先日開催された米Nutanixの年次イベント「.NEXT 2024」。本稿では日本のメディア向けに行われた同社 プレジデント兼CEOのRajiv Ramaswami(ラジブ・ラマスワミ)氏のグループインタビューを紹介し、今後の同社における道筋について聞いてみた。
日本の懸念の大きさに驚いた
--VMwareがBroadcomに買収され、そのポリシーや文化が大きく変わったことから、日本では多くの顧客やパートナーが不安や怒りを感じています。この状況は、Nutanixが移行によりユーザー数を増やす機会だと思います。どのように受け止めていますか?
ラマスワミ氏(以下、敬称略):日本のお客さまが声を大にして懸念を表明していることに驚きました。日本を含む世界中の多くの顧客と協力しており、当社はこれに対応するためのプログラムを設置しています。
まず第一に、当社の文化原則は2つあります。1つはお客さまが成功することにフォーカスしています。そして、もう1つは長期的に物事を考えるということです。短期的な取引関係ではなく、私たちはお客さまとのジャーニー(旅路)を築きたいと考えています。
より具体的には、お客さまをサポートするパートナーコミュニティでは、当社は多くのパートナーをNutanixに引き入れるために働いており、そのための金銭的なインセンティブを提供しています。
一方、当社がお客さまの移行コストの一部を補うために動いています。当社では既存のハードウェアを再利用することを支援しているほか、お客さまと何が移行できるか、その移行を選択する場合の時間などを協力して評価を行います。さらには、引き続きR&D(研究開発)とイノベーションに投資を継続しています。
--Dellとの戦略的な提携は、Nutanixのビジネスにどのような影響を与えるのでしょうか?
ラマスワミ:昨年、当社はシスコと提携し、また従来からレノボやHPE(ヒューレット・パッカード)も当社の製品を再販しています。Dellとの協力関係は、SDS(ソフトウェア定義型ストレージ)「Dell PowerFlex」上でNutanixのソフトウェアを再販することを可能にします。
これまで、Nutanixでは外部ストレージとの連携がありませんでした。なぜなら、外部ストレージをHCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)に置き換えていたからです。Dellとの協業は当社がサポートする最初の外部ストレージシステムになります。
AHVは真のエンタープライズクラスのハイパーバイザー
--過去から現在に至るまでのAHVの価値について教えてください。
ラマスワミ:ハイパーバイザーは、2001年のVMwareのESXiが先駆けとなり、そのころにはLinuxカーネルをハイパーバイザーとして機能させるための仮想化モジュール「KVM」(Kernel-based Virtual Machine)など、ハイパーバイザーに関するオープンソースのプロジェクトは多くありました。
そこで、私たちは2014年に独自のハイパーバイザーとして「AHV」をKVMをベースに作り、当初はプラットフォームにハイパーバイザーを含めるだけにするというものでした。
そして、Nutanixプラットフォームを採用したお客さまには、AHVを使用するか、VMwareを使用するかを選択することができました。どちらの方法でも問題ありません。それから10年間で、AHVは多方面で進化しました。
私はAHVは真のエンタープライズクラスのハイパーバイザーだと考えています。それは、企業がミッションクリティカルなアプリケーションを実行するために必要なほぼすべての機能を持っているからです。また、アプリケーションベンダーや他のコンポーネントから必要なすべてのエコシステム認証も持っています。
例えば、Red Hat LinuxはAHV上で認証されています。また、AHVのためのテクノロジーパートナーのエコシステムも増えています。バックアップでは、すべての主要なバックアッププロバイダーがAHVをサポートし、Veeam、Rubrick、Cohesityと連携しています。
そして、ファイアウォールではPalo Alto、Ciscoと連携しています。エンドポイントセキュリティからネットワークセキュリティ、バックアップ、脅威評価までのすべてがAHVエコシステムの一部です。
AHVを進化させると同時に、並行してAHVのコア技術への投資も続けてきました。SAP HANAのような大規模なインメモリワークロードを実行できるようにしています。
--AHVはHCI構成であるため、単純にESXiなどから置き換えることが難しく、時間と労力がかかると考えている人もいます。
ラマスワミ:最近まで、私たちはAHVをスタンドアロンのハイパーバイザーとして提供しておらず、Nutanixのストレージでのみ動作しました。それには十分な理由があり、なぜなら顧客はVMwareを別のハイパーバイザーで置き換えることには、あまり興味がなかったからです。
ユーザーはVMwareにとても満足していましたが、今では大きく変化しました。今では多くの顧客が私たちに、VMwareのハイパーバイザーを置き換えることができますか?と尋ねてきます。私たちの答えは“Yes”です。そのため、外部ストレージパートナーとの協業をすることを決めたのです。
もしDell PowerFlexの外部ストレージを使用しているなら、Dell PowerFlexとともにスタンドアロンのAHVハイパーバイザをデプロイすることができます。だから、当社はAHVをよりスタンドアロンのハイパーバイザーにするジャーニーを始めています。
しかし、私が強調したいのは、それがまだ当社がサポートできる数についてはやや限定的であるということです。ここでは、Dell Powerflexから始めています。
時間とともに、私たちは他のIPストレージベンダーもサポートするようになるでしょう。しかし、私たちはIP接続ストレージのみに焦点を当てるつもりで、ファイバーチャネルは含まれません。IP接続にはNVMeなどが含まれます。
--基調講演で述べられた3つのポイントは、会社の未来に対するビジョンを反映していますか?
