建設業界は、慢性的な人手不足が深刻な中、2024年問題(年間の残業時間を960時間以内に抑える)への対応が求められている。この課題に対応するには、現場でのテクノロジー活用を通じて、作業品質の向上や生産性の改善に取り組む必要がある。
そんな中、4月12日、「現場DXを実現する最新技術の活用例」と題したセミナー(MODE主催)が開催され、西松建設 技術研究所 山本悟氏が、同社が取り組むトンネル工事における"現場DX"について説明した。
山岳トンネルの工事の掘削工法「NATM」とは
山本氏によれば、山岳トンネル工事においては、NATM(ナトム:New Austrian Tunneling Method)という方法で施工が行われているという。NATMは、「掘る」と「支える」という2つの工程を繰り返しながら、前に進んでいく工法。掘る工程では、先端の掘削面である切刃(キリハ)に80個くらいの穴を開けてダイナマイトを仕掛け、爆発させることで進んでいく。1回の爆発で1m程度掘れ、1日あたり4mほど進んでいくという。
掘った土砂(ズリ)は、ホイールローダーという重機械を使って、ダンプに積んだり、ベルトコンベアを使って搬出したりする。
支える工程では、1mごとに鉄の枠を置き、その間にコンクリートを吹き付けて安定させる。現場にバッチャープラントを建て、ここで製造したコンクリートを使って施工する。さらに、ロックボルトといわれる鉄の棒をトンネルの外周に刺し縫い付けるというような形でトンネルの安定を図っている。
次に、水の侵入を防ぐためにコンクリートの裏吹き付け面に防水シートを張り、防水シートに沿って出てくる水は足元に導水して、トンネルの中央にある管を通して排水する。最後に、テントルといわれるトンネルの形をした型枠を入れて、防水シートと型枠との間、約30cmにコンクリートを流し込むというのが「NATM」の大まかな手順だ。
山岳トンネル工事が抱える問題と対応
こうした山岳トンネル工事においては、次のような問題を抱えているという。
- 重機やタイナマイトによる騒音や振動・衝撃、コンクリートを吹き付ける際の粉じん
- 地下空間のためインターネットや携帯電話が利用できない
- 線状構造物のため工事の進行とともに機器を前に送る必要がある
- 大型特殊重機を使うため特殊な技能が必要で、重機同士の接触もある
- 高温多湿といった過酷な環境
- 人材不足
このような問題の解決に向け、西松建設は無人化、遠隔化、自動化を行うためのエコシステムの開発を進めている。それが、トンネル無人化施工システム「Tummel RemOS(トンネル・リモス)」だ。
「Tummel RemOS」は、遠隔操作室と映像・制御信号伝送システム、機体制御システム+プラスガイダンスシステムを基本的な構成としており、施工機械がいろいろな機械に変わるだけで、基本的な設備の構成や配置は変わらないという。
今は試行段階のため、遠隔操作室はトンネル内に置いているが、光ファイバーを使えばトンネルの外に設置しても同様の遠隔操作ができる。
「将来的には、5Gやその先の通信規格を使用すれば、東京から北海道のトンネルを掘るといったことも理論上は可能な状況になっています」(山本氏)
遠隔操作室にはマルチオペレーションシステムの運転席があり、運転席のスイッチで切り替えることで、各重機を1つのコックピットから操作できる。つまり、遠隔から粉じん、振動のない快適な環境で操作が行える。
遠隔操作は、各現場での試行を終えた後、次の段階で自動化や自律化を進めていく。そのため、同社は那須塩原に「Nフィールド」という模擬トンネル研究開発施設を建設した。
遠隔操作室は現在2号機に進化しており、カメラの配置を研究したり、通信の選定を進めたりして、操作性が良くなっているという。
「通常、遠隔操作をすると、重機に乗って操作した場合に比べ60%~70%に効率が落ちてしまいます。しかし、2号機はかなり見やすく、操作もしやすくなったということで、ベストタイムが出ると90%程度の効率で遠隔で操作が可能です」(山本氏)
現在、3台程度の重機を同時に動かしており、今後は、各重機の同期運転を進めて、工事の無人化とその先の自動化を目指していくという。