ガートナージャパンは5月21日~23日、年次カンファレンス「ガートナー データ&アナリティクスサミット」を開催した。本稿では、Gartner バイスプレジデント アナリストのガレス・ハーシェル氏によるセッション「2024年のデータ/アナリティクスのトップ・トレンド」の内容をレポートする。
「意思決定をしないこと」は致命的な判断
冒頭、ハーシェル氏は89%の意思決定者が「どんな意思決定も、意思決定をしないよりも良い」と答えたという調査結果を示し、安全策を採ることはトレンドを無視することではなく、どうトレンドに対応するかを考えることが大切だと述べた。
「組織は皆さんに完ぺきな答えを求めているわけではなく、何かの答え、何かの対応、何かの策を求めているのです。我々は戦略的な課題、財務的な問題、技術や組織、人の課題など、さまざまな課題に対峙していかなければいけません」(ハーシェル氏)
変化の渦中にある4つのトレンドを解説
では今、データとアナリティクスの世界にはどのようなトレンドがあるのか。同氏は、4つのトレンドとそれに対応する11の具体的なアクションについて話を展開した。
「必要に応じる」から「ビジネスを賭けた難題解決」へ
グローバル企業であれ、トレンドに対応できず、衰退してしまった例は多々ある。今は、「生き残っていくためにはAIを活用していかなければいけない」とハーシェル氏は強調する。AIは“あれば十分”なのではなく、“なくてはならない”ものであり、その活用は企業の生存をかけた競争なのだ。そう説いた上で同氏は、データ&アナリティクスのプロに求められる次の3つのアクションを説明した。
1つ目と2つ目はいずれも、組織において自身の信頼を勝ち得るために必要なアクションだと同氏は言う。3つ目は、まるでファストフード店のように、データやアナリティクスを正しく取り扱うことができる組織にしていくことを指す。その際、データやアナリティクスを扱うチームが一元的にルールを決めておくべきことは何なのか、サプライチェーンやマーケティング、人事などの各ラインで決定できることは何なのかを明確にしておくことが大切だという。
「混沌」から「管理可能な複雑性」へ
デジタルワーカーの47%が「仕事に必要な情報やデータを見つけるのに苦労した」と回答した調査結果を示したハーシェル氏は「カオスだからと諦めるのではなく、複雑性を受け入れ、複雑性にどう上手く対応していくのかを見いだすべき」だと語る。そこで採るべきアクションは以下の3つだ。
このうち4つ目のアクションについて、同氏は「データ&アナリティクスのリーダーとして複雑化を選ぶのか、簡易化を選ぶのかを考えなければいけない」と述べた上で、「よりシンプルにすることに時間をかけることも重要」だと聴講者にアドバイスした。
「唯一の真実の源泉」から「清濁合わさった洪水の中」へ
ハーシェル氏は現代について、政府や組織、データやメディアなどへの信頼が失われた「不信というトレンドがある」時代だと説明する。この環境下で、データ&アナリティクスのリーダーたちがすべきことは、信頼でき得る情報を組織の意思決定者に提供することだ。
特に今、圧倒的なトレンドとなっている生成AIについて調査結果を見ると、多くの上級リーダーが「プライバシーに関する懸念や悪用される懸念がある」と回答しているという。これを踏まえ、同氏は2つのアクションを挙げた。
「多くの企業はすでにAI-Readyだと言いますが、私はそうではないと感じています。今はまだ、どのようなユースケースがあるのかということも見えていません。ユースケースにどう適応させるのかを見極めるための定義もまだ見えておらず、さらにその定義はたくさんあるのです」(ハーシェル氏)
「過度の負担」から「権限を持った個人」へ
「データがあり過ぎる、プロセスがあり過ぎるといった環境から、権限付与される環境につくり変えていかなければいけない」とハーシェル氏は話す。従業員の権限を高めず、エンパワーメントが不足すると、課題が発生することになる。そこで同氏が提言したアクションは以下だ。
特にAIについては、2019年の調査では「複雑だが、魅力的だ、素晴らしい」という回答が多かったが、2023年の調査では半数以上が「AIは複雑」だと回答。さらに「脅威を感じる」という回答が増えているという。
同氏は、そのように感じている人に対し、AIリテラシーの向上に向けた育成プログラムに投資したり、複数のアプローチを織り交ぜてリテラシーを高めたりする必要があることを説明した。
トレンドに対応するために、考えるべき4つのこと
最後にハーシェル氏は、トレンドに対応するために早急に考えるべきことを挙げ、それぞれが11のアクションのどれにつながるかを示した。
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目まぐるしく移り変わるデータとアナリティクスの世界で重要となる4つのトレンド。ハーシェル氏が示したアクションと考え方は、データ&アナリティクスのリーダーにとって大いに参考になるものだろう。ぜひ今後の判断の参考にしていただきたい。