ラマスワミ:3つのポイントが私たちの会社のビジョンです。インフラを近代化するにはハイブリッド/マルチクラウドが存在し、それが今日のビジネスの大部分です。
そして、当社がは行っているすべての革新、コンピュート専用ノードのサポート、サードパーティストレージの提供、それらすべてが必要とされています。
次のステップとして、現代のアプリケーションとAIは企業にとって重要になるでしょう。これらは、当社が常に当社は何をしているのか?明日どこに向かっているのか?を見なければなりません。
「Run everywhere」の旅路は初期段階
--クラウドにおけるトレンドはどのようなものですか?
ラマスワミ:トレンドの観点から変わったことは、ほとんどの企業がハイブリッド環境を持つようになったということです。日本ではそれほどではないですが、世界中の他の人々と話すと、5年前の多くのCIOは「すべてをパブリッククラウドに置くつもりだ」と言っていたでしょう。しかし、日本ではそうではありません。
その後は多くの人々がパブリッククラウドに移行し始め、一部の人々はかなり進んでいました。クラウドに対して、コストやデータの主権、データプライバシー、すべてのワークロードを実行するのに適した場所か否かなどが心配の種になりました。
私が思う最大のトレンドは、大半の企業がアプリケーションとデータがどこにでも存在する世界で運用を続けるという現実認識があるということです。
複数の場所、パブリッククラウド、データセンター、エッジ、これらすべてを管理しなければならず、各エリアで最も現代的なクラウドの運用モデルを持つことを確認するために投資しなければなりません。
--Nutanixは、将来的に顧客の生成AIのジャーニー(旅路)をどのようにサポートする予定ですか?
ラマスワミ:簡単な言葉で言えば、当社は企業におけるAIのデプロイを簡単にすることを支援しようとしています。それは簡単なことではありません。AIソリューションを稼働させるために、多くの部分を一緒に縫い合わせる能力が必要です。
そのために「GPT in a Box」を出し、今回のカンファレンスで「GPT in the Box 2.0」を発表しました。GPT in the Box 2.0は多くの自動化、ワークフローの簡素化、ロールベースのアクセス制御といったエンタープライズレディタイプの機能が含まれています。
しかし、それは主にNVIDIAの生成AIアプリケーションの開発向けマイクロサービス「NIM」やHugging FaceによるLLM(大規模言語モデル)のためのサードパーティのリポジトリとの統合も含みます。
そして、企業がAIを構築し、AIアプリケーションをデプロイするためには、複数の要素を統合することが必要との認識のもと、パートナーエコシステムにより、ユーザーがデプロイする能力をテスト、検証し、自動化することを支援します。
--Nutanixのテーマは「Run everywhere(すべての場所で実行)」です。Nutanixが「どこでも」を現実にできていますか?
ラマスワミ:はっきりさせておきますが、当社はまだ「すべての場所で実行」という境地には完全に到達していません。しかし、私たちは確かに前進してきました。
現在ではデータセンターやエッジ、パブリッククラウド、マネージドサービスプロバイダで動作していますが、どこでも動作しているわけではありません。多くの場所で動作していることこそが旅の最初の部分となります。
当社は旅の初期段階にあると思います。しかし、私たちが話したKubernetes管理プラットフォームやストレージサービス、データインフラストラクチャ、データサービス、そして過去のサービスを備えて旅に出るでしょう。
これは単にNutanixだけではなく、パートナーとともにです。Red Hatは私たちのパートナーで、彼らもその同じ旅の一部になりたいと考えており、そのほか多くのオープンソースサービスの提供者も同様です。
アプリケーションをオープンソースの構造に基づいて構築し、その同じオープンソースの技術がどのクラウドでも利用可能である限り、一度構築すれば、どこででも実行することができると考える人が多くなると思います。
お客さまにとって、それは常に旅です。プロジェクトは時間がかかりますし、旅は終わりません。それは終わりのない旅であり、続いていきます。