世界中で生成AI(人工知能)の開発競争が激化する中、巨大テック企業を中心にデータセンタービジネスは急拡大している。
例えば、米Amazon Web Services(AWS)は2027年までに日本で2兆2600億円を投資することを表明しており、米マイクロソフトは2024年1~3月までに2兆円以上を投じ、英国やドイツ、日本を含むアジアなど各地でAIに計算能力を供給するデータセンターを増設する。
国内企業もAIインフラの構築を加速させており、ソフトバンクは2025年までに1500億円を投じ、高性能半導体を搭載したインフラを整備すると表明している。生成AIの基盤となる大規模言語モデル(LLM)の開発を加速させる方針だ。
一方、データセンターの拡大を進めるうえで、脱炭素や気候変動抑制などに取り組む必要もある。膨大な計算が伴う生成AIの運用は電力消費も大きい。国際エネルギー機関(IEA)の調査によると、生成AIの利用拡大により、データセンターの2026年の世界電力消費量は2022年比で最大2.3倍に拡大するという。
企業は、生成AI開発に伴うデータセンターの急拡大と、カーボンニュートラルをどのように両立していく必要があるのか。「既存資源を再利用すべきだ」--。そう語るのは、東京大学大学院 情報理工学系研究科の江崎浩教授だ。本稿では、4月末に開催されたJapan IT week【春】のセミナーに登壇した同氏の講演内容を紹介する。
フィンランドのデータセンター、製紙工場を再利用
『生成AI/LLM で急加速・急拡大するデータセンタービジネス』と題した講演に登壇した江崎氏は冒頭、「昨今のAI半導体の課題は消費電力の抑制だ。演算に必要な電力消費より、データの移動に必要な消費電力の方がはるかに大きい。そのため、いかにデータを近くに配置し、データの移動距離を短くして演算できるかが重要だ」と切り出し、先進的な2つのデータセンターを紹介した。
最初に紹介したのは北欧フィンランドにあるデータセンター。米Googleが運営する「ハミナ(Hamina)データセンター」は、1950年代に建設された製紙工場の建屋をそのまま利用している。建物の基礎や上物は製紙工場時代のものだという。すでに工場の操業時に電力の引き込みはされていたため、新たに引き込むための投資や出力の確保は必要なかったとのことだ。
また、建物はフィンランド湾に面しているため、海水を利用してサーバを冷却しており、100%の水冷を実現しているという。 冷却に利用した海水は再び海に戻している。「これまでは空気で冷やすことが主流だったが、水冷は低コストで高効率な冷却手法だ。水冷と聞くと大きなコストがかかりそうだと思うが案外安い。しかも確実に対応できる点がメリットだ」(江崎氏)
水冷により電気代は最大7分の1まで抑えられるといい、同データセンターが消費する電力は100%が再生可能エネルギー由来の電力だという。
また、フィンランドのデータセンターでは、廃熱を住宅や企業の暖房に利用してCO2排出量を削減する取り組みも行っている。地下パイプで温水を送る地域暖房システムが普及しており、マイクロソフトが運営するデータセンターからは、ヘルシンキ周辺の25万人に暖房サービスを提供しているという。
中国ファーウェイ、モジュール型データセンター
江崎氏が次に紹介したのは、中国通信大手の華為技術(ファーウェイ)が手掛けるモジュール型のデータセンターだ。
モジュール型データセンターという考え方自体は新しいものではなく、従来から存在しているものだ。ファーウェイでは、すべてのパーツを自社製品で統合し、工場であらかじめ組み立てたモジュール型データセンターとして現地へ届けている。
「質の高い工事現場の人材がいない国でも高度なデータセンターが作れる方法だ。すべてのインターフェイスがすべて統一されて使いやすく、迅速にデータセンターを設立できる」と江崎氏は説明した。例えば、この方法で1000ラックのデータセンターを建設すれば、建設期間は18カ月以上だったものから最短6カ月まで短縮できるという。
また、ファーウェイが建設するデータセンターは、ほとんどの運用を人間ではなくロボットが行っている。O&Mオートメーション、エネルギー効率最適化、運用自立化によって、データセンターの運用および保守の管理を刷新している。
「人間は自身の体から熱を出すがロボットは出さない。高い生産性も保たれる。人が入るようなデータセンターは今後少なくなっていくだろう」と、江崎氏は持論を述べていた。