「Discord」と聞くとゲーム愛好家が使うソーシャルサービスと思う方も多いだろう。その通りだが、ゲームをしないから関係ないということはなさそうだ。将来のインターネットの姿を先取りしているかもしれないのだ。

Discordはユーザー生成コンテンツプラットフォームではない

The Vergeが公開したDiscordの共同創業者兼CEOのJason Citron氏のインタビューからは、Discordが描く新しいデジタルコミュニティの形が見えてくる。

DiscordはWindows/Linux/Mac、Webブラウザ、iOS/Androidに対応するクロスプラットフォームのアプリケーションだ。開発を始めたのは2012年、サービスは2015年に誕生した。現在月間アクティブユーザーは2億人を数えるという。

Citron氏はDiscord設立当時、ビデオゲームは人々にとって大きな娯楽になるということに賭け、ゲームはもっとソーシャルになると考えたとのことだ。そこで、ゲームの周辺でのコミュニケーションのニーズが出てくると想定した。

Discordは現在、テキストでのチャットに加え、音声/動画通話などをサポートする。ユーザーは“サーバー”と呼ばれる場所を作って、仲間とやりとりする。ビジネスユーザーから見るとSlackに似ているが、Citron氏は「われわれは常にコンシューマーが集まりおしゃべりをしたり、出入りできるサービスとツールであることにフォーカスしている」と違いを強調する。

実はビジネスユーザーの利用も増えており、ファンとのコミュニケーションに利用しているケースが多いそうだ。それでも「小規模な、招待制のグループ」「まるで寮のサロンや自宅のリビングで友達や友達の友達と一緒にいる感覚」を大切にしているという。

コンシューマ向けのコミュニティではRedditも連想される。Citron氏はゲームのフォーカスに加えて、Redditとの違いを次のように話している。

「DiscordとRedditとの根本的な違いは、Redditがモデレーターやユーザー生成コンテンツ(UGC)があるパブリックな空間であるのに対し、われわれは友達のためのグループチャットアプリだ。例えば、われわれはDiscordをUGCプラットフォームとは考えていない。Discordはコミュニティアプリ、グループチャットアプリだ。ユーザーは招待制のグループチャットで友人とテキストや音声チャットでやりとりしたり、ゲームをしたり、その日のことを話し、それぞれの場所で料理をしたり、時に一緒に寝ている」(Citron氏)

つまり、Discordは生活そのものの場所(の1つ)になっているという。Redditが公開された場所でトピックごとのスレッドを立ててフォーラムとして機能しているのとは、位置付けが異なる。そしてCitron氏は、インターネットはこのような小規模でプライベートな場所という方向性に向かっているとの考えを示している。

Microsoftからの買収提案を断った理由

話はビジネスモデルにも及ぶ。Discordは長年広告がなかったが、今年に入り広告が表示されるようになった。それでも、(現時点では)ビジネスモデルはサブスクリプションサービス「Nitro」など、直接的なものが主だ。

Nitroは最大500MBまでの大容量ファイルのやりとり、HD配信、サーバブースト(使用したブースト数に応じてサーバの機能が拡張される)、カスタム絵文字のアニメーションなどのプレミアム機能を利用できるものだが、Citron氏は「売り上げなどの数字は公開できないが、非常に好評」と述べている。

これに加えて「アバターデコレーション」と呼ぶ別の消費者向け収益ラインをショップで立ち上げた、とCitron氏は紹介する。公式のゲームのテーマアイテムを販売するもので、数週間前に、FPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)「Valorant」と提携した。提携のもと、ユーザーはValorantのデコレーションを購入できるが、このビジネスは信じられないほどうまくいっているという。

売上共有モデルについては「Discordのスポンサー付きQuestのフォーマットを通じて、ゲーム開発者がオーディエンスにリーチし、より良いビジネスを構築できるよう支援する」とCitron氏はゲーム開発者のメリットを強調している。

なお、広告についてはまだ試している段階であり、今後どのぐらいの規模にしていくのかについては名言を避けている。2021年にはMicrosoftに買収を持ちかけられ、当時の報道ではMicrosoftが提示した金額は120億ドルと言われたが、この件についてCitron氏は「買収を持ちかけられたのは、前にも後にもこれ(Microsoft)だけではない」と回答している。

そして、同氏は「このような状況が発生する(買収の話が持ちかかる)たびに、自分自身に問いかけていることがある。顧客にとって何がベストか、関係者にとって何がベストか、私は何を望んでいるのか、私のチームは何を望んでいるのか?そうして、どうするのかを考える」と述べている。

これまでは、独立した企業であることを維持し、継続して構築していくことを選択しており、それを楽しみつつも「目の前にチャンスがたくさんある」と話している。独立した企業として成功してきたポイントとして、クロスプラットフォームであること、コミュニケーションツールを構築することにフォーカスしてきたことも語っている。

ゲームという中核は変わらず、Citron氏の13年前の予想通り、ゲームは大きな存在になっておえい、Z世代の93%が日常的にビデオゲームを楽しんでいるという。

最後に、同氏は「将来のビジョンは、人々が豊かな体験を共有し、世界のどこにいても友人と充実した時間を過ごすことができる世界だ。そして、その多くは、プラットフォーム上にのみ存在するビデオゲームになる。その中には、私たちのプラットフォームを通じて直接提供するビデオゲームも含まれる」と締めくくっている。