NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)とNTT都市開発は2023年11月から12月まで、「ひろしまゲートパーク」(広島県 広島市)と周辺の公道において、自動走行ロボットを活用した情報発信・巡回パトロールの実証実験を実施した。本稿では、その取り組みの概要と、実証実験から見えてきた自動運転ロボットの有効性についてお届けしたい。
「ひろしまゲートパーク」で自動走行ロボットの実証実験
今回の実証は、パナソニックホールディングスの自動搬送ロボット「ハコボ」にデジタルサイネージを搭載し、公園内の飲食店の情報や安全ルールなどを情報発信するものだ。ロボットは事前に設定したルートを自動で走行しながら、いくつかのポイントで自動的に停止することで、より効果的な情報発信を狙う。
NTT Comでスマートモビリティ事業の担当課長を務める石野亮氏は「実証を開始した最も大きな目的は、ロボットを活用した公園全体のにぎわいの創出」だと話す。
実証の舞台となるひろしまゲートパークは、国指定史跡の原爆ドーム(旧 広島県産業奨励館)からも近く、サンフレッチェ広島の新本拠地となるサッカースタジアム(予定地)や、広島城など周囲の再開発が進む地域でもある。こうしたエリアでロボットを活用した先進的な取り組みを進めることで、街全体を盛り上げる意図があるという。
加えて、少子高齢化が進む中で、遠隔からロボットを制御できる技術を公園の維持管理業務に活用する観点もあるとのことだ。人の代わりにロボットがパトロール業務や注意喚起を行うことで、労働力不足への対応についても検討する。
ロボットを活用したサイネージ掲出の有効性を確認
実証実験の成果について、石野氏は「少なくともサイネージは非常に効果があると実感している」と語る。確かに、目の前を自動で動いているロボットが近隣店舗の案内を掲出していたら、内容をのぞき込んでしまうだろう。
実際に、遠隔地からロボットを監視しているオペレーターに話を聞くと、サイネージをのぞき込んでいる歩行者は多いそうだ。オペレーターは有事の際や緊急時に介入するために監視しているのだが、今回の実証では想定よりも介入せずに済んでいるらしい。「公園というフィールドはロボットの実証がしやすい」と、石野氏。
またパトロール業務についても、走行ルート上の定点で止まって注意喚起の音声を流すと、人が注意するよりも受け入れられやすいのだという。
「2023年4月の道路交通法改正によって、ロボットの近くに操作者がいなくても走行できるようになった。そのような環境下で自動走行ロボットを走らせるのは当社として初の試みとなったが、近くに人がいなくても運用できる知見が得られたのは、次につながる新たな発見だった」と同氏は振り返った。
その一方で、課題も見えてきた。まずはサイネージを表示したロボットが、どこで、どの程度の時間停止するのが最も効果的なのかは、さらなる検討が必要となる。ロボットが走行しながらコンテンツを掲示すると、隣を一緒に歩きながら表示を読まなければならない。
表示するコンテンツの内容も、文字の大きさや色、スライドショーを切り替える頻度など、まだ改善の余地があるとしている。
ちなみに、今回の実証で苦労した点は、周辺地域の景観条例の範囲内での運用だそうだ。各地域や自治体では屋外看板を出す際の条件を定めているのだが、それらの条件はロボットによるサイネージを想定していないので、どの程度の範囲が適法なのかを確認しつつ進める点が難しかったとのことだ。
今後の展望は「人とロボットが協働する世界」
上記の通り、広島市内は今後さらに開発が進み街の様子が変わってゆく。今回はパナソニックホールディングスの「ハコボ」を活用したが、今後はロボットが活躍する機会も増えると想定されるため、将来的には複数のロボットがさまざまなサービスを展開できるような状況を目指す。
サイネージを掲出するロボットだけでなく、人が載って移動できるロボットや物品を販売できるロボットなど、それぞれのサービスに特化したロボットが協調して動けるような環境を整えていくという。
「ロボットが当たり前のように協働してサービスを提供できる世界になってほしい。人の労働力不足の解消や地域住民の利便性向上など、さまざまな社会課題の解決にもつながるはず。当社はロボット導入の際に障壁となるオペレーション体制の課題を解決するサービスである「RobiCo」なども手掛けており、ロボットがいたほうが円滑に進む仕事や、ロボットじゃないとできない仕事など、ロボットの活躍の場をさらに広げて住みよい豊かな世の中を作っていきたい」と、石野氏は展望を語っていた。
近隣エリアでは今後、新たなサッカースタジアムなどが建設される予定だ。チケットやグッズの販売、スタジアム入口までの案内など、ロボットが活躍できそうな環境はさらに広がりつつある。今後のさらなる発展が楽しみだ。