近年、ECサイトで商品を購入することが当たり前となりつつある。企業としても、顧客との新たな接点としてECサイトに目を向けるのは当然の流れだ。ただ、自社でECサイトを構築・運営していくとなると、ある程度専門的な知識も必要となるため、ためらう企業もあるだろう。大手ECモールに出店する方法を選ぶケースも少なくない。
視覚に不自由を感じている人向けの電子デバイスの開発・販売を行うViXionは、2023年10月1日に自社のECサイトを公開した。実はECサイト構築を検討し始めたのは同年8月末からであり、わずか1カ月でサイト公開までこぎ着けている。既存ECモールの利用という選択肢もあった中、同社はどのような経緯で自社ECサイトの構築を決めたのか。なぜ、これほどまでにスピーディーな公開ができたのか。今回はViXion 経営企画部長の岑弘一郎氏と同 経営企画部 マネジャーの小島健太郎氏に話を伺った。
クラウドファンディングの反響を受け、ECサイト構築を検討
ViXionは2023年6月末から9月末まで、自動でピントを調節するオートフォーカスアイウェア「ViXion01」のクラウドファンディングを行った。クラウドファンディングでの反応は好評で、最終的に支援金は4億2千万円に到達したと岑氏は語る。この反応を受け、同社ではクラウドファンディング後にどう製品を販売していくかを検討、ECサイトで予約受付をする方向性が決まったのは8月末のことだった。
「せっかくこれだけの反応をいただいたので、クラウドファンディング後も切れ目なくお客さまとの接点を持つために、すぐにECサイトで予約受付を開始したいと考えました。そこで、サイト公開日を10月1日に設定したのです」(岑氏)
モールではなく、自社運営を選んだ理由とは
早速、ECサイトをどのように構築するか、ViXion内で検討が始まった。出品や出店が容易なECモールの利用も候補に挙がったが、大きな懸念点もあった。ViXion01はクラウドファンディングの支援者から優先して届ける必要があるため、10月1日時点では予約販売というかたちになることだ。また、同社としてはViXion01をさらに改良するため、より顧客とのコミュニケーションが密に取れるかたちを望んでいた。そこで、ECモールではなく、自社でECサイトを構築・運営することを選んだという。
では、どのように自社でECサイトを立ち上げるのか。岑氏らはECプラットフォームを提供する企業をいくつか比較検討し、予約販売ができること、サイトの立ち上げがスピーディーに行えること、手数料の安価さといった条件に照らし合わせた。その結果、ホームページ作成をサポートするペライチが浮上したのである。
「我々にはECサイトの運営ノウハウなどがそれほどありませんでした。ペライチさんを選んだ決め手は、伴走してもらえることと、今後やっていきたい要望を『一緒につくり込んでいきたい』と言っていただけたことです」(岑氏)
こうして、ViXionとペライチの打ち合わせが本格化したのは、9月の2週目だ。ViXion側は岑氏を含めた3名体制、ペライチ側は営業スタッフ1名がサポートするかたちで、Slackを中心としたコミュニケーションを進めた。途中、やり取りをよりスムーズにするため、ペライチ側からはプロダクトマネージャーも参加し、その場で改修の判断ができる体制に変更したという。
とは言え、公開予定日までは1カ月ない状態だ。スピード感を持って進めることができた要因について岑氏は、初回打ち合わせ時にペライチ側から出来上がりのイメージを見せてもらえたことが大きいと話す。ViXionではそれをベースに、ペライチが提供するデザインテンプレートを参考にしながら、ECサイト構築を進めていった。こうして10月1日、無事ECサイト公開にこぎ着けたのである。
公開初日の経験を活かし、より使いやすいサイトに
公開日当日、ViXionでは“想定外”のことが起こっていた。実はこの日、偶然にもViXion01がテレビ番組に取り上げられたのだ。放映後、ECサイトには通知音が鳴りやまないほどの購入申し込みが届いたという。初めてのECサイトの操作、かつ想定以上の件数を前に、戸惑いもあったと言うが、「随時ペライチ側にサポートしてもらい、何とか乗り切った」と岑氏は振り返る。また、この経験から、より顧客管理がしやすくするために、早々にシステム改修にも着手し、顧客情報の修正が効率良くできるように修正した。
「『10月1日に公開できていなければ、今は無い』といっても過言ではありません。テレビ番組に取り上げられたことで、予約受注が大きく伸びました。もしもサイトを公開していなければ予約の受け皿がなく、機会損失になっていたでしょう」(岑氏)
ECサイト公開から約4カ月、小島氏はECサイトの使用感について、「シンプルなUXで、派遣社員の方にも手順を教えやすく、皆で(使い方を)シェアしやすい」と語る。現在、すでにサイト上でのアクセス解析や、他のデータと合わせた顧客データの管理なども行っているという 。
また、ECサイト公開後には、PaidyとAmazon Payの決済機能を追加した。現在は約半分のユーザーがAmazon Payを選択しているとのことで、「改修がスムーズに進んだことの効果を感じている」と岑氏は言う。小島氏は「クレジットカードの情報入力が面倒で離脱してしまうケースも想定されるが、この改修により、さらに使いやすいサイトになった感がある」と語った。
ViXionでは現在、ViXion01の次のモデル開発にも着手しており、今後はECサイト上のラインナップを増やしていきたいと考えている。また岑氏は「顧客とのコミュニケーションを深めていくためにも、サイトをよりリッチにして、ブランディングをしっかりと行っていきたい」と話した。
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わずか1カ月で自社のECサイト構築・公開を実現したViXion。今後、ECサイト運営を検討する企業はぜひ参考にしていただきたい。