BNPパリバ証券チーフエコノミスト・河野龍太郎氏の見方「人手不足解消のための省力化投資も人手不足で困難」

懸念した通り昨年10―12月の個人消費は、3四半期連続で減少した。前回のコラムでは、23年度の政府・日銀の最大の誤算は、コロナ終息後、回復が期待されていた個人消費の低迷であることを論じた。

 強い政治的要請で引き下げられたスマホ料金を除けば、21年末から日本のインフレは2%を超えていた。日本銀行がグローバル金融経済環境の変化を適切に判断し、22年から、インフレ目標を柔軟に解釈して、マイナス金利解除など政策修正を始めれば、1ドル150円の超円安や3―4%のインフレも避けられ、23年は個人消費が回復したはずだ。

 23年度の政府・日銀の第二の誤算は、回復継続が見込まれていた設備投資が低迷していることだ。好調な業績の継続で、企業は潤沢な手元資金を抱えている。人手不足を背景とした自動化対応やデジタル化対応、グリーン化対応で、二桁近い高い伸びの投資計画が掲げられてきた。それにも関わらず、10―12月の設備投資は3四半期連続で減少した。

 背景には、製造業の世界的な足踏みもあるが、筆者は、需要の弱さが主因ではなく、人手不足に起因する供給制約が大きく影響していると考えている。投資需要は強いが、工場建設や資本財生産が人手不足で阻まれているのだ。現に、資本財の受注残高や建設工事の未消化工事高は積み上がっている。

 筆者は、既に日本の需給ギャップは、コロナ前の景気サイクルのピーク水準までタイト化していると考えている。高齢者や女性の労働参加が限界に近づき、潜在成長率がゼロ近傍まで低下し、経済の供給能力の天井が改善していないから、経済が再開した途端に、日本国中で人手不足が深刻化した。省力化投資ですら、人手不足で実行できない。

 政府と日本銀行は、需給ギャップがゼロ近傍まで改善したというが過小評価だ。まだ生産余力が残るということだが、工場の稼働率が十分に高まっていないことや、非製造業でも旅館やレストランの稼働率に上昇余地があると判断しているのだろう。しかし、稼働率が改善しないのは、多くの業態で人手が不足しているからだ。

 人手不足は働き方改革の影響も大きい。これまで、日本では、正社員が残業時間を増やすことで景気拡大局面に対応してきたが、働き方改革で、以前のような長時間労働はもはや許されない。20年4月に中堅・中小企業にも残業規制が適用されたが、影響が現れたのはコロナ終息後だ。この4月には建設業などへも規制適用が始まり、人手不足が深刻化する。

 拙著『グローバルインフレーションの深層(慶應義塾大学出版会)』で論じた通り、一時的な効果に留まるはずの円安インフレの影響が長期化するのも、マクロ経済の需給ギャップのタイト化で、ホームメイドインフレ化しているからだ。ショックの起点が輸入物価であっても、金融引締めで対応する必要があるはずだ。