HPE(ヒューレッド・パッカード)は6月17日~20日まで米ラスベガスで年次カンファレンス「HPE Discover 2024」を開催した。19日の基調講演では、同社のCTOでエグゼクティブバイスプレジデントゼネラルマネージャーとしてハイブリッドクラウドの取り組みを率いる、Fidelma Russo氏が登場し、同社のアズ・ア・サービスブランド「HPE GreenLake」を中心としたハイブリッドクラウドの最新動向を説明した。
BMWはHPE GreenLakeを採用し、エッジでのデータ処理を高速化
オンプレミス製品を多く抱えるHPEは、5年前に「これからはハイブリッドクラウドになる」と宣言して取り組みを進めてきた、とRusso氏は説明する。その戦略は、2年前に火がついたAIブームでさらに強化されている。
Russo氏は「AIはデータを多く必要とする。データは分散しておりグラビティ(引き寄せる力、重力)があることから、AIは本質的にハイブリッドなワークロードだ」と話す。
そのため「HPE GreenLake」を使うことで、複数に分散するデータを管理し、エッジの近くでコンピューティングを実装できるほか、セキュリティ、規制遵守などの対策も取ることが可能だという。
「ITインフラを簡素化し、企業全体でコンピュート、ストレージ、ネットワーキングのニーズを管理できることでITリソースを解放し、イノベーションに時間と労力を費やすことができる」(Russo氏)。
HPE GreenLakeの顧客として、Walt Disney Company、BMW Groupが登場した。BMW Groupは、EV(電気自動車)の試運転データを分析すべく、HPE GreenLakeを利用してエッジからクラウドまでを管理している。
BMWのRené Te-Strote氏は「1回の試乗で約64TBのデータが生成される。このデータを(車にある)SSDから中央のデータレイクに入れるのに時間を要していたうえ、ディスクのメンテナンスも大変だった」と課題を明かす。
そこで簡単かつコスト効率よく大規模なデータを管理するために、HPE Ezmeralランタイムを含むHPE GreenLakeを用いて分散プライベートクラウドを30拠点で実装したという。
Te-Strote氏は「データのアップロードに2日以上を要していたのが、5分以内で完了する。データは顧客の近くにあるプライベートクラウドで処理される」と述べており、エッジで1TBを1時間以内で処理しているという。今後はAIを実装して、車載OS全体の検証や開発時間を最大10倍加速したいと話していた。
NVIDIAと共同開発した「HPE Private Cloud AI」、KVMベースの仮想化も発表
会期中、ハイブリッドクラウドでHPEは2つの大きな発表を行った。1つは、NVIDIAと共同開発した「HPE Private Cloud AI」、もう1つはHPE Private Cloud向けの新しい仮想化機能「HPE virtualization capability for HPE Private Cloud」だ。
HPE Private Cloud AIは、NVIDIAと提携して共同開発するAI向けシステムブランド「NVIDIA AI Computing by HPE」の最初の製品となり、コンピュート、ストレージ、ネットワーキングと2社のハードウェアとソフトウェアを統合。
すぐに利用できるターンキーとして、推論、RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)、ファインチューニングと用途に合わせて4種類(Small、Medium、Large、Extra Large)で展開する。
NVIDIAのエンタープライズコンピューティング担当バイスプレジデントのManuvir Das氏は、「これまでの仮想化、データベース、クラウドなどの大きなシフトと、根本から異なる。ITなど一部が変化を感じていたシフトではなく、全ての企業、全ての従業員が影響を受けるシフトになる」と述べる。
AIの受け入れについては「開発者が新しい技術を活用してAIアプリを構築するかが課題になっている」とDas氏。AIを試したり、プロトタイプを作っている企業は多いものの、プラットフォームがなかった、と課題を指摘する。2社のNVIDIA AI Computing by HPEはこの問題を解決するものだという。
「これまでにないタイプのエンタープライズアプリが登場すると見ている。データレイクがあり、その上に全てのデータがあり、モデルをホスティングするためのインフラがある。1000ものアプリがそれぞれ固有の業務を支援しており、運用環境で使いながら業務をする。2〜3年後には、そのようになっているのではないか」とDas氏は予想した。
同時に、AIは資金や人的リソースのある大企業向けと思われているが、規模が小さな企業こそ、AIを活用して売り上げを拡大するチャンスがある、とも述べた。
HPE virtualization capability for HPE Private Cloudは、オープンソースのハイパーバイザーであるKVMをベースとしたもので、可用性のためのHPEのクラスタオーケストレーション、統合的なデータ保護、ライフサイクル管理自動化などの技術とともにHPE Private Cloudに組み込む。
BroadcomによるVMware買収の余波が押し寄せる中で仮想化市場に参入する格好となるが、Russo氏は「顧客は選択肢を求めている。HPEは今後も業界のさまざまな仮想化技術をサポートすることで、選択肢を提供することを約束する」と述べた。
また、これによりコンテナとベアメタル、ランタイム機能が揃い、同氏は「完全に統合されたプライベートクラウドソリューションを提供できる」とした。ユースケースとして、仮想化されたレガシーワークロードと、クラウドネイティブやAIワークロードを同じプラットフォーム上で実行することができるという。
Russo氏は「HPE virtualization capabilityは、レガシー、クラウドネイティブ、AIワークロードをサポートするプラットフォームを、シンプル、直感的、自動化された体験として提供する」とまとめた。
最後に、同氏は「HPE GreenLakeを採用することで、AIのパワーを簡単に活用できる。HPEは信頼できるパートナーでありたい」と述べた。