東京都医学総合研究所(NCNP)、東京大学(東大)、東京都医学総合研究所の3者は6月10日、思春期におけるインターネットの不適切使用が幻覚や妄想のような精神病症状や抑うつといったメンタルヘルスの不調に関するリスクを高めることを確認したこと、ならびにインターネットの不適切使用による抑うつのリスクは女性の方が大きいことの示唆も得たことなどを発表した。

同性かは、東京都医学総合研究所 社会健康医学研究センターの西田淳志 センター長、国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所の成田瑞 室長、東京大学(東大) 大学院医学系研究科の笠井清登 教授(同大学国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構(WPI-IRCN)主任研究者)、同 安藤俊太郎 准教授らの研究グループによるもの。詳細は学術雑誌「Schizophrenia Bulletin」にオンライン掲載された。

インターネットの使用によってイライラする、学業・家族や友人関係・睡眠などに支障が出る、時間を使い過ぎる、使い始めるとやめられない、他の人と過ごすよりインターネットを好む、周囲の人間から見て使用時間を減らした方が良い、などの状態を指す不適切使用について、これまでの研究では、インターネットの不適切使用とメンタルヘルス不調の相関は示唆されていたものの、因果関係を説明できるような研究成果はほとんどなかったという。そこで研究グループは今回、因果関係を示せるような厳密なデータ解析を行うことで、思春期におけるインターネットの不適切使用がメンタルヘルス不調のリスクを高めるかどうかの調査を行うことにしたという。

調査の対象となったのは2002年から2004年に生まれた未成年3171人。10歳、12歳、16歳のそれぞれの時点で、インターネットの不適切使用と、16歳時点での精神病症状および抑うつとの関連を、因果推論のための分析手法である「G-formula」を用いて調査を行ったとするほか、性別によってメンタルヘルス不調の経験に差があることから男女差の調査や、インターネットの不適切使用とメンタルヘルス不調との関連における、社会的ひきこもりの役割について因果効果の内訳を考えるための手法である「因果媒介分析」で調査も実施。また、年齢、性別、BMI、知能指数、親の年収、近隣環境などの影響を取り除くよう、統計学的に調整したほか、ベースライン時点でメンタルヘルス不調があった人を除外することで、メンタルヘルス不調がインターネットの不適切使用の原因という因果の逆転を厳密に防ぐことに留意して解析を行ったとする。

こうした取り組みの結果、因果推論からインターネットの不適切使用が、精神症状と抑うつのリスクを高めることが示されたという。例えば12歳時におけるインターネットの不適切使用は、16歳時の精神病症状を1.65倍、抑うつを1.61倍に増加させたとする。また、男女差を見ると、抑うつのリスクは女性の方が大きく加算されたとするほか、インターネットの不適切使用と精神病症状の関連のうち、9.4%~29.0%は社会的ひきこもりによって媒介されていたことも示されたという。

  • 思春期におけるインターネットの不適切使用

    思春期におけるインターネットの不適切使用が社会的ひきこもりにつながり、そこからさらに精神病症状につながることが今回の研究から示唆されたとする (出所:NCNP)

なお、研究グループでは今回の結果を踏まえ、インターネットは現代の生活に欠かせないツールとなっているが、若年者は使用時間が長いことが示されていることも踏まえ、そこで得られる便利さや楽しさとは裏腹に、不適切使用を続けた場合に生じるリスクも認識しておく必要性を強調しており、メンタルヘルス不調を経験する前に使用を控えるよう、親や学校など周囲の大人も若年者にそうしたリスクがあることを認識し、適切なサポートを提供する、などの対策を行っていくことが重要と考えらるとしている。