対中国を巡る経済安全保障で欧米や日本の間で懸念が強まる中、日本は今後EUとの間で経済安全保障協力を強化する。

5月2日、日本とEUは経済安全保障についての閣僚級の会談を開催し、半導体やレアアースなど戦略物資の調達で協力し、特定の国に依存しないサプライチェーンの構築を目指していくことで合意した。パリで開催された会談の声明では、名指しはしなかったものの巨額の補助金で戦略物資の生産能力を飛躍的に高める中国への懸念が示され、より透明、強靱で持続可能なサプライチェーンを構築していくことが強調された。

このように日本が独自にEUとの間で経済安全保障上の協力を強化していくことは極めて重要である。理由は主に2つある。1つ目は、今後の日中関係の行方だ。米中対立や台湾有事など、日中の間には多くの懸念事項があり、それがいつ爆発するかは分からない。最近では南シナ海で中国船によるフィリピン船への暴力も激しくなってきているが、尖閣諸島でも中国船による海上保安庁の船への攻撃がエスカレートする恐れもある。そうなれば日中関係は一瞬のうちに緊張が高まり、日本への経済的威圧は高い確率で行われるだろう。

実際、2010年9月に尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁の船が衝突した事件が起きた際、中国は対抗措置として日本向けのレアアースの輸出を停止した。日本としては同じ過ちを繰り返さないためにも、レアアースなど戦略物資の対中依存をなるべく下げ、脱中国を図るEUとの協力は極めて重要だ。

もう1つは、焦りを強める米国だ。今日の米国は何が何でも中国の半導体産業の発展を許さないというスタンスで、軍事転用可能な先端半導体に関する輸出規制を独自で強化するだけでなく、日本やオランダにもっと規制を強化するよう呼び掛け、韓国やドイツにも中国への輸出規制を行うよう圧力を掛けている。

また、大統領選を控えるバイデン、トランプ両氏は中国への貿易規制を強化する姿勢を貫いており、来年1月から発足する新政権でも米中貿易摩擦は収まることはない。バイデン大統領は4月、中国からの安価な製品の流入を抑えて国内産業を保護するため、中国から輸入する鉄鋼とアルミニウムへの関税を3倍に引き上げる姿勢を示し、トランプも中国からの輸入品に一律60%の関税を掛けると豪語している。

こういった保護主義化する米国と、日本は経済安全保障分野でどこまで歩調をあわせるべきだろうか。米国と歩調を合わせれば合わせるほど、日本が中国から経済的威圧を仕掛けられるリスクは必然的に高まる。よって、日本としては米中対立の行方や中国依存に同じように懸念を持っている国々との協力が重要となる。それが今回の日本EUの経済安全保障協力なのだ。