化石ができる仕組みを応用すると地下の湧水を封止できることを、名古屋大学などの研究グループが北海道にある地下施設で実証した。地震でいったんは下がった封止機能が短期間で修復することも突き止めた。放射性廃棄物や二酸化炭素(CO2)の地下貯留に道を開く技術になるという。

  • alt

    開発した封止材は、調査ボーリング、地下トンネル、地下処分場、CO2貯留などで透水性を下げる目的で使用できる(名古屋大学博物館の吉田英一教授提供)

名古屋大学博物館の吉田英一教授(応用地質学)らの研究グループが着目したのは、自然の岩盤中で形成される炭酸カルシウムを主成分とした球状の岩塊である「球状コンクリーション」。タイムカプセルのように化石を状態良く長期間保存できる。ただ、岩塊は数十万年かかってできるというのが通説だった。

吉田教授らは、岩ガニなどの化石が生きたままの状態できれいに保存されているのを見て「数十万年もかかるのなら、岩塊化が進む間に捕食された跡などが化石につくはず。跡がないならもっと速く形成されているに違いない」と考えた。2008年頃から形成の仕方を本格的に研究し始め、2015年に炭酸カルシウムの濃集・沈殿によって数年から数十年で直径数メートルの岩塊ができると発表した。

  • alt

    左は人の背丈ほど大きくなった球状岩塊。右は約1600万年前の岩ガニの岩塊(名古屋大学博物館の吉田英一教授提供、岩ガニは岐阜県の瑞浪市化石博物館蔵)

岩塊が短時間で形成するなら水の浸透の遮断に応用できる、と吉田教授らは考えて開発を開始。液状タイプと粒子タイプの封止材をつくった。カルシウムイオンと炭酸水素イオンが高濃度に存在する状況になり、炭酸カルシウムの結晶ができることで固まるという。

  • alt

    粒子タイプ(左)と液体タイプの封止材。液体タイプは右2つの主剤と硬化剤からなり、2液を混ぜると右から3番目のように固まる(名古屋大学博物館の吉田英一教授提供)

岩盤にできた亀裂を実際に封止できるかどうか調べるため、日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センター(北海道幌延町)の地下350メートルにある研究所で、亀裂に液状タイプを注入して2021年10月から実験を始めた。封止した部分の透水性は時間の経過とともに下がり、100分の1になった。

実験開始から約1年後に震源の深さが5キロで強さがマグニチュード5.4、幌延町で震度4を観測する地震が起き、直後は透水性が10倍近く悪化した。しかし、1カ月半ほどすると自然と透水性が下がり、封止効果が再び現れていた。別の実験では透水性が1000分の1に下がることも確認した。

  • alt

    封止された地下岩盤(左)と透水試験のグラフ。透水性が8月11日の地震後に上がっており、封止効果はいったん低下したが、その後透水性が急激に下がり、再封止していることが分かった(名古屋大学博物館の吉田英一教授提供)

従来のように圧力をかけて亀裂にセメントを入れる方法だと、圧力で岩盤にダメージを与えてしまう。そのうえ、そもそもセメントからできるコンクリートには水酸化カルシウムが含まれており、100年ほどでカルシウムイオンが水に流れ出て封止効果が得られなくなる。

開発した封止材では地震後に再封止しているように、水の中にあるカルシウムイオンを用いて自己修復し、炭酸カルシウムの結晶をつくって固まる。このことから、半永久的な封止効果が期待できる。

液体タイプとともに開発した粒子タイプの封止材は、セメントに加えてコンクリートをつくることで、通常は100年ほどとされる封止寿命を延ばせる。「化石を内包するコンクリーションが存在する以上、今回の封止材で恒久的に水を止め続けることができるはず」と吉田教授は話す。

研究は、東京大学と岐阜大学、日本原子力研究開発機構、積水化学工業、中部電力と行い、英科学誌コミュニケーションズ・エンジニアリングに5月22日に掲載された。

関連記事

高レベル放射性廃棄物最終処分の基本方針改定

砂からケイ素産業基幹原料を直接合成