県内企業のDX実践を積極的に後押ししている広島県では、伴走支援を通じたモデル事例の創出を目的に「DX実践道場」の取り組みを進めている。“入門者”の対象は県内の中小・小規模事業者だ。
道場では、ITツール勉強会や補助金勉強会、現状の把握や課題の整理などを行うワークショップの開催のほか、自社の課題解決に資するITツールの導入などDX実践に向けた伴走支援などが行われているという。では、入門した事業者は実際にどのようなサポートを受けているのだろうか。
今回は、DX実践道場の参加対象事業者に選定されたカワミツ 代表取締役社長 河野泰樹氏にお話を伺った。
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技術の平準化などを目的にスマートグラス導入を検討
カワミツは広島県廿日市市にあり、情報通信機器、ネットワーク機器・測定器、電力・インフラ機器などの設置・管理などを主な事業としている。日々の業務を進める中で、河野氏が強く必要性を感じていたのが「現場の見える化」だ。
それには大きく2つの理由がある。1つは、同社が発注者から直接業務を請け負うのではなく、二次請けのように元請けがいるかたちで業務を担う場合が多いことだ。直接業務を請け負う場合、現場の配線や仕様などについて発注者に直接伝えることができる。しかし二次請けの場合、作業におけるBefore/Afterを複数のステップを経て、発注者に伝達することになる。もちろん、図面や仕様書といったものに落とすのも1つの手だが、一から十まで全てを残すのは難しい。そこで同氏は「動画であれば全てを残せるので、作業の様子やBefore/Afterを動画として残し、直接お客さまに見ていただけないか」と考えたという。
もう1つは、現場における技術の平準化や、ノンスキルの作業者の技術の底上げをしたいという思いだ。同社では実際、社内にいるベテランスタッフがテレビ電話などを通じ、現場で作業するスタッフに作業指示を出したり、仕上がりの確認をしたりするシーンがよく見られるのだという。しかし、あくまでも電話でのやり取りとなるため、「話しながら両手を使った作業がしづらい」「全ての作業を終日見続けるわけにはいかない」といった課題があったと河野氏は説明する。また、新人教育もOJT形式で行っていたが、指導する側の負担を考えると、何か新しい教育方法や技術の伝え方はないかと思っていたそうだ。
そこで同氏が考えたのが、現場におけるスマートグラス導入である。スマートグラスであれば、長時間の録画も可能であり、着用したまま作業をすることもできる。だが一方で、自社だけでスマートグラスについて検討し、導入していくのには数々のハードルがあることが容易に想像される。そんな折、広島県がDX実践道場の参加対象事業者を募っていることを聞いた。
「このお話を聞いた際、前から考えていたスマートグラスの導入をぜひやりたいと手を挙げました」(河野氏)
カワミツが進める「現場の見える化」
現在、カワミツでは道場の中で紹介されたスマートグラスを扱う企業など数社の製品を検討している段階だ。河野氏によると、グラス内の画面に映す作業指示の見やすさや、録画の画質などさまざまな点での比較が続いているという。
「(多数あるスマートグラスについて)自分たちだけで調べるのには限界があります。このようにいろいろな製品や企業を紹介してもらえるのは、とてもありがたいですね」(河野氏)
スマートグラスの選定に加え、もう1つ今後進めていかなければいけないのは、現場への導入だ。前述の通り、カワミツでは二次請けなどの業務も多く、一部の発注者からはプライバシーやセキュリティの懸念などから、スマートグラスの導入に難色を示されるケースもあるという。しかし河野氏は「こういった取り組みが人手不足の解消につながる」と導入に向けた決意を新たにしている。
こうした「現場の見える化」が進むのは、何もカワミツの主戦場だけではない。例えば、カワミツが電子カルテネットワークの管理に携わる病院では現場の安全管理や人材の業務負担軽減などを目的に、スマートカメラの導入が進められている。また、介護の現場でもスキルの向上や伝達のため、IoT技術を使った取り組みが始まっているという。
「いずれにせよ見える化は必須」だと話す河野氏は今後について、以下のように語った。
「まずは我々が直接やり取りのできるお客さまの現場を中心に、データをつくっていき、その他のお客さまに対してもこういったことができるという提案をできるようにしたいと考えています。ITに関わるビジネスをしているものとして、まずは自社の、そして建設業界自体のDXを推進していきます」(河野氏)