アマゾン ウェブ サービス (AWS)ジャパンはこのほど、教育業界におけるAWS、生成AIの活用に関する記者説明会を開催した。執行役員 パブリックセクター技術統括本部長 瀧澤与一氏は、教育業界においては2つの課題があり、同社のサービスがその課題解決を支援していると述べた。

2つの課題とは、「個別最適な学びと協働的な学びの実現」と「先生方の働き方改革の実現」だ。デジタルを活用して、学習者一人ひとりに最適化された学びと効率的かつ効果的な学びを目指す。

  • アマゾン ウェブ サービス ジャパン 執行役員 パブリックセクター技術統括本部長 瀧澤与一氏

実際、同社のクラウドサービスは、行政系システム、校務系システム、学習咳システム、教育ダッシュボードとさまざまなシステムに活用されているという。

  • AWSのサービスが支える教育業界のIT基盤

瀧澤氏は組織内のデータと生成AIを活用することで、さらに課題解決を加速できると語った。テスト問題の自動生成、テストの自動採点、教材や授業の要約、記録からレポートの作成など、ユースケースはいくらでもある。

AIによって子どもたちの創造性が引き出され、深い学びを実現

続いて、ライフイズテック 取締役 CEAIO(最高AI教育責任者) 讃井康智氏が説明を行った。同社は、中高生向けにIT・プログラミング教育サービスを手がけている。同氏は、「Society 5.0に必要とされる人材はデジタルイノベーターであり、誰もが格差なく学べる社会を目指している」と述べた。デジタルイノベーターとは、以下の要素を持った人材だ。

  • 課題を自ら設定する
  • 次世代のテクノロジーを活用する
  • 社会をよくするアクションまで実現する
  • ライフイズテック 取締役 CEAIO(最高AI教育責任者) 讃井康智氏

同社はこうしたミッションの実現に向け、中高生や教員を対象に、生成を活用した創造的学習や課題解決体験を各地で提供している。

讃井氏は、今の子供たちについて、「AIネイティブ」と評した。具体的には、彼らの生活はAIの常時利用が前提であり、AIによって自身の能力をブーストでき、若くして社会課題の解決やクリエイティブの第一線に立てる可能性を秘めているという。

実のところ、中高生を対象にAI体験会を実施したところ、AIによって子どもたちの創造性が引き出され、高いレベルで深い学びを実現できたとのこと。「AIとの対話により学びはもっと深くなり。AIは教育を阻害するという意見もあるが、それは間違い」と、讃井氏は語っていた。

  • ライフイズテックのAI体験会で見えたこと

さらに、讃井氏は教職員の働き方改革において生成AIがもたらすインパクトについても言及した。文部科学省が実施した調査では、半分以上の教員が生成AIを活用している学校はわずか1.2%であり、教職員の生成AIの活用はまだ始まったばかりだ。

同社は教職員が生成AIを使いやすくなるよう、学校向けAIサービスを提供している。同サービスは学校での利用を踏まえ、不適切利用の検知やアシスト機能を備える。

讃井氏は、「体験、管理、コスト、信頼性における問題を解決しないと、生成AIの利用は広がらない。特に重要なのはコスト。国としても施策を講じる必要があると指摘した。

中学生が生成AIを活用してAIチャットボットとご当地キャラクターを開発

さらに、ライフイズテックの取り組みについて、執行役員 CTO(最高技術責任者)奥苑佑治氏が技術的な観点から説明を行った。同氏は、文部科学省のリーディングDXスクール 生成AIパイロット校実証事業の東京都八丈町藤中学校の取り組みを紹介した。

  • ライフイズテック 執行役員 CTO(最高技術責任者)奥苑佑治氏

同中学校では、地域課題の解決を目指し、オリジナルWebサイトにAIチャットボットを追加で実装した。具体的には、画像生成AIを用いて「ご当地AIキャラクター」をデザインし、地域に特化した回答を整備した。

企画書を作成するにあたり、Symphonyのアシスト機能で骨子を作り、画像生成AIで企画イメージを補完していったそうだ。また、Amazon Rekognitionを活用して、不適切な画像かどうかをチェックする機能を装備した。

加えて、Amazon EFSを用いたファイル連携により、AIによるコード生成とCloud9 IDEがシームレスに連携し、生成AIの支援によるプログラミングをサポートした。

さらには、「インプット」「ワークショップ」「共有」の各学習パートにおいて、インプット、タッチアンドトライ、結果共有をすべてAIサービスで提供した。

  • 「インプット」「ワークショップ」「共有」の各学習パートでAIが支援

同社の教育プログラムがよく練られているのはもちろんだが、中学生でここまで生成AIを使いこなせるというのは驚きだ。奥苑氏は「限りある時間でコードを書くことは難しい。しかし、自然言語をコンピュータ言語に翻訳することが実現できれば、モノづくりが進展する。われわれは今、こういう仕組みを開発している」と語っていた。

生成AIの活用で、生徒のモチベーションが向上

最後に、学研メソッド 取締役 中村寿志氏が説明を行った。同社は、学習塾向けのデジタル教材、オンラインやAIといった教育サービスを手掛けている。AIを活用したデジタル教材システムとして、「Gakken Digital Learning System」(以下、GDLS)に取り組んでいる。

  • 学研メソッド 取締役 中村寿志氏

GDLSは、学習カリキュラムや機械学習の設定、問題の選択など、指導者が容易にカスタマイズできる環境を提供するとともに、学習者のデータ分析により教材コンテンツの継続的な改善を行っている。最新技術を活用した仕組みとして、教育用メタバース空間サービスとの連携や、生徒の学習履歴や理解度に基づき生成AIを活用した個別学習アドバイス機能を提供している。

中村氏は、GDLSにおけるAIの活用について、次のように説明した。

「昨夏に、生成AIによる学習アドバイス機能を組み込み、最初にロボットのキャラクターが生徒に声がけするようにした。これまでもAIにより、生徒の理解度や回答状況を分析してきた。生成AIはメッセージを作るところに活用し、もともと持っていたデータをもとに角度の高いアドバイスを行っている」

こうしたAIの活用の延長として、AWSのBedrockを活用した開発が行われている。中村氏は、AWSを利用するメリットとして、「データセキュリティ」「ハルシネーション対策」「フレキシビリティ「コスト競争力」を挙げた。

  • 学研メソッドにおける生成AIを活用する環境

中村氏は、生成AI活用の方向性について、「生徒のモチベーションを上げることに重きを置いている。先生がすべての生徒の学習履歴を覚えることは不可能。半年くらい見ているが、モチベーションの改善がみられている」と述べた。

また、生成AIを活用するカギはデータにあるといい、同社が教材、生徒、指導という3つのデータをバランスよく持っており、AWSのサービスによってそれらが安全な状態でサービスを提供できているという。

なお、中村氏は「生成AIの開発はコストがかかる」と指摘し、同社は実証実験の場をたくさん持っていることから、プロトタイプをつくって実証実験をするというサイクルを回して、サービスを提供していくと語っていた。