生成AIの利用が少しずつ増えているが、まだそのインパクトは未知数だ。EY(Ernst & Young)が「GenAI risks and challenges for the economy」として経済に及ぼす影響とリスクを予想している。
生成AIが及ぼすリスクと課題
2022年末のOpenAIによる「ChatGPT」公開から1年半。生成AIは未だ初期段階に過ぎない。EYでは、”生成AI革命”が進むことで、今後10年で世界のGDPが170億ドルから340億ドルに拡大し、世界の労働人口の半数以上に意味のある影響を与える可能性があると試算している。
一方で、リスクと課題は残る。EYでは、所得格差の拡大、市場集中と「勝者総取り」力学、世界的な格差の拡大など、さまざまな可能性を指摘している。そのような結論に至った調査結果として、次のようなものを挙げている。詳細は次の5つだ。
1.生成AIがもたらす経済的な利益は、労働を犠牲にした形で企業の利益を優先させる可能性がある
企業が生成AI技術を導入し、浸透させることで、労働需要が下がる。これは労働者の交渉力にも悪い影響を与える可能性があるという。また、生成AI技術市場が一部大企業により支配される場合、値上げも考えられる。これらは、一部の大企業のみに生産性の向上が集中することにつながる。
2.すべての世帯が同じように生成AIによるメリットを享受できない可能性がある
米国では生成AIが家庭所得に及ぼす経済的利益は、今後10年で6750億ドル~1.3兆ドルと試算されている。しかし、この金額の50%以上は高所得者にもたらされるという。それに対し、低所得者にもたらされるのはわずか5%とのこと。世界的には、経済的格差が開いている国や地域ほど、生成AIの経済的メリットの配分も不均衡になるとする。高所得労働者ほど利益が大きく、格差拡大につながる恐れがあるという。
3.高所得者が労働所得の多くを獲得するため、賃金格差が拡大する可能性がある
生成AIは、高所得者の職業を補完する可能性が大きいため、高所得者がメリットを得やすい。これは労働所得の不均衡が広がり、賃金の格差がさらなる可能性を招くかもしれない。
4.生成AIは市場の集中を促し、“勝者総取り”(Winner takes all)の力学を生み出す可能性がある
生成AI技術は先行者利益や規模の経済と結びつきやすく、リーダーと後発の格差が拡大する。これは、生成AIによる利益を享受できるごく一部の先行者が”スーパースター”となる状況につながりやすいという。
5.生成AIの世界経済の加速は、生成AIの開発で最前線に立っている国、およびその技術を活用するのに適した環境にある国に集中する
最前線は米国と中国。アーリーアダプターは英国、カナダ、日本、カナダ、インドなど。一方で、ラテンアメリカ、サハラ以南のアフリカ、南アジアなど、生成AIを受け入れる準備が遅れている国は、差が開くと予想している。
生成AIの対策につながるアプローチとは?
その上で対策につながるアプローチとして、以下の3つを挙げている。
企業・組織レベル
生成AIによって職を失う可能性のある労働者を支援する計画、生成AIを使用するスキルを身につけるための訓練プログラムを提供する必要がある。国レベル
政府は中小企業がGenAIを導入できるように奨励すべき。また、すべての人が利益を得られるよう競争を促進する政策を作るべきである。世界レベル
国際協力により、誰もが生成AIにアクセスでき、それを効果的に利用するスキルを身につけ、アクセスできる人とそうでない人の格差を縮小する。