東京大学(東大)は6月14日、ウェアラブルデバイスやスマートフォンアプリなどによって構成される「デジタルヘルス介入システム」を用いることで、日常生活下での睡眠習慣の変容可能性を示したことを発表した。

  • デジタルヘルス介入システムの全体図

    デジタルヘルス介入システムの全体図(出所:東大プレスリリースPDF)

同成果は、東大大学院 教育学研究科の竹内皓紀特任研究員、同・山本義春教授、同・大学院 医学系研究科 内科学専攻 ストレス防御・心身医学分野の吉内一浩准教授、同・医学系研究科 機能生物学専攻 システムズ薬理学教室の岸哲史特任講師、同・大学 医学部の石澤哲郎非常勤講師(セントラルメディカルサポート 代表産業医兼任)、大阪大学 データビリティフロンティア機構の中村亨特任教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、医療サービスおよびデジタルヘルスに関する全般を扱う学術誌「Journal of Medical Internet Research」に掲載された。

現在、腕時計型の睡眠トラッカーなどのウェアラブルデバイスによって、眠りの長さやタイミングといった睡眠習慣の大まかな側面を簡易的かつ客観的に評価できるようになった。その一方で、計測されたデータをどのように睡眠改善に活用していくかという点に関しては、依然として十分な検証が進んでおらず、実践例が乏しいのが実状だという。そこで研究チームは今回、ウェアラブルデバイスによる睡眠計測で得られた客観的なデータから睡眠フィードバック通知を自動生成して対象者のアプリに自動送信するシステムを開発し、日常生活下での睡眠習慣の制御を試みることにしたとする。

まず、日本人就労者を対象に約2週間にわたりリストバンド型のセンサを装着してもらい、日々の睡眠データの記録が行われた。同時に、専用スマートフォンアプリを用いて、1日5回の頻度でその時の心身症状の記録が求められた。取得された睡眠データに対し、「教師なし機械学習」(データに含まれる特徴量に基づいて、内在するパターンの検出やカテゴリ分けをする学習手法)を用いることで、眠りの長さやタイミング、効率が日によって大きく変動する傾向、つまり睡眠不安定性を呈する亜集団が同定された。加えて、睡眠時間が不安定な人ほど、抑うつ気分や不安が高く、主観的睡眠の質を低く評価していることが突き止められたという。

  • 睡眠計測調査概要図

    睡眠計測調査概要図。ウェアラブルデバイスから得られた睡眠データから眠りの長さ・タイミング・効率(それぞれ、睡眠時間・睡眠中間点・睡眠効率)の個人内平均と個人内標準偏差が計算され、教師なし機械学習が適用された。その結果、睡眠不安定性を呈する亜集団(グループB)が同定された(出所:東大プレスリリースPDF)

そのような結果を踏まえ、睡眠時間の安定化を目的としたデジタルヘルス睡眠介入研究を実施することにしたとする。上述の研究の参加者を対象に、再度2週間にわたる睡眠計測と心身症状の自己評価が実施された。

研究期間中は、毎日昼の12時に昨晩の睡眠時間が個人ごとに自動推定され、参加者のスマートフォンアプリに「昨日の睡眠時間はあなたの平均的な睡眠時間より○○分程度長かった(短かった)」といったフィードバック通知を一定の確率(50%)で送信が行われた。これによって、通知を受け取った場合と受け取っていない場合との間で、その後の睡眠行動の変化を個人内で比較することを可能にしたとする。

このような介入内容をランダム化させる手法は「マイクロランダム化」と呼ばれており、日常生活下での健康介入の即時的な効果を検証する手法として近年注目を集めているという。実際、通知を送った場合は、受け取らなかった場合と比べ、最大で1時間程度睡眠時間が増加することが示されたとした。加えて、元来睡眠の乱れが顕著だった集団においては、睡眠時間の安定性が改善したことも確認されたとする。

  • 睡眠介入調査概要

    睡眠介入調査概要。階層ベイズモデルに基づき、介入の提供による即時的な睡眠時間の変容効果が検証された。睡眠不安定性を呈するグループBでは安定した睡眠習慣を持つグループAに比して、顕著な行動変容効果が示された(出所:東大プレスリリースPDF)

今回の研究で得られた知見は、脆弱化した健康状態の検知に基づく日常生活下での実時間介入の重要性を示唆するものだという。健康行動介入におけるウェアラブル計測技術の利活用方略の一例となることが期待されるとしている。