ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)は3月15日、日本国内におけるリスキリングの課題発見を目的に実施した「リスキリングに関する生活者理解のためのインサイト調査」の結果を公表し、記者向け説明会をオンラインで開催した。

定性調査には18~59歳の男女400人、定量調査には20~59歳の男女800人が参加。学びに対する体験価値から相対的に見た隠れた不満や未充足を抽出する定性調査を実施し、その後、不満や未充足に対する共感度と、それらを満たすために提供するべき新しい価値提案について定量調査で検証している。

リスキリングに対する本音は「全員参加のリレーのような強迫観念」

調査の結果、回答者の多くに自己肯定感が低い傾向が見られたことから、自分の人生に対し主体性が持てず流れに身を任せる生き方がうかがえたという。リスキリングによって新たなキャリアを切り開く以前に、自分の現在地が見えていない状況にある人が多かったようだ。

また、リスキリングに対して「クラス全員参加のリレーのような強迫観念」「永遠に走らされているシャトルラン」と表現するような回答が見られたことから、押し付けられている終わらないタスクといったイメージが抱かれている。企業の施策としてリスキリングに投資をしたとしても、こうした心理的な障壁が課題になり得る。

ベネッセの社会人教育事業本部で本部長を務める飯田智紀氏は、「理想的なリスキリングは、社会から肯定され、自分自身の可能性を見出せるものであるべき。そのためには、自分を知り、自分を生かすことがさらにリスキリングを伸ばす重要なポイント」だと語っていた。

  • ベネッセコーポレーション 社会人教育事業本部 本部長 Udemy日本事業責任者 飯田智紀氏

    ベネッセコーポレーション 社会人教育事業本部 本部長 Udemy日本事業責任者 飯田智紀氏

性別や年齢によりリスキリングの価値に認識差が

調査結果を男女別に見ると、男性は周囲や自身の意識転換に関心があり、女性は自分の人生そのものへの関心が強い傾向があったという。また、特に女性の方が現状のリスキリングに対する不満が大きいことも明らかになった。

  • 男女別にリスキリングに求めること

    男女別にリスキリングに求めること

年代別に見ると、20~30歳代はリスキリングに前向きな意識があり自分を高めることへの関心が高い一方で、40~50歳代はリスキリングへの不満が大きく期待感も少ない傾向があった。

「40~50代はリスキリングという言葉によって過去の自分を否定されるというイメージがあるのではないか。その一方で、将来に対する不安も抱えている層であるので、企業はそうした観点も意識しながらコミュニケーションを取ることが重要となる」(飯田氏)

  • 年代別にリスキリングに求めること

    年代別にリスキリングに求めること

リスキリングのタイプに合わせた8つの「学びのエンジン」

同社は調査の結果から見えた多様な価値観や感情に基づいて、個人が持つ「学びのモチベーション」を8つのタイプに定義し、タイプに合わせたリスキリングへの期待を設定した。タイプは四象限に分かれており、縦軸は「ポジティブなモチベーション」と「ネガティブからポジティブへ変換するモチベーション」。横軸は「自己肯定感や納得感」と「他社貢献や独自性」だ。

  • 8タイプの学びのエンジン

    8タイプの学びのエンジン

自分探求タイプ「メラメラ探検家」

自分探求タイプは、今のリスキリングでは自分が持っている興味関心がどう生かせるのかピンとこない課題を抱える。自分が思いもしなかったような、人生をかけて情熱を注ぎたくなる仕事に気付かせてくれるものを求めている。

自分強化タイプ「孤高の仙人」

自分強化タイプは、世間に合わせてリスキリングしても自分を見失ったままでは人生は好転しないと感じている。今までの自分を振り返りながら、社会のはやりすたりに揺らがない自分の人生を見つけられるものを求めている。

多刀流タイプ「スゴウデ料理人」

多刀流タイプは、いまのリスキリングではスキルを捨てるかスキルアップにしかつながらない気がしている人だ。今備えているスキルと新たなスキルを掛け合わせることで、他にはない希少性の高い人物になることを求める。

人間力タイプ「たたきあげ将軍」

人間力タイプは学びを通して自分を完成させ、人間力を高めるタイプ。今のリスキリングでは小手先の知識しか身に付かず、仕事の現場では信頼が得られないと感じている。新たな知識とともに、人としての素養まで高められるものを求めている。

組織変革タイプ「カリスマ村長」

組織変革タイプは、リスキリングしても今の職場では新たなスキルを発揮できる環境がないという課題を抱えている。自身が学ぶことで自分が変わるだけでなく、周囲の環境まで変えていく特徴がある。職場の環境を変える力も身に付けられるものを求めている。

逆転劇タイプ「なにくそ勇者」

逆転劇タイプは資格やスキルを取得することで、逆境を乗り越えていく。今のリスキリングは勝ち組がさらに勝つための学びであり、勝ち組ではない自分は付いていく自信がないと感じている。どんな人に対しても人生の逆転劇を優しく支援してくれるものを求める。

持久力タイプ「おきあがり戦士」

持久力タイプは、今のリスキリングは人生の回り道をしてきた自分には手遅れだと感じている。やり直しに遅すぎることはないと、いつまでも再チャレンジを始められるものを求めている。

経験学者タイプ「ホップステップ賢者」

経験者タイプは失敗や経験から学んだことを次に生かそうとするタイプ。今のリスキリングでは、失敗から得られる本当の学びにはつながらないと感じている。挑戦する意欲が湧き、失敗から学べるものを求めている。

「企業におけるリスキリングは、経営戦略と人事戦略を連動させなければならない。また、社員の自己肯定感を上げながら、社員が自分らしい原動力を特定してリスキリングできる環境も求められる。リスキリングを"ありたい未来につながるストーリー"として、社員一人一人の心に火をともすコミュニケーションが重要となるだろう」(飯田氏)