楽天グループが2月14日発表した2023年12月期の連結決算(国際会計基準)は最終損益が3394億円の赤字(前の期は3772億円の赤字)だった。楽天市場を含むインターネットサービス事業や金融事業は好調だったが、「携帯事業の設備投資」という重荷が全体の足を引っ張った。
しかし、14日の決算会見で会長兼社長の三木谷浩史氏は、「新たな成長フェーズに突入し、黒字化への道筋をつくっていく」と、自信を見せた。一体どのような道筋を立てているのだろうか。
三木谷氏「新たな成長フェーズに突入する」
携帯事業の営業損益は3375億円の赤字(前の期は4792億円の赤字)だった。携帯の契約者数は23年12月末時点で596万件と9月末と比べて約80万件増えたが、契約1件あたりの売上高を示すARPUは1986円と前四半期に比べて60円下がった。楽天グループは、楽天市場に出店する中小企業などの取引先を新規顧客として開拓を進めているが、法人契約は個人向けより単価が安いため、結果的にARPUの減少につながったとしている。
一方で、かねてより課題となっていた通信品質の改善に向けた取り組みは進んでいる。23年4月にKDDIから回線を借りるローミング(相互乗り入れ)契約を結んだことで、東名阪の繁華街でも回線を利用できるようになった。また、23年10月に電波がつながりやすい周波数帯「プラチナバンド」を獲得し、同社はこの周波数帯を使ったサービスを2024年中にも始める予定。
楽天グループは、携帯事業の2024年12月期の目標として、契約者数を800~1000万件、ARPUを2500~3000円まで引き上げる目標を掲げている。さらなるコスト抑制を進め、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)ベースで、2024年12月までに月次黒字化、2024年12月期通期黒字化を目指す。
14日の決算会見で会長兼社長の三木谷浩史氏は、「2024年度は新たな成長フェーズに突入する。携帯事業には社会的意義があると確信している。一般の利用者も含めて開拓をさらに進め、黒字化への道筋をつくっていく」と述べた。
6人家族で10万ポイント獲得できる「紹介プログラム」
携帯事業の黒字化に向け、同社はさまざまな施策を展開している。そのうちの一つが2月13日に発表され、同21日に開始する「最強家族プログラム」だ。
同プログラムは、競合他社よりも割安な価格設定の料金プラン「Rakuten最強プラン」に家族で加入すると料金が1回線あたり110円割引されるというもの。18歳以上の代表者と同じ名字であれば。年齢や契約住所は問われず、最大20回線まで利用できる。
ARPUの減少につながりそうな施策だが、三木谷氏は「私自身、『楽天モバイルに加入してほしい』とさまざまな人に営業しているが、『他のキャリアの家族向け割引に加入しているから』と断られることが多い。じゃあ家族ごと引っ越そうよという話だ」と同プログラム開始の背景を説明し、「若年層はインスタグラムやTikTok(ティックトック)などたくさんのSNSも使うため、データの利用量が多いはず。必ずしもARPUがダウンするとは限らない」と述べた。
また同社は、楽天モバイルを紹介する人、そして紹介される人に楽天ポイントを付与する紹介キャンペーンも展開している。紹介する人へ1人につき7000ポイント、紹介される人に最大1万3000円ポイントが付与される。同キャンペーンは先述の最強家族プログラムにも適用されるため、「家族でみれば(1回の紹介で)2万ポイントを受け取れる。6人家族で考えれば合計10万ポイントを獲得できる。これは非常に有益なことだ」と、三木谷氏はアピールした。
月30GBの音声SIMをすべての株主に1年無料提供
さらに、楽天グループは14日、23年ぶりに年間配当金を無配とすることを発表したが、同時に、23年12月末時点で同社の株を保有する株主すべてを対象に、月30GBまで使える自社の音声通話付きデータ通信を無料とする1年分の優待を提供することも発表した。
4月下旬から順次配布される予定で、利用期間の経過後は自動的に解約され、株主が解約の手続きをする必要はないとのことだ。「すべての株主に楽天モバイルのサービスについてさらに理解を深めてもらう機会を提供する」(三木谷氏)
三木谷氏「手の内は言えないが施策を追加していく」
一方で、携帯事業の黒字化には、契約者数の増加だけでなくARPUの改善も必須だ。ARPUを2500~3000円まで引き上げる目標を掲げている楽天グループだが、同社が示したARPUの推移や、最も高いプランを3000円強とする現在の料金設定を踏まえると、ARPUが頭打ちになっている可能性もある。契約数が目標の800万件に届いても、ARPUが伸び悩んでいる状況であれば、契約をさらに増やす必要が出てくるだろう。
三木谷氏はこうした現在の状況を受け、「ARPUを2500円以上に持っていこうとすると、手の内は言えないがいくつかのサービスや施策を追加していく必要がある」と述べていた。