる情報は何かというのを少しずつ意識し始めて、コンテンツを作っていきました。

ビジュアルマーケティングプラットフォーム「visumo」を導入し、生活者のSNSの投稿や動画をECサイトに活用し始めてから、コンテンツの幅が広がりました。企業発信だけでは訴求できていなかった方法でECサイトの購入を促すことができるようになってきたかなと思います。

――「visumo」はいつぐらいから活用していますか?

前田:本格的に使い始めたのが2023年4月ごろです。ECサイトをリニューアルする際に、ただ販売するためのサイトではなく、来ていただいた方にコーヒーや当社の商品に興味を持っていただいたり、購入後に来訪した際もプラスアルファの情報を提供できるサイトにしたいと考えていました。そういう観点から「visumo」はとても有効なツールだと思い、ご提案いただいてすぐに実装しました。

ーー「visumo」はさまざまな機能を持っていますが、活用している機能は?

前田:UGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用できる「visumo social」、動画を管理・配信できる「visumo video」、スタッフ投稿を管理・配信できる「visumo snap」を活用しています。まずはECサイトやオウンドメディアのコンテンツを強化するために「visumo social」と「visumo video」から導入し、その後コーヒーセミナーに参加しやすくしたい、講師のことをもっと知ってもらいたいという思いから「visumo snap」を導入しました。

――「visumo social」では、どのようにSNSの投稿をコンテンツとして活用していますか?

前田:ECサイトでメーカー発信のいかにもカタログにありそうな情報だけを発信していても、なかなかその商品を「買ってみたい」と思ってもらいにくいのではないかなと考えていました。

実際にその商品を愛用しているユーザーさんのSNS投稿をサイトに載せることで、商品の魅力がより伝わり、購入につながることを期待して「visumo social」を活用しています。SNS投稿を引用したコンテンツから、関連商品のページを紹介し、回遊率を高める狙いもあります。

▲ECサイトで許諾の取れた顧客のSNS投稿を掲載している

当社の場合、商品に関する投稿以外にもKEYS CAFE直営ショップ、セミナーや取引先の店舗などに関する投稿も幅広く収集できますので、コーポレートサイト内の各ページにもUGCを活用させていただいています。

コーポレートサイトですと、店舗情報ページで実際に来店したユーザーさんの投稿を載せることで、どんなお店なのか、利用した感想などが非常にわかりやすくなると考えています。

ーーECサイトに掲載しているUGCの選定基準はありますか?

菅生:生活のワンシーンをきれいに撮影した映えるコンテンツも魅力的ですが、コメントで奥行きのある情報が届けられるかどうかを注視しています。ユーザーさんの反応を見ていると、映えるコンテンツでもコメントがシンプルだと、ユーザーさんの関連商品への回遊率が低いことが分かっています。

コメントで「こういう点が便利で使っている」「子どもを送り出した後にちょっと時間が空いたから簡単にコーヒーをいれた」というような具体的な感想や利用シーンについて書かれている投稿をピックアップしています。

ーー共感したり気付きを得られるようなコメントが付いている投稿の方が、より商品を見てみようという気持ちになるんですかね?

前田:そういう投稿の方が、見ていただいた方にとってリアルに感じられるのかもしれないですね。ユーザーさんは50代以上の方が多いので、こだわりを持っていたり、しっかりと情報を見て役立てたいというニーズが大きいのかもしれません。

UGCをきっかけに、流入してきた若年層の方にも商品に興味を持っていただきたいとも思っています。

ーーピックアップするUGCは日々、工夫しているのですか?

菅生:そうですね。特にECサイトに掲載するUGCは、ECサイトでその時に表示しているの特集に応じて変えるようにしています。

▲マーケティング本部 市場戦略部 カスタマーリレーションチーム 主任 菅生瑛子氏

前田:ページの画像やテキストを差し替えるのは大変ですが、「visumo」だとユーザーの反応を見ながら、順番を入れ替えたり、ピックアップするものを変えたりするのが比較的簡単にできますので、非常に運用しやすいです。

<効果検証しながら動画を作成>

ーー「visumo video」による動画はどのように活用されていますか?

