農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)は4月10日、スイートコーンほ場でのドローン空撮画像のAIによる物体検出技術と農研機構メッシュ農業気象データを用い、ほ場1筆(ぴつ)ごとに収穫適期を予測する技術を開発したことを発表した。
同成果は、農研機構 北海道農業研究センターの奈良部孝所長、同・寒地野菜水田作研究領域の大澤央研究員らの研究チームによるもの。詳細は、「農業食料工学会誌」に掲載された。
農林水産省令和4年産野菜生産出荷統計によれば、日本でスイートコーンは約21万トンの収穫量があり、その4割ほどが北海道産だという。その可食部である「雌穂」(しすい)は、収穫適期前は粒がそろっていない上に糖含量が低い一方で、収穫適期を過ぎてしまうと水分量が減って萎びて品質が下がりやすいという扱いの難しさがあるとのこと。北海道での一般的な収穫適期は8月中下旬に迎えるが、その正確な時期を見極める必要があるという。
また、収穫方法には手取りと一斉機械の2種類があるが、どちらも一長一短があるとする。手取り収穫は適期に収穫しやすいが、作業の負担が大きく、広大なほ場では多くの人手を要する一方で、一斉機械収穫は省力的だが、ほ場内での生育のばらつきや収穫適期を逃した収穫によって、手取り収穫と比較すると歩留まりが下がる懸念を抱えていた。そのほか、収穫適期と出荷計画に基づいた収穫作業を行うためにサンプリング調査が行われているが、広大なほ場内でのその作業には非常に手間と労力がかかり、収穫日の決定が収穫直前になってしまうなどの課題もあったとする。
収穫適期は、一般的に「ヒゲ」と呼ばれる「絹糸」(けんし)抽出後の積算温度で推定可能。そこで今回の研究では、ほ場単位での絹糸抽出日を把握するため、ドローンで生育状況を空撮し、その画像に対しAIによる物体検出技術を適用することで開花状況からほ場全体の生育状況を解析し、絹糸抽出日の予測が試みられた。その上で、気象データサービス「農研機構メッシュ農業気象データ」を用いて精度の高い温度の積算を行い、ほ場1筆ごとに収穫適期を予測することで、一斉機械収穫時の歩留まりの最大化を目指すことにしたという。
予測するには、ドローンでほ場を均一に空撮した画像、ほ場の位置情報、品種情報を、今回開発された収穫適期算出用アプリケーションの「スイートコーン収穫適期予測ツール」に入力。そして、(1)開花段階推定、(2)絹糸抽出日予測、(3)収穫適期予測の3ステップを経て、予測収穫適期(約5日間)が出力されるという仕組み。
ステップ(1)では、ドローン空撮画像から「雄穂検出AI」を用いて開花段階が推定され、ほ場ごとの生育状況が解析される。同AIには、物体検出アルゴリズム「YOLOv5」が用いられており、ドローン空撮画像中の雄穂の開花段階をその色調から「未開花」「開花前期」「開花後期」の3段階に分類する。AIの精度指標の1つである「mean Average Precision」は0.71(1に近いほど精度が高い)だったことから、同AIはほ場の生育状況を高精度で解析できると判断された。
ステップ(2)では、ステップ(1)で出力された、各生育段階(未開花・開花前期・開花後期)の雄穂数・割合から、絹糸抽出日予測モデルによって予測絹糸抽出日が出力される。それを起算日とし、ステップ(3)では、ほ場の位置情報(緯度・経度)から高解像度な農研機構メッシュ農業気象データが利用され、収穫適期が出力されるという。
今回の技術により、ほ場の規模に関わらず、収穫約1か月前の開花前後の雄穂抽出期から絹糸抽出期に、作業者がほ場に入ること無くドローン空撮を1度行うだけで、ほ場1筆単位の収穫適期の予測が可能となり、計画的に収穫作業を行えるようになるとした。
実際に北海道札幌市の所内ほ場において、2021~2022年度に、今回の技術による収穫適期の予測が行われた。手取り収穫の収穫日との比較では、予測件数34件のうち、正解事例(予測収穫適期(約5日間)と実際の収穫日(複数日間)が一致または重複があった事例は30件(88.2%)で、空撮時間は1ha当たり5分程度で済んだという。
現時点では、北海道の代表的品種である「恵味スター」が対象だが、2024~2025年度には農業現場に適した導入形態について調査するほか、現地ほ場で試験を行い、ほかの品種についても検討する予定だとする。また、雄穂検出AIの精度向上や収穫適期予測モデルの最適化も進めていくという。
将来的には、食品加工会社・現地生産者団体などを利用対象とし、生産者に収穫適期予測情報を提供できるシステムを開発することが目標だという。今回の技術はおよそ1か月前の段階でほ場ごとの収穫時期を推定できるので、大規模産地での効率的な収穫出荷計画に向けた活用が期待されるとしている。