東京大学(東大)は2月27日、微小な振動である「微動」を用いて、地殻深部の変化を高い時間解像度でモニタリングする手法を開発したことを発表。同手法により、地震が火山活動に与える影響を調べることが可能となったことから、富士山や箱根直下を調査した結果、2011年の東北地方太平洋沖地震の際に水圧が上昇していたことや、火山地域では地震前の水圧に戻りにくいことなどが明らかになったことも併せて発表した。

  • 2011年の東北地方太平洋沖地震と静岡県東部地震で影響を受けた富士山と箱根地域

    2011年の東北地方太平洋沖地震と静岡県東部地震で影響を受けた富士山と箱根地域(出所:東大プレスリリースPDF)

同成果は、東大大学院 工学系研究科の垣内優亮大学院生、同・辻健教授、産業技術総合研究所の二宮啓研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、地球科学に関する幅広い分野を扱う学術誌「Journal of Geophysical Research - Solid Earth」に掲載された。

地震が発生すると火山活動が活発化することが知られており、たとえば、1707年(江戸時代/宝永4年)に起きたマグニチュード(M)8クラスの「宝永地震」の数週間後には、富士山が噴火している。現時点で最も新しい富士山の噴火であるこの宝永大噴火は、関東全域に甚大な被害を及ぼしたことが記録に残されている。

近年では、2011年の東北地方太平洋沖地震の後に日本全国の火山活動が活発になったことから、10年以上が経過した現在でも、その影響による火山噴火が警戒されている。地震後に火山活動が活発になるのは、遠方の地震でもその揺れが伝わり、火山のマグマ溜まりを刺激してガスが発泡することなどが原因と考えられている。しかし、その地殻深部の現象を高い時空間的解像度で捉えることは難しく、地震と火山活動の関係を議論することは困難な状況にあるという。そこで研究チームは今回、地震が火山に与える影響を調べるため、微動と地震波干渉法を組み合わせ、富士山~箱根火山周辺(150×150km)の地下約10kmまでの地殻深部の変化を推定したとする。

微動とは、ヒトには感じられないが地震計での記録が可能で、波浪や風などによって常に発生している地球の振動だ(一般的な地殻の探査やモニタリングではノイズとして扱われている)。また地震波干渉法は、地殻深部を伝わる波の速度である「弾性波速度」の時間変化を捉える手法。弾性波速度は地殻の硬さや水圧に関係し、その変化から、地殻の硬さやマグマだまりの動態をモニタリングすることができる。つまり両者を組み合わせることで、連続的に火山深部の変化のモニタリングが可能となるのである。

しかし微動のすべてがモニタリングに利用できるかというとそうではなく、多様なノイズも含まれており、これまではモニタリングの時間解像度は数日だったとのこと。そこで今回の研究では、地震計のすべての振動成分の情報を利用することや、特異値分解などのデータ解析技術を導入し、1日の時間解像度で火山を含む地殻をモニタリングする手法を実現したとしている。

研究チームによると、同手法によりモニタリングの時間解像度が向上したため、2011年の東北地方太平洋沖地震(M9.0)と、その4日後に富士山直下で発生した静岡県東部地震(M6.4)による地殻への影響を区別して評価することが可能になったとのこと。たとえば、東北地方太平洋沖地震の時に富士山や箱根火山直下で、弾性波速度が0.2%程度低下するという大きな変化が生じていたことや、火山地域では弾性波速度が地震前の状態に戻りにくいことが判明した。それらの結果から、東北地方太平洋沖地震によって、富士山や箱根などの火山地域ではガスや流体の圧力が上昇したことがわかったのに加え、上昇した流体の圧力が地震前の状態に戻りにくいことも明らかにされた(火山噴火前にも流体の圧力が上昇するとされている)。つまり、今回の手法によって地震が火山に与える影響を捉えること、さらに火山活動の予測に寄与できることがわかってきたという。

  • 東北地方太平洋沖地震と静岡県東部地震で変動した地殻深部(約5km)の変化

    東北地方太平洋沖地震と静岡県東部地震で変動した地殻深部(約5km)の変化(出所:東大プレスリリースPDF)

今回の手法で得られる情報は、火山の深部を捉えた新しいものであり、これまでの地表で得られるGPSなどの情報と統合することで、より正確に火山のモニタリングが可能になることが考えられるとする。

研究チームは今後、地震断層や火山を常時モニタリングするためのシステムの構築を目指しているといい、今回の研究は、地震が遠くの火山を活発化させたり、別の地震を誘発させたりするメカニズムを解明することを目的に始めたものだとする。今回の成果から、地震が富士山や箱根火山に与える影響がわかってきたが、現在の微動を用いたモニタリングシステムでは深度方向への空間解像度が低く、また深度も10kmより浅い部分のモニタリングにとどまっている。今後は、さらに深い深度までのモニタリングを高い時空間解像度で実施するため、人工信号発生装置や光ファイバセンシングなどの新たな機器の導入も進め、より精度良く火山活動を予測することを試みるとしている。