菅生:動画はECサイトやコーヒーセミナーのサイトなど、それぞれのメディアの目的と顧客属性に合わせて、集客から購入までのファン化につなげられるように活用したいと考えています。

ターゲットのファン度に応じて、このメディアでは「こういう動画を評価してくれているな」というのが少しずつ分かってきたところなので、その狙いに応じて動画を作成して配信しています。

前田:「visumo」導入前は、インスタグラムのリール動画のためだけに時間をかけて動画を制作していました。リール動画も効果はあると思いますが、直接的な成果は見えにくい部分もあります。

「visumo」を導入して「もっと購入につながる動画は何か」「商品ページに誘引できる動画は何か」といったことを考え、検証しながら強化しています。

「visumo」を活用した動画は当初、ECサイトだけで配信していましたが、今はコーポレートサイトやオウンドメディアでも配信しており、配信する面も広がっています。

ーーチャネルに合わせて配信する動画を変えたりしているということですが、どのように運用しているのですか?

前田:インスタグラムなどSNSでは、比較的新しいお客さまとの接点を獲得したいという狙いがありますので、商品をストレートに紹介するというよりは、もう少し広いテーマの動画を配信しています。コーヒーを使ったレシピを紹介したり、コーヒーのいれ方をお伝えしたりするような動画です。

一方、ECサイトなどのオウンドメディアでは、商品をより詳しく伝える動画を配信し、商品を買いたいと思っていただいている方に深い情報を提供することを意識しています。

ーー実際、どういう動画の反応が大きいのですか?

菅生:コーヒーに関するコラムを書いているサイトでラテアート関連の記事の中に、ラテアートの動画を掲載したところ、想定以上にクリックしていただき、セミナーやECサイトの商品ページに回遊していました。

当社はレギュラーコーヒーがメインなので、ラテアートに関する記事の需要は低いと思ったのですが、意外とニーズがありました。

▲ラテアートの作り方を紹介する動画も配信

前田:LINE公式アカウントのメッセージから動画に直接誘導する取り組みも最近やり始めたのですが、この反応もかなりいいですね。

LINE公式アカウントは主に、直営ショップのお客さまに登録していただいているのですが、そのLINEを通して、今、販売しているコーヒーを紹介する動画を「担当者のおすすめ」のような形で紹介したりしています。

菅生:動画だけではなく、「visumo snap」を活用して投稿したスタッフの投稿もLINEで配信しています。スタッフの商品に対するおすすめのポイントを見ていただくことで、商品の購入率も高まっています。直接商品ページに誘導するよりも、動画やスタッフ投稿のコンテンツに誘導した方が効果が出ていると感じています。

前田:商品ごとに「こういうふうに訴求していきましょう」というコンセプトが、会社としてある程度決まっていますので、直接的な商品紹介ではカジュアルな表現が難しい面があります。

それが担当者の声として発信するコンテンツですと比較的自由に、接客に近い感じで紹介することができますので、ユーザーさんにも響きやすいのだと思います。

――動画を作成する際に気を付けていることはありますか?

菅生:商品情報のみを伝えるだけではなく、商品を楽しむポイントを動画に盛り込みたいと考えています。

文字で説明すると長くて分かりにくい情報も、15秒程度のショート動画で訴求することで閲覧されやすくなっていると思います。

前田:使い方が簡単な商品も動画にすると意外に見られますので、ユーザーさんはそういう情報も知りたいのだと感じています。

▲コーヒーのいれ方など動画で分かりやすく紹介

<コンテンツ強化で滞在時間3.3倍>

――「visumo」のコンテンツを見た方の反応は?

