名古屋大学(名大)と国立天文台(NAOJ)は5月27日、地球から約1万8000光年離れたマイクロクェーサー「SS433」の相対論的(高速度)ジェットに付随する分子雲の広がりとほぼ一致する領域から近紫外線が放射されていることを発見すると共に、近紫外線放射は分子雲の背後、SS433のジェットと分子雲の相互作用面から放射されていることを解明。天の川銀河内において相対論的ジェットと分子雲が直接相互作用している現場を捉えたことを共同で発表した。
同成果は、名大大学院 理学研究科の山本宏昭助教、同・竹内努准教授、同・石川竜巳大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
ブラックホールと星の近接連星系のうちでジェットを放出している天体は、クェーサーのミニチュア版として「マイクロクェーサー」と呼ばれている。その中で、最も強力なジェットを放出しているのがSS433。根元での速さは、光速の約26%(秒速約7万8000km)にも達し、伝搬中に減速するが、相当な速さで周囲の星間物質に衝突する。この速さは超新星爆発を上回り、一過性の超新星爆発とは異なって長期間にわたって放出され続けているため、周囲の星間物質に与える影響は超新星爆発よりも大きいと考えられている。
同領域では、NAOJ 野辺山宇宙電波観測所(野辺山)の45m電波望遠鏡の観測により発見された分子雲と、SS433の主星の超新星爆発およびその後に放出されたジェットにより奇妙な形に変形した電波連続波と、X線で見えるジェットの3つが同じ視線方向上に存在していることがわかっていた。そこで研究チームは今回、この分子雲の詳細な調査を行うことにしたという。
今回、同分子雲において発見されたのが、分子雲とほぼ同程度に広がる近紫外線放射。分子雲の高密度領域から放射される「13CO(J=3-2)輝線」の放射強度は、観測された近紫外線放射の強度と反相関の分布を示すことも確認された。特に、近紫外線放射領域の中央部分では近紫外線放射が弱く見え、そこに高密度分子雲が多く存在していることがわかったという。この反相関の分布は、近紫外線放射の減光が効いているためであることが考えられるとした。またこのことは、近紫外線放射が分子雲の奥から放射されていることを意味し、CO分子がよく励起されており、同じ領域の場所で遠赤外線放射が強くなっていることがわかるという。
また過去の研究により、同部分の分子雲の温度が絶対温度約55K(約-218℃)と求められていた。一般的な分子雲の温度は10K(約-263℃)から20K(約-253℃)程度なので、何か外からの熱源による加熱がない限り、55Kは達成できないという。これらの結果を総合すると、分子雲の背後から放射された紫外線放射が、分子雲を温めていること、そして、分子雲に含まれる星間ダストも同じく近紫外線放射によって温められ、その星間ダストが遠赤外線で再放射していることが考えられるとした。
今回の研究成果について研究チームは、遠方銀河におけるジェットと分子雲の相互作用の理解につながるとしている。また、クェーサーは遠方にあるため、現在のどの望遠鏡を持ってしても、その構造を分解することができないが、マイクロクェーサーは、クェーサーの物理現象を近場で見られることができる点でも重要な天体だとし、マイクロクェーサーの周辺環境を詳しく調べることは、クェーサーの物理的理解の助けになることも考えられるとしている。