前田:「visumo」のコンテンツを経由したユーザーさんは、経由していない方と比較してECサイトにおける購入率が3.5倍高いという結果が出ています。

サイトの滞在時間も3.3倍となっており、コンテンツを参考にして購入に役立てていただいていることが分かります。

ーー「visumo snap」はどのように活用していますか?

前田:コーヒーセミナーの講師を紹介するために、2023年11月ごろから「visumo snap」の活用を始めました。講師がセミナーの様子を投稿したり、講師の人となりが分かるような投稿をしたりすることで、セミナーを受講するハードルが下げられたらと考えています。

ーー具体的にどのような投稿が多いのですか?

前田:普段のセミナーの雰囲気が伝わるような、実際にセミナーを実施している様子を紹介しています。

講師を紹介するという目的のコンテンツでは、講師がセミナーの準備をしている裏側や、家でコーヒーを楽しむ様子などを投稿しています。講師がお薦めするレシピの投稿もありますね。

▲講師がセミナーの雰囲気やコーヒーの楽しみ方などを投稿

講師だけではなく、商品に関するスタッフの投稿も出し始めています。コーヒーの飲み方を伝えたり、スタッフのお気に入りの商品を紹介したりしています。

――スタッフからの投稿で工夫している点は?

前田:講師の投稿からセミナー詳細ページへ遷移できるようにしていますので、投稿からセミナーに興味を持ってもらえるような投稿になればと考えています。

菅生:データを見ていると、セミナーの風景や参加者の集合写真などのクリック率が高いです。実際にどんな雰囲気でセミナーを実施しているのか、どんな方が参加しているのか、といったことに関心があるのだと思います。

前田:以前の講師紹介コンテンツは静的なページでしたが、「visumo snap」を活用することで、講師ごとの投稿を閲覧できるようにするなど、更新性のある動的なページになっています。

▲講師ごとの投稿を閲覧することも可能

セミナーに参加する前のユーザーさんが安心感を持ってもらえるようなコンテンツになっていると思います。セミナーに参加した方も、自分が受講した講師の様子を確認して、より愛着を持っていただけたらうれしいです。

ーーコーヒーセミナーは今後、さらに強化されるのですか?

前田:今後も強化していきます。限られた人員やスペースで運営していますので、なかなか開催数を増やすのは難しいですが、セミナーの満足度をより高めたり、内容をより充実させたりする取り組みは、日々、行っています。

<顧客のクロスユースを促進>

ーー実店舗やECサイト、コーヒーセミナーの連携は進めていきますか?

前田:ECサイトやセミナーの予約サイトをリニューアルし、顧客IDを統合しており、さまざまなチャネルやサービスをクロスユース(併用)していただくための施策に注力しています。

コーヒーセミナー受講後にそのセミナーで使った商品を「ECサイトで買えますよ」と案内したり、直営ショップのお客さまを中心に登録を促しているLINE公式アカウントからセミナーやECサイトの情報を配信したりしています。

どれだけクロスユースをしているお客さまがいるのかを毎月取得し、その方がどんなものを買っているのか、どういう属性の方なのかというところを把握できるように体制を整えています。

ーー実際にクロスユースにつながっているのですか?

前田:クロスユースしていただけるお客さまは増えています。当社としては他のチャネルやサービスを認知してもらえる場ができたというだけでもすごく大きな進歩だと考えています。

今までは、直営ショップを利用している方がお店を一歩出てしまうと店舗の情報すら届ける術がありませんでしたが、コーヒーセミナーを受講した方に、「今回の受講で取得したポイントをECサイトや直営ショップで利用できますよ」とメールなどで案内できるようになりました。

ーー今後、デジタルを活用した取り組みで、どのような点を強化していくお考えですか? 

前田:サービスのクロスユースを増やし、お客さまのLTVを拡大する取り組みは引き続き強化していきます。

散在していた顧客データは統合し整理されましたが、個別のコンテンツにはまだ課題があると感じており、ユーザーの利便性を高めるためオウンドメディア全体を見直していく計画もあります。

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